元妻は境界性パーソナリティ障害だったのだろうか

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(81)パーソナリティ障害 英語での定義

2011年01月17日 | 翻訳いろいろ


~英語におけるPersonality disorderの定義~

「Personality disorder」という英語の診断名を「人格障害」との日本語に翻訳されてきましたが、それが正しい訳なのか、元々の英語ではどのような意味なのか見てみましょう。medicine net .comより引用させていただきます。

リンク先 http://www.medterms.com/script/main/art.asp?articlekey=39177

前段は英語辞書として編集された解説です。そのあと、DSM-IVの定義が引用されています。現在はDSM-IV-TRと言う改訂版が出版されこれが最新版となり、DSM-IVとは表現が変わっています。DSM-IVは一つ前の診断基準ですが、日本ではこの英文を翻訳した解説が多いようです。

以下、私訳の中では「人格障害」という言葉は敢えて使わず「パーソナリティー・ディスオーダー」と片仮名表記とし、原文のニュアンスを損なわないよう考慮しました。


~私訳~

パーソナリティー・ディスオーダーとは

パーソナリティー・ディスオーダーは、不適切なストレス処理、極端な行動、状況にそぐわない振る舞いなどの行動様式があり、こうした特徴が長期にわたる。行動や思考が様式化され、適応性がなく、慢性的で、一過性のものではない。パーソナリティー・ディスオーダーには行為障害が含まれており、精神病、神経症とは明確に区別される。

精神医学会の公式診断基準、DSM-IV(アメリカ精神医学会編 診断基準及び分類指針 第4版)では次のように定義する。「一般的に人が身に付ける社会性と大きく異なり、認知や行動に一定の様式化、固定化が見られ、適応性のなさが様々な状況で見られる。思春期から成人初期にかけて発症し、症状の慢性化、精神的苦痛や適応不全をもたらす。他人に対し或いはストレスを感じる状況に対し、常に不適切な認識、不適切な対応をし、こうした特徴が長期にわたる。」

パーソナリティー・ディスオーダーには10の診断名があり、当診断基準はこれをA~C群に分類する。

A群:特異な行動、予期できない行動をともなうもの
・妄想性パーソナリティー・ディスオーダー
・統合失調質パーソナリティー・ディスオーダー

B群:極端な行動、感情的行動、逸脱した行動をともなうもの
・反社会性パーソナリティー・ディスオーダー
・境界性パーソナリティー・ディスオーダー
・演技性パーソナリティー・ディスオーダー
・自己愛性パーソナリティー・ディスオーダー

C群:不安、恐怖心を示す行動をともなうもの
・回避性パーソナリティー・ディスオーダー
・依存性パーソナリティー・ディスオーダー
・強迫性パーソナリティー・ディスオーダー


~英原文~

Definition of Personality disorder

Personality disorder: A disorder characterized by the chronic use of mechanisms of coping in an inappropriate, stereotyped, and maladaptive manner. Personality disorders are enduring and persistent styles of behavior and thought, not atypical episodes. The personality disorders encompass a group of behavioral disorders that are different and distinct from the psychotic and neurotic disorders.

The official psychiatric manual, the DSM-IV (Diagnostic and Statistical Manual of the American Psychiatric Association, Fourth Edition), defines a personality disorder as an enduring pattern of inner experience and behavior that differs markedly from the expectations of the individual's culture, is pervasive and inflexible, has an onset in adolescence or early adulthood, is stable over time, and leads to distress or impairment. Personality disorders are a long-standing and maladaptive pattern of perceiving and responding to other people and to stressful circumstances.

Ten personality disorders, grouped into 3 clusters, are defined in the DSM-IV:

Cluster A -- Odd or eccentric behavior.
Includes:
•Paranoid personality disorder
•Schizoid personality disorder

Cluster B -- Dramatic, emotional or erratic behavior.
Includes:
•Antisocial personality disorder
•Borderline personality disorder
•Histrionic personality disorder
•Narcissistic personality disorder

Cluster C -- Anxious fearful behavior.
Includes:
•Avoidant personality disorder
•Dependent personality disorder
•Obsessive-compulsive personality disorder


