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国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

PCB廃棄物処理施設の受難

2007年10月10日 | その他
 一昨年(2005年)11月22日、東京(江東区地先)でのPCB廃棄物処理事業がスタートした。しかし昨年3月28日、「プラント廃水の流出事故」が起きて操業がストップ。実施主体の日本環境安全事業株式会社(JESCO)東京事業所はその後始末に追われていたが、同年5月25日、今度は別の工程で「PCB濃度が異常数値を示す」事故が起こった。(写真はグローブボックスでの作業)

◆解体・洗浄・分解
 東京事業所でのPCB廃棄物処理方式は三菱重工業の水熱酸化分解である。その工程は①受け入れ・保管、②抜油、③解体・分別、④洗浄、⑤PCB分解の5つに大別されるが、これを高圧コンデンサと高圧トランスについて概説すれば以下のようになる。
《抜油・解体工程》
 コンデンサの構造は容器の中に紙とアルミ箔でできた素子が格納され、PCBが絶縁油として充填されている。したがってPCBだけでなく、容器や部材も安全・確実に処理される必要がある。処理工程はまずコンデンサ全体を液中切断装置というエリアに入れ、遠隔操作で切断の上、PCBを抜き取る。比重の大きいPCBは液(水)の底に沈み、後段のPCB回収装置に入る。切断のあと、作業員が内部の素子をグローブ・ボックス(写真)を通して取り出し、残った部材は洗浄工程に送る。
 トランスは蛇口にホースをつなぐ要領でPCBを抜き取り、そこへ洗浄液を挿入して残ったPCBを洗い出す。そのあとトランスとコアはさらに細かく切断され、洗浄工程に送られる。
《洗浄工程》
 洗浄設備の中で石油系の洗浄剤が部材の内部に入ってPCBを溶かし出す。コンデンサから取り出された素子は細かく裁断されるが、素子を構成する紙や木は洗浄できないため加熱されてUFミルという超微粒粉砕機に送られ、スラリー(泥状)化される。そのスラリーはPCBといっしょに分解工程に入る。
《PCB分解工程》
 回収されたPCBは反応炉に投入され、26.5メガパスカルの圧力と370℃の熱によって分解される。この温度と圧力領域が亜臨界状態であり、この状態での反応を水熱反応という。生成された水と食塩は排水モニタリングでテストされ、合格したら公共下水道に放流して完了となる。
 では3月に起きた廃水漏れ事故とはどのようなものだったのか。同事業所のホームページから一部を要約しておく。

◆現場は緊張の連続
 「3月28日午前5時20分ごろ、水熱酸化分解運転中、不合格廃液の発生が多発し、運転継続が困難になったことから廃液を屋外仮設タンクに送水処理していたところ、微量のPCBを含有する廃水を流出(オーバーフロー)させてしまいました (中略)。原因は一部のPCB廃液の粘度が高かったため、攪拌が不均一になり、PCB分解が不十分となって廃水の発生が増加。そのため施設内の処理廃水タンクの容量が超過し満水状態となりました。そこで施設の設置許可では認められていませんでしたが、代替措置として屋外にタンクを仮設しました」。
 次いで5月、二度目の事故が前出のコンデンサ液中切断装置周辺で起きた。5月29日付けの同社プレスリリースによると、「現在当社のPCB廃棄物処理施設は(3月の事故以来)操業を停止・点検中の状態(装置内にPCBが残置されたまま)にあるが、5月25日午後9時ごろから処理施設のコンデンサ解体室の排気口の一部でPCB濃度に異常値が出た」とある。
 排気中のPCB濃度は1Nm3中2mgであり、東京都および地元江東区と協定した自主管理目標値は0.01mgであった。身も蓋もないいいするなら「実に200倍のPCBを排出した!」ことになるが、同文書は後段で以下のような釈明を行なっている。
 「敷地境界の大気は0.0005mgと微量であり、周辺環境に影響を及ぼす数値ではなかった」。
 2001年7月、PCB特措法が施行され、国策としてのPCB処理施設は結局弱いところに押し付けられた。その代償として地域との協定数値はこの上なく厳しいものとなり、現場にいわせれば針一本の違反も許さぬ緊張を強いられているという。「(二度目の事故は)黙っていたら済んだ話じゃないのか」と知り合いの関係者にいったら、「冗談じゃない。必ずタレ込み(内部告発)がある」と彼は答えた。
 人間的にも大らかで、従業員や地元民の受けもよかった大出通俊・東京事業所長は二度目の事故後、更迭されている。
 昨年7月18日、江東区内のホテルで開催された「第10回東京ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理環境安全委員会」でJESCO本社は各委員から予想以上の追及に晒されることになった。

