2003年グラミー賞の盛り上がりぶりは今でも覚えている。米国の、いや世界の注目はただ一点、このノラ・ジョーンズが一体何部門にノミネートされるのか、そして、何部門を受賞するのかという事がこのアワードの最も注目された事であった。結果、ノミネート時点で全8部門(最優秀シングル、アルバム、楽曲の三冠、及び最優秀新人賞も含まれていた)、そして、その8部門をすべて受賞した。新人賞も含めての四冠達成は、1981年のクリストファー・クロス以来の快挙だった(楽曲の受賞者は作者のジェシー・ハリスの表記であったが)。
ジャズも適当に聴いているので、無論、ノラのことは知っていたが、まさか、こんなことになるとは思いもよらず、慌ててCDを聴きなおしたのを覚えているが、そうか、この作品、自分の中では全くジャズ音楽という意識をしていなかったなぁと当時改めて思ったものだった。そう、ノラは例えば、キャロル・キングとか、ちょっと違うけれどリッキー・リーとか、そういう音楽の延長上にあるものだと思っていた。私に取ってジャズというのは、どうしてもビバップ、ハード・バップ、フリー辺りが守備範囲なのでそもそもジャズ・ヴォーカル系はそんな気合を入れて聴いていないので、その辺りはとても迂闊だった。この作品はジャズとして評価されたからこんなに高い支持を得たのだと思う。ノラはブルーノートと契約、当然のことながらジャズ界の新星として期待されたし、日本でもジャズ・シンガーとして、ジャズ界の希望の星の様な扱いだったのを覚えている。ジャズのヴォーカルというと勝手にスタンダードを歌ったりとか、張り上げ系のヴォイスで歌いあげるというのが私のイメージであったが、こんなにしっとりとアルバム1枚分を歌いあげているアーティストっていうのはそれまでも余りお目に係っていない(だから、キャロル・キングとかリッキーくらいしか思い浮かばなかったのだ)から、本当にアメリカでの凄い人気とグラミーがなかったら多分、本当に聴きなおすことがなかったのだと思う。アワードなんてレーベルの勝手な鍔迫り合いだとオスカーもグラミーも(一緒に論じてはいけないが無論日本レコード大賞も)商業音楽化した記念大会で、自分には何もメリットがないと思っていたが、こういうケースでアーティストの作品を聴きなおすきっかけになるというのなら歓迎だ。尤もグラミーはビリー・ジョエル辺りがアルバム賞を取った頃から、全く信頼性を無くしてしまったが・・・。そもそも彼女の音楽的才能は、父がシタール奏者という特異な経歴に関係しているのであろうが、教会で歌ったり、サックスを吹いたりという音楽に肯定的な幼少時代と、北テキサス大学でジャズ・ピアノを専攻したが、それよりも転機は大学3年の夏、友人とニュー・ヨークの旅行へ行って際に、「この街が私に留まれと言っている」とそのままマンハッタンに居座って、大学には戻らなかったが、そこで出会った刺激的な実際の生きた音楽シーンが、彼女をスーパースターに育てるきっかけになったのだと言う。まぁ天才にしか分からない閃きというものなのだろうか。
このアルバムはジャズ・アルバムとしては記録的は1800万枚を全世界で売った。だが、私も含めて、一体このアルバムの何処が「ジャズ」なんだうという人は多いと思う。だが例えばこれがカントリーだって、ブルースだってどうでも良く、要はノラ・ジョーンズという偉大なアーティストが誕生したということと、そう、環境というのは改めて凄くて、環境というのが人を導き育てる、勿論、そのヒントに気付く研ぎ澄まされた感性を持っていることと、決めたら必ずやるという実行力も必要なのだとは思うのであるが・・・。
こちらから試聴できます