循環型社会って何!

国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

バグフィルターが破れるとき

2010年04月12日 | 廃棄物政策
12日のブログ、「立川市の迷走」に問い合わせがあった。神奈川県二宮町の桜美園焼却炉についてもっと知りたいという。
 現地へは4年ほど前に訪問したことがある。おそらく史上空前といってもいい劣悪な施設で、住宅地が典型的な盆地、施設は小高い斜面の上にあり、住人の幾人かはますます悪化する気管支疾患で引っ越しを余儀なくされた。
 とりあえず桜美園問題について紹介しておく。まず当時(2006年)、ある町会議員が書いた個人ブログである。

◆年の初めは雪・じゃなくて桜美園の灰だった
 皆様にとって本年が充実した年となりますように。さて、大晦日から正月3が日、お休みしていた桜美園焼却炉も4日から再開。とたんに住宅地には臭いが漂い、灰も降って参りました。
 今日の灰は「まるで雪が積もったのかと思った」というぐらい、目に見えるものでした。
住民の方の緊急コールにより県の職員も平塚から駆けつけて町職員に現場聴取。私も住民の方とともにモニター室でチャートなどを確認。そこには煤塵が沢山でていることがわかりました。
 今日は特に午前11時から12時にかけて、煤塵が多く飛んでいました。職員の説明では、基準値はもっと高いし、一瞬煤塵が出ても経過を見ればまた治まったので炉を止めるほどではない、とのこと。
 しかし、かつてはそれほど煤塵が出ているようなチャートではなかったような気がします。またもや”基準値ではないから”と説明されましたが、煤塵、つまり、有害物質が沢山含まれ煙突からでる灰は、本来バグフィルターにより除去されるべきものです。
 今日はゴミ量も多いため、通常2炉の体制を3炉の稼動。投入ゴミには樹脂類も多々見受けられました。
 灰が煙突から「ザザ漏れ」(ある人の言葉)では、ゴミの変動に対応できるはずもありません。指導監督権を持つ今日の県の現場聴取も含め、後日、検証結果を確かめに行きます。
二宮町議会議員 根岸ゆき子 2006 / 1 / 5

◆桜美園問題の経緯
 桜美園とは、神奈川県二宮町一般廃棄物処理施設(し尿処理、ごみ焼却炉、最終処分場)の総称である。現在は閉鎖しているから「だった」というべきかも知れない。しかし「桜の花の美しい園」とはよくぞつけたものである。
 2002年5月、周辺住民は施設管理者である二宮町とS不動産販売業者に対し桜美園の操業停止と生活被害・健康被害の損害賠償を求めて横浜地裁へ提訴。2003年1月には二宮町への指導を怠ったとして神奈川県を提訴している。訴訟弁護団のチーフは梶山正三弁護士だった。
 桜美園は1976年にし尿焼却施設、81年には焼却炉3基と最終処分場が操業を始めた。しかし焼却炉は燃焼効率の劣悪な固定床バッチ炉であり、ごみピットも高い煙突もないという状況だった。処分場には滲出防止シートも覆土もされていなかった。
県からは建設に際し公害防止設備(脱煙装置)をつけるよう指示があり、とりあえず設置はしたものの、薬剤を使用した履歴がなく、ほとんど作動させていなかったという。
 桜美園からの被害は1992年頃、施設に隣接して大規模な住宅地が開発されたころから表面化した。桜美園建設以前、1971年の都市計画ですでに宅地化が承認されており、くぼ地だった予定地に住宅が建つことがわかっていながら二宮町は公害防止の指針も満たさない桜美園を建設したことになる。
 桜美園の周辺地域に入居がはじまったのが1993年ごろだが、早くも焼却施設からの被害が報告されている。
「煙突がなく燃焼の悪い焼却炉からはブスブスと黒煙が立ち上り、昼過ぎにごみ投入が終了して重油の供給がなくなると、し尿焼却の排煙を含む不完全燃焼の青い煙が住宅地を包む。風のない日は青いフィルターをかけたような状態が一日中続いた」(二宮町桜美園問題を考える会々報)。
 しかし97年にはダイオキシン規制の廃掃法改正が施行されるにもかかわらず、町はふたたび完全燃焼不可能の固定床式焼却炉の新設と旧処分場の上に重ねて新処分場を建設する準備を着々と進めた。
 処分場用地はある生命保険会社が寄贈したもので、住宅地と施設の間をさえぎっていた山林を伐採したため、住宅地に流れ込む有害な煙のトンネルが出来たような状態となってしまった。
 98年には焼却炉にバグフィルターが設置されたが、燃焼ガス量の変動が大きい固定床式バッチ炉にはその効果は疑問であり、高温燃焼で気化された重金属・ダイオキシンは捕捉できないなど、ただ取り付けただけとしかいえない結果となった。
「洗濯物が臭い、窓が開けられない、家や車が異常に汚れる、化学物質過敏症になった、目がおかしい、子供のアレルギーがひどくなったなど、“湘南の緑と風”のうたい文句に憧れて移り住んできた住民にとっては『どうして?なぜ?』という怒りは当然のことです。その怒りはこのような劣悪施設を建設したうえ、その存在を隠し、汚染実態を認めず、改善のための方策を明確にせず、住民との話し合いすら拒んできた行政に向けられるのは当然でした」(前出会報)。