~アンダーライン箇所の解釈~

inner experience and behavior:認知や行動

inner experienceが、心理学、精神医学で使われる場合、認知、認識、知覚といった意味となります。この箇所が「内的経験」「内的体験」と訳されているものが多いのですが、「inner=内的」「experience=経験」と直訳したために生じた誤訳でしょう。複数の単語が作るイデオムでは、個々の単語の持つ意味からは類推できない、異なった意味を持つことがあります。英文で書かれたパーソナリティ障害の定義では「認知と行動」がセットで語られることが多いと知っていれば、文脈からも「inner experience」の意味は「認知」であると推測できます。


the expectations of the individual's culture:一般的に人が身に付ける社会性

individual's cultureは個人が生まれ育ってきた過程で身に付ける、知識、礼儀、信仰、価値観、対人関係の作り方などを含んだ意味で、ここの文脈では、個人が身に付ける社会性という意味です。但し、個人個人が持つ異なった価値観という意味ではなく、社会、民俗、家庭など、特定の集団に共有されている価値観という意味です。英語圏の方の日常会話で「culture」が話題になることが少なくないのですが、その90%(私の感覚ですが)は、人が持つ価値観や人生観を意味する言葉として使われます。それに対し日本語の「文化」の持つ意味は、衣食住に関する民族的文化といった意味合いが強く、人が持つ価値観として使われることは滅多にないと思います。英語の「culture」は日本語の「文化」と同じ意味ではないのです。この箇所を「その人の属する文化から期待されるもの」と訳しているものが多く見受けられますが「culture」の意味を「社会的文化」であると誤解している事から生じた誤訳でしょう。そのためこの訳文が前後の文脈と関わりがなくなり、分かるようで分からない、謎解き文になっています。

pervasive and inflexible:適応性のなさが様々な状況で見られる。

inflexibleをある翻訳では「頑固」と訳しています。「人格障害の特徴は、人格の歪み」との先入観があるので、どの英単語を見ても人格の歪みとして翻訳してしまうようです。英語で人を「頑固」呼ばわりする場合「inflexible」は使わないと思います。「inflexible」は控えめで失礼のないニュアンスがあるからです。

ところで、アメリカ精神医学会が公式に発表するパーソナリティ障害の定義の中で、患者を「頑固」呼ばわりするものでしょうか?私はそのようには思えません。市井で使われる言葉と、医学会の公式文書で使われる言葉では違いがあるのもだと思います。公的文書には社会への強い影響力があり、重い責任があるのです。原文では中傷する意図がないのに、訳文で中傷を意図する言葉に訳出されていて、それが正しい翻訳と言えるでしょうか?「意味が同じなんだから構わない」とは言えないのです。往々にして、こうした誤訳は文化摩擦の原因となります。


stable over time:症状の慢性化

この箇所をある翻訳では、「年齢とともに治まっていく」「症状は安定する」と正反対の意味に訳しています。stableの意味を英和辞書で調べると、確かに「安定する」という解説がありますが、英語辞書(英英辞書)では「変化しない」という解説です。「症状が安定する」と「症状に変化はない」とでは意味が正反対です。あとの文で「Personality disorders are a long-standing」つまり、「パーソナリティー・ディスオーダーが長期間にわたる」と解説されていることからも、症状が長期化する意味だと分かります。このように、英和辞書に頼ると落とし穴に落ちてしまうのです。


Dramatic, emotional or erratic behavior:極端な行動、感情的行動、逸脱した行動

dramaticをある訳では「演技的」「演技性」と訳されていますが、そもそもdramaticにこうした意味はありません。日本語の「演技的」「演技性」は、英語の「histrionic」にあたるでしょう。恐らく、dramaticと言う単語を見て、「ドラマ的→演技的」と想像を働かせ、人格の歪みと言った先入観に結びつけたのだと思います。dramaticは、インパクトの強さを意味し、しばしば境界性パーソナリティ障害の方の特徴を「ジェットコースターのように感情の変化が激しい」と解説されることがありますがこうした意味になります。


~定義の中心~

英語では、メインテーマを初めに記述するという傾向があり、DSM-IVでは「一般的に人が身に付ける社会性と大きく異なり、認知や行動に一定の様式化、固定化が見られ、適応性のなさが様々な状況で見られる」という一文が核となる定義です。

以上のmedicine net .comの解説を読んでいただいて、短く要約するとしたらどのように言うことができるか考えていただきたいところです。英語原文の中に「性格(個性、人格)の歪み」「性格(個性、人格)の偏り」といった言葉は一つもありませんでした。しかし日本語のウエブサイトで、パーソナリティ障害や境界性パーソナリティ障害を検索すると、「パーソナリティ障害をひとことで言うなら、性格(個性、人格)が歪んでいる状態」「パーソナリティ障害とは病的な個性」などと説明しているサイトがありますが、こうした言いまわしは、パーソナリティ障害を正しく要約した内容ではなく、偏見と誤解に満ちた解釈であることがお分かりいただけると思います。日本では、医師、カウンセラーがこうした表現でパーソナリティ障害を解説しているサイトを見かけますが、こうした言いまわしをウエブサイトで公表することは、社会的偏見を助長する行為で本当に残念なことです。

