元妻は境界性パーソナリティ障害だったのだろうか

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(80)翻訳徒然草-1

2011年01月17日 | 翻訳いろいろ


翻訳についての、取りとめのない覚書きです。

-1- 「high-functioning」は、日本語で「高機能」か?

英語の「high-functioning BPD」という語を、多くの日本語の図書では「高機能型境界性パーソナリティ障害」と翻訳されていますが、日本語の「高機能」では若干ニュアンスが異なると思います。

日本語で「高機能型境界性パーソナリティ障害」というと、境界性パーソナリティ障害を抱えながら難しい仕事、専門知識の必要な仕事についているような人。頭がいい、IQが高い人と言ったニュアンスを感じてしまいます。実際「高機能型境界性パーソナリティ障害」には、こうした説明も含まれているので勘違いをしやすいと思います。

英語本来の「high-functioning」の意味するところは、「社会適応型」あるいは「社会順応型」といった意味でしょう。反対に「low-functioning」の意味するところは、「社会不適応型」といった意味でしょう。私はそのように解釈しています。

私は、ロンドンに滞在した時に、ある方から「英語の学習には、英和のような翻訳辞書は使わず、英英辞書を使って勉強したらいいよ」と、アドバイスを頂いたことがあります。その方は、小学校低学年の時、家族全員ドイツから、イギリスに移住した方でした。彼の母語はドイツ語で、第二言語として英語を学んだ方です。イギリスに来て間もない頃、英語の先生から先程のアドバイスを頂いたとの事です。英英辞書で英語を学習するという事は、英語の概念を正確に身につけるのに有効です。反対に英和辞書のような、翻訳辞書を使うのは、検索が楽な反面落とし穴もあります。どのような落とし穴があるかは、この「翻訳徒然草」で記述させていただこうと思います。小学生が使うような簡単な辞書で構わないので、英語を学ぶ方は、英語(英英)辞書を使うことをお勧めいたします。

三省堂大辞林で「機能」の意味を調べてみると、
「ある物事に備わっている働き。」「器官・機械などで、相互に関連し合って全体を構成する個々の各部分が、全体の中で担っている固有の役割。」とありました。用例として「言葉の機能」「胃の機能が衰える」「十分に機能しない」とあります。

「働き」や「役割」といった意味を示すのですが、ここで注目したいのは「主体」が物事、器官、機械などであって、人の働きや、役割についてはここでは言及していません。日本語では、人が主体となることは馴染まないという事です。

Oxford dictionaryで「function」の意味を調べてみると、
1) an activity that is natural to or the purpose of a person or thing

本来、人や物事に備わっている働き。或いは、ある目的にかなう働き(私訳)とあります。ここで注目したいのは、英語では人が主体となりうるという事で、日本語の「機能」にはない概念です。

人が主語+function動詞の、例文を挙げます

Can a person who is bi-polar function at a job?  仕事に適応する
双極性障害(躁鬱病)の方は、仕事が務まるでしょうか?(私訳)

Kate functioned as mother to the child while his parents were away.  母親の役割を務める
男の子の両親が留守中、ケートさんが母親に代わり面倒をみた。(私訳)

This training material discusses organizational development in order to explain how people function within an organization.  組織内で果たす役割  
当資料は組織の発展を検証し、組織内で果たす人の役割を明確にする事を目的としています。(私訳)

「function」は「人が何かに適応する」「役割を果たす」或いは「社会の一員として適応している」という意味で使う事ができます。「high-functioning BPD」の意味するところは「社会適応型境界性パーソナリティ障害」あるいは「社会順応型境界性パーソナリティ障害」といった意味で用いられています。違和感なく社会生活に適応していて「隠れた、境界性パーソナリティ障害」とも言われる所以です。このように訳すれば、high-functioning BPDについての解説とも、よく一致します。high-functioning BPDとは、頭が良いBPDという意味ではありません。「high-functioning」を「高機能」と訳してしまったため、英語本来の意味から逸れてしまったと思います。


-2- 日本で「high-functioning BPD」が積極的に取り上げられない理由

英文サイトを見ると、high-functioning BPDという新たなカテゴリーを設ける事について論争があるようです。自殺や、自傷行為をしない、症例であってもBPDの範疇と考え、これをhigh-functioning BPDと定義する学派がある一方、これに異論を唱えhigh-functioning BPDなるカテゴリーを作る事は不適切である。こうした症例の場合、自己愛性や反社会性のパーソナリティ障害のどちらかに分類できるか、そうでなければ、パーソナリティ障害には該当しない正常な人であると主張している方がいました。この方は、臨床経験が2~3年であると仰っていましたので、まだ経験が浅い方なのかなと思いました。私が、サイトで見た範囲において、家族支援団体、それをサポートする専門家は「high-functioning BPD」という臨床単位に肯定的立場を取っているようです。

境界性パーソナリティ障害の診断基準の中に「自傷行為、自殺企図がみられる」といった項目があるので、この特徴の有無で議論が湧き上がるようです。また、私の推測ですが海外でhigh-functioning BPDという新しいカテゴリーについての論争に決着がついておらず宙ぶらりん状態のため、日本の学界では、積極的にhigh-functioning BPDを取り上げる事を躊躇しているように感じます。日本において臨床医によっては、自傷や、自殺企図がない症例であっても総合的な判断で「境界性パーソナリティ障害」と診断し、敢えて「高機能型境界性パーソナリティ障害」とは言わない方もいるようです。境界性パーソナリティ障害の診断では「見捨てられ不安」の有無や、引き起こされる問題行動の「動機」が重要な判断材料となるようです。


-3- 日本語の「りんご」は、英語で「apple」か?