◆バグフィルターが黒焦げ
上記の会報で事務局の国弘氏(名は不詳)が以下のような事故報告を行っている。
《ところが、今年(2006年)3月の年度末に信じられないようなバグフィルター事故が起きたのです。それは桜美園焼却炉3号炉の耐火物交換工事、バグフィルターろ布交換工事後の乾燥運転時のことです。取り替えたばかりの新品のバグフィルター384本を全部とりかえなければならないほどバグフィルターが黒こげになり破れました。これまで同様の工事は焼却炉を建設したS社が行ってきましたが、今回は初めて別の業者である大手のH社が行いました。H社が提出した原因調査結果報告書によれば乾燥運転時に油炊きバーナーから出た重油ミストがろ布にコーティングされ、負荷運転時に高温になったことでろ布上の未燃炭素分が酸化・蓄熱し、炉停止時に排ガス量の低下で冷却効果が低下し、重油ミストが燃焼したというものです。同様な工事は過去何回も繰り返されてきたのになぜ今回はこのような事故が起きたのでしょうか。
 今後の対応策としてH社は「乾燥運転時にはバグフィルターをバイパスする、もしくはろ布をはずしておく」と報告書の最後に提案しています。このようなバグフィルター黒こげ事故を防ぐには、驚くことに「排ガスをバグフィルターを通さずに別ルートで無処理のまま放出する」ということなのです。これまで事故がなかったとすれば、このようなバイパス運転をしていたということになります。平成15年3月に日本環境衛生センターが行った桜美園じん芥焼却場精密機能検査報告書には時間ごとの日常作業を示す表が作成されています。その表によればバグフィルターは24時間稼動とされていますが、ガス冷却塔と有害ガス除去装置は朝の立ち上げ時の1時間と、灰だし終了後の夜10時以降から翌朝の立ち上げまでの11時間はすべてオフになっています。冷却塔で高温の燃焼ガスを冷やさなければバグフィルターに通すことはできません。冷却塔や有害ガス除去装置がオフになっているということはこの時間帯はバイパス運転をしているのではないでしょうか。365日間ずっと半日もの間(日曜日は1日中)、拡散もされない高濃度の無処理の排ガスを周辺住民は吸い続けていることになります。またバイパス装置が設置されているということはそれが何かと都合よくたびたび利用されているのではないかと疑わざるを得ません。(梶山正三弁護士によれば、バイパスは違法操業の温床として埼玉県では禁止をしているそうです)。SPMという微粒子煤塵、重金属、ダイオキシンなど有害化学物質の人体に与える悪影響が最近顕著に報道されていますが、「何がつくられるかわからない化学合成プラント」と言われる焼却炉からは多種多様な有害化学物質が多量に排出されているのです。このような数々の疑惑のある中、桜美園からの健康被害がないなどと言えるでしょうか》。

◆二宮町の現在
二宮町は結局、2008年9月に桜美園を閉鎖。昨年(09年)9月からは生ごみ積み替え施設になっている。 2006年ごろから平塚市、大礒町と広域組合を発足する筈だったが内部紛争もあり、いったん二宮町だけが抜けた。しかし平塚市が大きな焼却施設をつくることを受け、ふたたび広域に加わることになった。以下、神奈川新聞「カナロコ」欄(2010年3月30日付)の記事。
《ごみ処理を広域で効率的に行う計画を進めてきた平塚市と大磯、二宮両町は30日「1市2町」の枠組みで業務を推進する覚書を取り交わした。同計画をめぐっては二宮町が2006年秋に脱退。昨春の復帰要望を受けて、改めて足並みをそろえることとなった。13年春には新たな焼却場が完成し、長年の懸案だったごみ処理の広域化が動きだす。一方で、処理能力には限度があり、ごみ減量化の徹底が課題となっている。
 平塚市の中戸川崇副市長、大磯町の吉川重雄副町長、二宮町の坂本孝也町長が同日、平塚市役所で会見した。新たな枠組みでは、中核となる平塚市が大神地区に日量315トンを処理できる新たな焼却場を13年春までに新設するほか、既存の粗大ごみやリサイクル処理、最終処分場を管理する。大磯町は各家庭や給食センターから出る野菜くずなどからバイオガスを生成、資源化する「厨芥(ちゅうかい)類処理施設」(日量30トン以上を想定)を16年春に新設する予定。さらに平塚と大磯分のし尿処理を行う。
 復帰する二宮町は、大磯が担う予定だった剪定(せんてい)枝処理を引き受けるほか、
リサイクル関連や粗大ごみ破砕処理場で発生する不燃物の資源化などを行っていく方針だ。今後、各施設の規模やごみ運搬の手順などを具体的に定めた「基本協定」をつくり、来年7月の締結を目指す。
 今回のごみ処理広域化をめぐっては、1市2町で2006年2月に「基本協定書」が締結されたが、二宮町の前町長が同年10月、厨芥類資源化施設の建設が困難などとして、広域化から脱退。07年12月には平塚市と大磯町が1市1町の新たな枠組みで、基本協定を締結している。そのため新設される焼却場の処理能力は06年2月当時の日量340トンよりも20トン以上少なく設計されており、今後はさらなるごみ減量化が大きな課題となる。中戸川副市長は「『背水の陣』ではあるが、ごみの資源化、分別化を進める良いきっかけにしたい」と話した》。
「最新鋭の公害防止装置が付いているから焼却は安全」などと行政側はいう。しかし公害
防止装置とは結局バグフィルターが主力である。それが黒焦げになったり、それがいやでバイパスを通したりで、まさに「看板に偽りあり」なのだ。問題は行政がそれを隠していることである(むろん住民運動が強ければ情報開示のルールを守らねばならない)。
 金に余裕のある自治体は触媒反応装置までつけて再合成されたダイオキシンと窒素酸化物を分解しているが、これだって仙台の松森清掃工場のように「埋火で黒焦げ」事件まで引き起こしている(拙著「溶融炉が危ない!」を参照してください)。
 ましてや廃プラを燃やすという「禁断の所業」による焼却炉や溶融炉への負荷は計り知れないものがある。

最新の画像もっと見る