このmedicine net .comだけではなく、ほかの英語で書かれたサイトを検索しても「性格(個性、人格)の歪み」「性格(個性、人格)の偏り」といった表現をするものは見たことがありません。一つもないはずです。こうした偏見ある解説の仕方は、英語では見られない日本固有のものなのです。これは「Personality disorder」を「人格障害」と翻訳された言葉が日本で生み出した副産物だと思われます。「人格障害」という訳語は「Personality disorder」の意味するものを正しく言い表していないということです。

英文の定義では「行動」「認知」といった言葉が繰り返し使われており、これがパーソナリティ障害を定義するキーワードです。パーソナリティ障害のA~C群の定義では、それぞれが行動(behavior)の特徴に着目して解説されていることもご覧ください。


~二言語間の等価性~

英語の特徴として形容詞を重要視するため、形容詞を多用する傾向があり、こうした文は英語としては違和感がない自然な文体なのですが、日本語で、形容詞を多用すると、くどく、不自然で理解しにくい文になります。また、自然な日本語文にするため、英語の名詞を日本語の名詞に訳するのではなく、動詞として変換するなどの方法もあります。英語では、同じ名詞、同じ動詞を繰り返し使用することを忌避すると言う特徴があり、忌避の規則は英文や日本語文にそれぞれあります。英語圏で一般の人が読んで違和感なく理解できる英文であるなら、一般の日本人が読んで違和感なく理解できる訳文でなければなりません。検討を重ね、失礼のない表現とされた公式文書であれば、同じニュアンスの日本語にしなくてはなりません。原文に忠実な翻訳作業とは、原文の意図するものを忠実に、日本語で再現させることです。英単語を日本語に置き換え、語順を並べ替えれば翻訳ができるといった単純なものではありません。原文の表面上には表れないものまでをも理解し翻訳文として再生させ、二言語間に等価性を持たせることが翻訳だと思います。


~personalityの意味~

そもそも「personality」という言葉は英語でどのような意味なのか、英語辞書サイト「dictionary.com」から引用させて頂きます。パーソナリティ障害の定義で用いられる「personality」の意味は、③-bに定義される内容です。「性格」や「人格」を意味するのではないと言うところをご覧ください。


パーソナリティーとは

①その人の持つ特徴で、周囲の人が感じるもの。例)楽しい人。
②その人を表す特徴で、いくつかのものが組み合わされたもの。例)変わった人。
③心理学において
 a.その人の肉体的特徴、心理的特徴、感情的特徴、人間関係の特徴などが組み合わされたもの。
 b.その人に特徴的な振る舞いで、ある規則性やパターン化が見られるもの。
④その人を人間たらしめる本質。人としての自己認識をする実体、自己アイデンティティ。
⑤その人の特筆すべき特徴。


リンク先 http://dictionary.reference.com/browse/personality 
dictionary.comより



日本では「境界性人格障害」から「境界性パーソナリティ障害」へと診断名が変更されましたが、「人格障害」という診断名は人を中傷するニュアンスを含んでいるとの認識があったからでしょう。一般の人が『人格障害』という言葉を耳にして、どのような印象を思い描くでしょうか?人格が壊れた人、人格が機能しない人、人格が破壊された人といった、おどろおどろしいニュアンスを感じると思うのです。パーソナリティ障害の解説を日本で「人格の歪み、偏り」「性格の歪み、偏り」と解説されているのは、この「人格障害」という訳語の影響でしょう。

ところで「パーソナリティ障害」という言葉を聞いて、一般的な日本人は「人格障害よりは印象が柔らかくなったが、人格という日本語を英語に戻しただけ」だと感じているのではないかと思います。英語辞書では、パーソナリティの持つ意味は「その人に特徴的な振る舞いで、ある規則性やパターン化が見られるもの」とありましたが、日本人の多くは、こうした用語の意味を知らないと思います。行政、医学会が病名の変更を公表したのであれば、変更の理由、パーソナリティの持つ意味、パーソナリティ障害の定義を一般の人にも分かる言葉で知らしめる、説明責任があると思います。「人格」を「パーソナリティ」に置き換えただけの表面的な名称変更では、この病気に関する誤解、悪いイメージは減らないと思います。また「○○障害」といった重苦しい雰囲気の表現も改めなくてはなりません。