日本語で「寒い冬、外で遊ぶ子どもたちはりんごのほっぺをしていた。」といえば、頬を赤くした子どもたちが遊んでいる風景をイメージすると思います。英語では「apple-cheeked」という表現がありますが・・・

Oxford dictionaryで「apple-cheeked」の意味を調べると
(of a person) having round rosy cheeks.

丸顔で赤い頬(の人)とあります。(私訳)

Urban Dictionaryで調べてみると、
Cheekbones that are round and plump like an apple
seen mostly on girls, And DOES NOT MEAN the girl is fat.
you will see apple cheeks more on rounder faces.
It’s actually pretty cute.

「頬骨が張りりんごのように丸い顔立ちのこと。女の子に多い。ただし、太っているという意味ではありません。丸顔の人によく見られる、可愛いらしい顔立ち」とあります。(私訳)ここでは「赤い」という表現がありません。

同じ英語圏でも人によって「apple-cheeked」の定義が違っていて、次の3つに分ける事ができます。
・赤い頬(日本語の意味と同じ)
・ただの丸顔
・丸顔で、赤い頬

英語圏の人に「apple-cheeked」の意味を尋ねると、ほっぺたを膨らましてこんな顔だよと答える人が多いようです。つまり、丸顔という意味を表しています。また「apple-cheeked」には可愛い女の子といったニュアンスがあり、どちらかと言うと男の子よりは女の子について使われる傾向があります。あの「ペコちゃん」の顔こそ「apple-cheeked」にぴったりのイメージだと思います。それに対し日本語の「りんごのほっぺ」には丸顔という意味はなく、男の子女の子のどちらにも違和感なく使うことができます。

「りんごは何色?」と聞くと、日本人は「赤」と答える人が多いと思います。同じ質問を、英語圏の人にすると「赤、緑、黄色。色々あるよ」と答えが返ってくるのです。日本語の「りんご」という言葉には「赤い」という隠れた意味が付随しています。一方、英語の「apple」には「まん丸」という隠れた意味が付随しています。

「りんごのほっぺ」「apple-cheeked」と熟語になると、日本語の「りんご」と英語の「apple」には、異なる語感があることが浮かび上がってきます。「りんご」と「apple」は異なったイメージを持っているので全く同じ意味だとは言えないのです。


-4- 英語の「water」は、日本語の「水」か?

例文1
If the coffee is too strong, add some more water.

「add some more water」の意味はどちらか?
1)お水を足して下さい。
2)お湯を足して下さい。
Weblio辞書より http://ejje.weblio.jp/sentence/content/strong+coffee

例文2
The spa’s water source is located behind the shrine. Visitors can leisurely soak in an open-air bathing facility nearby, which is said to bless the bather with offspring .
japan-ryokan.netより http://www.japan-ryokan.net/wp/ikaho-onsen

「The spa’s water source」の意味はどちらか?
3)温泉の水が、湧き出てるところ
4)温泉の湯が、湧き出てるところ

例文3
water pours into the tub

この英文の意味は、どちらか?
5)風呂に水をはる
6)風呂に湯をはる

翻訳訳語辞典より http://www.dictjuggler.net/yakugo/data/776/174/6572.html

「お湯」のことを英語でも「hot water」「boiled water」などと表現する事もありますが、文脈や状況から明らかに「お湯」だと推測できる場合「water」としか言わないこともあります。上の三つの例文全て「湯」が正解です。

例文2の日本語原文
「伊香保神社の奥にある源泉地横の露天風呂は、昔から子宝の湯として親しまれています」

「water」と「水」は、全く同じ意味ではありません。水のほかに、湯、海水、川、雨などの意味があり、文脈や状況によって訳語を変えなくてはなりません。

英語で、水とお湯を区別しないのは紛らわしいと思うかもしれませんが、反対に日本語でも、似た例があります。「結構」は、肯定的な意味、否定的な意味、かなり~と強調する場合、意外と~といった意味もあります。外国の人には、紛らわしい表現だと思われるようです。

同じ日本人同士であれば、言葉の意味が同じかといえばそうではなく、地域によって言葉の意味に違いが出てくる事もあります。
「ごみを投げる」 ごみを捨てるという意味
「痛い」 風呂の湯が、熱いという意味でも使う


-5- 言葉の意味の不一致

先ほど例に挙げた、りんごのほっぺ、waterなど、言葉の意味は日本語と英語で完全に一致しない事が分かると思います。注意深く調べるなら、こうした意味の不一致は、名詞、動詞を始め、その他ほとんどの品詞、ほとんどの単語で見られるはずです。

