循環型社会って何!

国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

偽装生コン事件で見えてきた関連官庁の身勝手(下)

2008年09月15日 | 廃棄物政策
◆触らぬ神に
六会事件を番組化するため取材に来た「噂の東京マガジン」のディレクターが環境省へ電話したら、ケンもホロロだったという。環境省の本音は「いまさら寝た子を起こしたくない」ということだろう。その後もマスコミの取材には一切応じていない。
 ところで東京ドームにして12個分という膨大なスラグの捌け口が見つかったものの地元の反対でそれが頓挫しているケースがある。
 2003年10月、小泉による地域限定規制緩和プラン、構造改革特区構想に名乗りを上げたのは宇都宮市郊外にある大谷石採石場の廃坑を溶融スラグで埋め戻そうというグループだった。もともと廃棄物処理法は「地下空間を利用した一般廃棄物の埋立て」について安定五品目を除き禁止している。溶融スラグも例外ではない。
 平安朝時代から切り出しが行なわれていたという大谷石の鉱脈は約10億トンと推定されている。途方もない数字だが、25年ほど前から素人も混じった一部石材業者の乱掘によってかなり「危ない廃坑」がボコボコ生まれた。いまなお地元で語り草になっているのが1989年2月11日に起きた大谷坂本地区の大陥没である。廃坑の埋め戻しは焦眉の急となった。その実行を石材業者が自前でやるか、ビジネスとして行なうかで地元は二分された。しかも廃坑を産廃業者に1億円から2億円で売却する不埒な産廃業者も出現し、一部産廃業者は安定五品目以外の有害廃棄物を平気で投入して火災事故や有害ガスを発生させ、地元の怒りを買った。
 埋め戻しには高価な砂、土砂を購入する必要があるが、一時、安定五品目や焼却灰も検討された。そんな時、埋め戻しビジネスを目論むグループが地元選出の自民党代議士を通じて聞き込んだのが前記の構造改革特区構想である。その後水面下で着々と調査を進め、ビジネス計画を練り上げた。細かな経緯は省略するが、2004年2月、各方面への工作が功を奏し、「大谷地区に限り溶融スラグによる埋め戻しを認める」との認定が首相官邸から下りたのである。
 埋め戻しビジネスの中心人物は宇都宮市でもいわく付きの市議会議員であった。地元政財界とのつながりも深く、それだけに情報量も豊富だった。ビジネスが成立する条件は「溶融スラグを自治体から引き取る際、処分料金をつけてもらうこと」であった。その市議を中心とするグループはその条件を受け入れてくれそうな自治体名をリストアップし、すでに個別の下相談も進んでいる気配だった。その市議にいわせれば「JIS化したって自治体が(スラグを)持て余しているのは事実だ」とのこと。リストの一部を以下列記してみよう(順不同)。
 東金市、八千代市、横浜市、東京多摩川衛生組合、八王子市、所沢市、川口市、さいたま市、東埼玉資源環境組合、潮来市、日立市、前橋市、富士吉田市、大月市、白根広域、水上広域、大田原市、前橋市、栃木市、上越市、いわき市などである。
 すなわち大谷を中心に100キロ圏内から15万6,000トン、150キロ圏内から2万5,900トンのスラグを入手する手筈になっていた。
 だがこの計画はいま頓挫している。環境省は最初、この規制緩和には乗り気ではなかった。何度も行なわれた構造改革特区有識者会議でも当時の担当者がかなりの抵抗を試みていた。最終的に最低条件として事業化は民間企業主導ではなく、地元自治体(宇都宮市)が事業申請をしなければならないとしたのである。その場合、廃棄物処理法の適用を受け、自治体は処分業の許可や設置許可をとる必要がある。
 宇都宮市の場合、その許可をとるためには「設置者(市)が関係地域内の自治会と環境保全協定を結ぶこと」が市の要綱で決まっていた。問題の関係自治会は6つあるが、そのうち2つが計画に絶対反対の姿勢を崩さない。それほど廃坑処分場で苦しめられてきたのである。そのため特区認定の下りた2004年から本年(08年)1月まで宇都宮市は事業化申請を見送らざるを得なかった。
 もし大谷でこの計画が成功していればいずれ規制緩和は全国に波及し、日本中の穴という穴に溶融スラグがぶち込まれることにもなりかねない。戦時中の防空壕や中部地方を中心とする亜炭の廃坑など、日本には予想外に「危ない穴」が多い。滞留するスラグの処分には絶好の温床といえるが、その予兆に早くから警鐘を鳴らしていたのは岐阜県御嵩町長だった柳川喜郎氏である。この町も古くから亜炭問題で悩まされていたが、柳川氏は溶融スラグでの埋め戻し案には一貫して反対していた。
 不幸中の幸いというべきか、小泉構造改革自体、もうひところの勢いを失い、構造改革特区申請の数も激減している。
 環境省にとって溶融スラグ問題は一種の悪夢のようなものであり、触らぬ神に祟りなし、を決め込むほかはないようだ。

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