日本語では「病気で体に障害が残った」「事故で障害者となった」といった使われ方をしますが、「障害」という言葉には、一時的なものではなく、一生にわたり継続されるハンディキャップ。簡単に回復できるものではなく、回復が極めて困難な状況といった、重たいニュアンスがあります。足の骨折で1か月間、歩行できなかったとしても、そのことを「障害」を負ったと、日本語では言いません。回復できる程度の状況だからです。しかし、その骨折で生涯車いすで生活することになるなら「障害」を負ったといいます。

「人格障害」という訳語は、その人の人格が一生涯壊れていて回復困難な病気という、暗澹(あんたん)とした印象を与える訳語になっているのです。通訳や翻訳という作業は、暗記カードの表を裏にひっくり返すような単純で無機質な作業ではありません。英語のネイティブが読んだり聞いたりした時に生じる心理的影響を、通訳や翻訳を通して、等価な心理的影響を日本人にも与えるという役割も担っています。通訳者、翻訳者は、言葉が人の心に与える影響について感受性を研ぎ澄ます必要があると思うのです。


~disorderの意味~

英語の「disorder」を日本語では「障害」と翻訳されてきましたが、それが相応しい訳語か、等価な訳語といえるのか見てみたいと思います。英語の「disorder」という言葉には、病気(disease、illness)とまでは言えないが健康でもないという、健康と病気との中間的状態を意味するニュアンスがあります。英語圏の人はそのような理解をしています。「disorder」は、実は軽いイメージを持つ診断名として使われていて英語の「disorder」と日本語の「障害」との間に、等価性があるとは言えないことが分かると思います。米国の学会が「disorder」という言葉を診断名に付けた理由は、一般の人が感じる印象に配慮し「disorder」という軽いニュアンスの言葉を採用したように思います。心の病気についてのスティグマ(社会的偏見)を無くして行こうという気運があるからでしょう。日本でも同じ配慮をして訳語の選択をするべきです。一般の人が感じるニュアンス、原意の等価性に配慮して翻訳することが大切だと思うのです。「人格障害」という訳語は不適切な訳語であり、社会的偏見を助長する訳語です。

英語では今まで「mental illness」と表記されていたものから「mental disorder」と表記が変わってきています。心の病気に関しては「disorder」という表現に変わりつつあり、重たいイメージの「illness」ではなく、より軽いイメージの「disorder」を診断名としているところに、学会の配慮のようなものを感じます。残念ながら日本では「mental illness」や「mental disorder」が「精神病」「精神障害」「精神疾患」と翻訳されていますが、とても暗く重たい印象を与えることばです。英語における細やかな配慮が、翻訳で抜け落ちているという印象を受けるのです。日本の関係する学会にも、診断名や定義に細やかな配慮をして頂きたいものです。僭越ではありますが、私が「mental disorder」を訳するのであれば「心の病気」と訳すところです。

「disorder」の意味を、英語のwikipediaの解説から引用させていただきます。Wikipediaの解説は、必ずしも学術的裏付けがあるとは限りませんが、庶民感覚をうかがう事ができると言う点が特徴なので、引用させて頂きます。

wikipedia, the free encyclopedia より
リンク先 http://en.wikipedia.org/wiki/Disease


ディスオーダー

(前略)
ディスオーダーとは、病気と言うほど悪くはない、健康と病気の中間的な意味合いを持つ。この語が使われるのは特定の分野に限られる。
(後略)


Disorder

(前略)
The term disorder is often considered more value-neutral and less stigmatizing than the terms disease or illness, and therefore is preferred terminology in some circumstances.
(後略)


このディスオーダーという英語を引き合いにして『パーソナリティ障害を意味する英語の言葉ではディスオーダーという言葉が使われていて、英語では病気(illness)という表現になっていません。病気ではないものを医者が治療する必要はないんですよ』と、境界性パーソナリティ障害との関わりを避ける口実に使う治療者もおられるようですが、アメリカ精神医学会は、患者を治療支援から遠ざけるために『disorder』という診断名をつけたのでしょうか?