日本では虹の色は7色といいますが、6色、3色という民族もいます。一日が始まる時刻を夜中の0時とするところがあれば、夕方の日没時刻を一日の始まりとする民族もあります。言葉と文化は影響し合っている面もあるので、文化についての考慮も必要です。

数字自体に特別な意味合いを持つことがあり、日本では「奇数吉、偶数凶」などと言うほか「四、九は縁起悪い」「八は末広がりで縁起良し」「五円玉をお守りにする」などがあり、数字にまつわる文化的影響も考えると、数詞ですら意味が一致するとは言えません。

スイスの言語学者、フェルディナン・ド・ソシュール(Ferdinand de Saussure)は、それぞれの民族の言語の記号(文字、発音)や言葉の持つ意味は、恣意的(自由)に作られていると述べています。

「機能」と「function」、「りんご」と「apple」、「水」と「water」など、それぞれの持つ意味は、異なる言語において、完全には一致しないと言うことでした。ソシュールの、言語の恣意性についてはもっと奥が深く、その考えの一部を取り上げさせて頂いただけです。


-6- バウンダリーについて

バウンダリー(単数のboundary)は、境界 国境 境界線などの意味ですが、心理的な意味でのバウンダリー(複数形でboundariesとなる)は、しっくりした日本語訳はないのですが、自他の境界、自他の境界設定、自他の垣根などの意味でしょう。日本語では「他人との距離がうまく掴めない」といった表現がありますが「人との距離」といった言い方は、バウンダリーと重なる意味があります。「人との距離が近すぎる」とは、節度を欠いた馴れ馴れしい態度といった意味で使われ、適切なバウンダリーが維持されていない状態と言えるでしょう。バウンダリーが広がり過ぎると他人の領域に侵入し、他人の生活、感情、権利などを侵害する越権行為が生じます。


Boundaries

Definition: The emotional and physical space that we place between ourselves and others. Setting proper boundaries is important to our mental health. When appropriate boundaries are not set, we run the risk of becoming either too detached from or too dependent upon others. 

バウンダリーの定義

自分の心理的空間、また物理的空間を指し、自分と他者とを区別するもの。不適切なバウンダリー設定は孤立を深めたり、反対に、依存傾向を生むなどの問題を生じる。精神衛生上、適切なバウンダリー設定は重要である。(私訳)

About.comより引用
http://depression.about.com/od/glossary/g/boundaries.htm


Boundaries, Personal Space

MEANING: Boundaries define where you end and the other person starts. Boundaries can refer to actual space but also psychological space such as jealousy and being over protective. Personal space usually refers to actual space such as the distance between people or personal areas in a home. For example, a child's room is that child's personal space; violating that will cause conflict.

個人空間としての、バウンダリー

解説
バウンダリー(心理学的意味では“Boundaries”と、複数形となる)とは、自分自身と他人との区別を明確にするもの。また、実際の空間、或いは過剰な欲求や過保護に見られるような、個人の心的領域を指すこともある。家庭を例に挙げるなら、個人空間とは家族と家族との物理的隔たり、ないし個人の専有場所を指す事が多い。例えば、子ども部屋はその子の専有空間であり、他人が勝手に立ち入るといさかいが起こる。(私訳)

AbusiveLove.comより引用
http://www.abusivelove.com/abuse_terms_1_10.htm


「心の垣根を取り払う」「中央と地方の垣根を低くする」「政党間の垣根を超える」など「垣根」には、障害となるもの、邪魔なものと言った、負のイメージが強いように感じるのですが、バウンダリーを肯定的に捉えることわざもあります。

「親しき仲にも礼儀あり」「思う仲には垣をせよ」「親しき仲に垣をせよ」と言ったことわざがあります。親しい間柄では、つい気がゆるみがちだから、なおさらに節度を守ることが大切だという意味です。日本語でも、バウンダリーに相当する、概念は昔からあるようです。


英語では「Good fences make good neighbors」と、言うことわざがあります。

「Good fences make good neighbors」
Good neighbors respect one another's property. Good farmers, for example, maintain their fences in order to keep their livestock from wandering onto neighboring farms. This proverb appears in the poem “Mending Wall,” by Robert Frost.

「垣根の維持は、思いやり」 詩集「壁を繕う」Robert Frost作
良き隣人は、他人の土地にまで気を配ります。自分の家畜が他人の農地を荒らさぬよう、努めて垣根を維持する、それが良き管理者です。

Dictionary.comより引用
http://dictionary.reference.com/browse/Good+fences+make+good+neighbors


他には、次のことわざもあり同じような意味です。

Love your neighbour, yet pull not down your fence.

A hedge between keeps friendship green.





こうして、神様は人間を世界の各地に散らしました。 もう都市建設はできません。この都の名がバベル〔「混乱」の意〕と呼ばれたのは、このためです。つまり、神様がたくさんの国語を与えて人間を混乱させ、各地に広く散らしたのが、このバベルの地だったのです。
創世記11章8~9節 リビングバイブル





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