◆予想外に多い初期トラブル
 「なぜ2回目(の事故)が起きたのか。前回の事故の総括が不十分」「運転状況やヒヤリハット事例の一覧もHP上に公開すべき」などの批判・提言はともかく、地元の江東区議や自治会連合会長の委員からは「三度目(の事故)を起こしたら江東区から出て行ってもらう」との発言が出て、傍聴していた地元住民から逆に怒りの声があがった。「そんなプレッシャーをかけたら、JESCOは間違いなく事故を隠す」。
 東京事業所のある幹部から聞いた事故の背景には二つの要因があった。ひとつは化学分解処理なるものが持つ技術的不安定さ、もうひとつは搬入されるPCB廃棄物の質の悪さである。
 後者についていえば去年の暮れごろからコンデンサと安定器の処理工程でトラブルがつづいていた。特に安定器にはアスファルトタイプと樹脂タイプがあり、現在はアスファルト仕様のものは生産中止になっていたから、入ってくるのは樹脂タイプばかりという予想が外れた。安定器はPCBを微量に含むコンデンサとトランスから成っているが、それを固定する充填剤として古くからアスファルトが使われてきた。したがって破砕機にかかると熱を帯びてベタベタになってしまう。特に紙や木が分離できないとうまく洗浄できず、処理がそこで止まってしまうのである。さらに事故の遠因となった「粘度の高いPCB廃液」とはドラム缶入りのKC500(カネクロール)だった。水熱分解にかける際、元素分析を行なうが、それに合わせて苛性ソーダや酸素を入れて調整する。しかし粘度が高いと分析が正確にできず、結果として不合格品が多くなる。そこに初期トラブルが重なって緊急停止が繰り返され、処理液タンクが糞詰まり状態になった。仕方なく外にタンクを設置したのだが、そのタンクが溢水事故を起こした。
 前者の技術的トラブルも連日のように起きていた。たとえば反応器の安全弁が規定の26.5メガパスカル以下で作動してしまう、あるいは反応器の内側からクロムが溶出するというアクシデントも起きていた。反応器は一種の圧力容器なので内側にインコネルというニッケルとクロムの合金が張られている。内部の温度を上げれば分解能力も上がるのだが、その分、クロムの析出も多くなる。
 技術的安定度からいえば焼却(高温熱破壊)がベストと考える専門家は多い。しかしそれが法的に否定されている以上、十分に完成されたとはいえぬ化学分解によるほかはない。しかもここでの不幸はスタート直後から3基フル運転を強いられていたことである。
 このことについて担当者は次のように苦しい胸のうちを明かした。
 「長期にトランスなどを保管していた事業者からは早く持って行ってくれと催促されますし、平成27年(2015年)には法律(PCB特措法)によって事業完了が至上命令になっています。その上初期トラブルの連続で、フル運転せざるを得ませんでした。2基運転で1基が予備という形が理想的なのですが」。
 すでに豊田市のPCB廃棄物処理事業でも一昨年11月21日、廃液漏れ事故が起きている。
 全国5ヶ所の処理施設は最初から重い十字架を背負ってのスタートになったようだ。
 なおJESCO東京事業所は06年10月23日、条件付で運転を再開した。


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