心の病気について誤解や差別的な考えが日本にありますが、これはアメリカでも同じことで、精神病の歴史は差別の歴史ともいえると思います。しかし、アメリカやその他の国で弁証法的行動療法が広まっていく中で、治療者自身が抱く偏見、社会が抱く偏見をなくそうという気運が加速されたようです。誤解や差別をなくしていくことが、研究者や医療従事者の一つの責務として認識されてきているようです。英語では『mental illness 精神病』を意味する従来の表現から『mental disorder 心の病気』あるいは『mental health 心の健康』といった柔らかい表現に変わってきています。社会の偏見をなくしていこうという流れの中で『disorder』という言葉が使われているのであって、これを曲解して、治療者が境界性パーソナリティ障害を持つ方と関わりを避ける口実に使うというのは、治療者として相応しいことなのでしょうか?


~Personality disorderを日本語にするなら~

以上のことを踏まえ、僭越ではありますが、もし私が「Personality disorder」を私訳するなら「認知行動不全」「ふるまい不全」あたりの訳が近いのではないかと思います。一般の英語話者が「Personality disorder」と言う言葉を聞いてイメージするものと、一般の日本人がイメージするものが近づくと思うからです。「Borderline personality disorder」であれば「境界型認知行動不全」「境界型ふるまい不全」などとなるのでしょうか。


~誤訳が与える社会的影響~

アメリカ精神医学会という公式機関が発表する文書というのは、社会的に影響が強く、吟味に吟味を重ね作成された文書のはずです。日本語訳では、境界性パーソナリティ障害の特徴を「こきおろし」「気違いじみた」「むちゃ食い」「かんしゃく」といった解説をしているものが多くありますが、こうした表現は揶揄、中傷を含む表現であり、医学の専門家が公表する文書としては稚拙であると私は感じます。境界性パーソナリティ障害の定義を初めて読んだとき、医者が使う診断基準がこんなひどい言葉で書かれていることに驚きました。これは悪口以外の何ものでもありません。患者を小ばかにする言葉を使わないと、診断基準の訳文が作れないのでしょうか?

英語原文にそのような意図がないのですから、「こきおろし」「気違いじみた」・・・といった訳語に等価性があるとは言えず、決してやってはいけない誤訳であると抗議申し上げたいところです。病気を抱えるご本人、支えようと努力するご家族を、不用意に傷つけない翻訳であって欲しいと願います。境界性パーソナリティ障害を背負う方に偏見を与えるだけではありません。「アメリカ精神医学会は公式文書で、患者を小ばかにした表現をする大人げない団体」との誤解を日本人に与え、アメリカ精神医学会の社会的信用を毀損することでもあるのです。このような翻訳では、さぞかしジョン万次郎先生もお嘆きのことでしょう。

日本では、パーソナリティ障害についての誤訳が、専門家が執筆する本やウエブ・サイトに掲載され、一般の人が立ち上げているウエブ・サイト、掲示板の書き込みに引用され、境界性パーソナリティ障害に悪いイメージを与える言葉で満ちています。その原因の一つに不適切な翻訳、誤訳が関係していると申し上げたいのです。このようにして作られた社会的スティグマが、境界性パーソナリティ障害に関する前向きな研究を遅らせてきた原因の一つではないかと思います。

私はここ一年、英語で書かれたウエブ・サイトを読み、日本語で説明されている「境界性パーソナリティ障害」と、英語で説明されている「Borderline Personality disorder」の違いを知り、問題の深刻さを感じ、ここにまとめさせて頂きました。私は言語学や翻訳、精神医学の専門教育を受けた者ではありません。あくまでも私個人の見解です。素人である私にこの働きを与え、知恵を与え、導いて下さったのは神です。神に栄光がありますように。


~DSM-IV-TR~

アメリカ精神医学会編 DSM-IV-TR(最新版)の資料がウエブ・サイトにあります。英文ですが興味のある方はご覧ください。

リンク先
Diagnostic and statistical manual of mental disorders: DSM-IV-TR.
American Psychiatric Association



~DSM-Ⅴ~

アメリカ精神医学会 DSM-Ⅴ 2013年5月公表予定
作業中の草案を閲覧できます(英語です)。


Personality Disorders
http://www.dsm5.org/ProposedRevision/Pages/PersonalityDisorders.aspx

Borderline Personality Disorder
http://www.dsm5.org/ProposedRevision/Pages/proposedrevision.aspx?rid=17


この記事で説明しきれなかったことを『翻訳徒然草-3 パーソナリティ障害 英語での定義補足説明』に載せています。こちらもご参照ください。







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