★☆土筆の別荘☆★~Produced by level5~

カープとバファローズに偏っています。現在、LEVEL5というサークルで活動中☆

ボクは女の子(オリジナル)

2007-02-28 20:55:36 | Weblog
   ボクは女の子
 いつの頃からだろう。ボクがボクとは別の性に憧れを持つようになったのは。
 憧れ……。違う。憧れなんかじゃ、ない。ボクは女の子で生まれてくるべきだったのに。どうして、なんで男になんか生まれたんだろう。
 ボクは……女の子に……なりたい。




 現代の医学をもってすればボクを女の子にするのは可能だろう。こんな落書き、毎日のように書かずに済む。
 でもボクが欲しいのはそんな作られた性なんかじゃない。
 本物の……リアルな性だ。

 西に傾いた夕陽を見ると、ボクは精神的に落ち込みだす。なんでだか分からないし、いつの頃からかも分からない。ただ、夕方という時間帯がボクは一番嫌いだった。
 この光景を人は綺麗だと言うかもしれない。ボクもそう思う。でも、綺麗なだけだ。ただそれだけ。そこに存在するだけ。ボクの生活には関係のないこと。いわば飾りみたいなもの。
 ボクは歩き出す。どこへともなくだ。この世界にボクのような存在を認めてくれるところを探すのだ。いや、認めてくれなくたっていい。ただただ傍観してくれるだけでいいんだ。別に誰かの干渉を受けたいわけじゃないし、むしろその逆だ。誰の力も頼らないかわりに誰にも手出しをしたりはしない。ボクは一人、そこに存在していればそれでいいんだ。
「どうせ……死ぬ勇気だってないんだ」
 独り言を言うのはもはや日常のことだった。話し相手なんかいない。いや、話し相手はいた。ボクが拒絶しただけだ。
 友達とは名ばかりで、誰も本当のボクを見ようとしない。そんな関係がいやでボクはボクのほうから人間関係を断ち切った。
 ボクは一人……。
「こんにちは!」
 不意に声がした。周りを見渡してもボクしかいない。
「君だよぉ。君以外、誰もいないからね」
 やっぱりボクに話しかけていたんだ。
 見上げてみる。女の子だった。ボクがなりたいもの。憧れのもの。
 女の子は黒髪でショートのボブカットで、服は派手になりすぎない程度にシックにまとまっていた。スカートから伸びるすらっと真っ白な足は、それはそれは神秘的な魅力を持っていた。
「ボクに、何か用ですか?」
 ボクはその女の子に尋ねた。
「死にそうな顔してたからねー。大丈夫かなって思ってさ」
 女の子は曖昧に笑った。
「ボクのことなんて、どうなったってあなたには関係のないことです」
「そうね……確かに関係ないわ。それでも、興味はあるわね」
 こういう子が一番たちが悪い。興味本位で近寄ってきて飽きた頃にはけなす側に回るのだ。何度こういう子に裏切られてきたか。
「迷惑です」
「つれないこと言うのね。いいじゃない。減るもんじゃないでしょ」
「いえ、減るとか減らないとかの問題ではありません。迷惑だと言っているのです」
「あ、自己紹介がまだだったわね。私は千夏。相川千夏よ。君の名前は?」
「話を聞いてください。ボクは迷惑だといっているんです」
「あら、人が名乗ったのに自分は名乗らないって失礼じゃない?」
 全くもって話を聞こうとしない。この子には耳というものがついていないのか? それともバカなのか。どっちにしろこんな変な子を相手しているほど暇じゃない……わけでもないか。
「ボクは名前なんかない」
「嘘よぉ。名前を持たない子なんてこの世にいるかしら? それじゃあ、私がつけてあげようか?」
「いい。別に名前なんか必要ないから」
 そう、一人で生きていくのに名前なんか必要ない。呼ばれる必要がないからだ。両親がつけてくれた名前はもう、とうの昔に捨てた。とんだ親不孝者だと思う。でも、ボクを男として生んできたこと、それは今でも許せることじゃない。分かってる。責めたってどうしようもない事だって。でも、誰かを責めないと、当たりようのないこの怒りをどう静めればいいのか、ボクにはさっぱり検討がつかなくなってしまう。
 だからといって、面と向かって両親を傷つけたくはない。だから家を出てきたのだ。ボクがボクらしく生きる場所を探して。
「んー……君の名前は若葉! どう? いい名前でしょ?」
「女の子……っぽいな」
「君、女の子になりたいんでしょ?」
 はっとした。こいつ、なんでそのことを……。ひょっとして独り言を聞いたのか? それともちょっと目を放した隙にこのノートを見たのか?
「君を見てれば分かるよ。そういう子、少なくはないからね」
「ボクみたいなやつ、そんなにいっぱいいるんですか?」
「んー……いっぱいって訳じゃないわね。どっちかというとやっぱり少数派。でもそういう子たちって、不思議と私の前に現れるのよね。なんでかしらね?」
「そんなこと……ボクに聞かれても分かりませんよ」
「だよね。実はね、私も本当は男の子に生まれたかったの。男の子っていいよね。友達関係も簡単そうだし、毎月のあの苦痛を味あわなくてもすむものね。女の子って意外に大変なのよ? それでもあなた、女の子になりたいの?」
 一瞬、何を言われているのかが分からなかった。この子は男の子になりたがっている。顔立ちは決して悪くない。どっちかといえば美少女に近い。なのにどうして男なんか野蛮な生き物になりたがるのだろう。
「人間ね、やっぱり、自分とは違うものに魅力を感じるみたいだよね。ほら、女の子が男の子を、男の子が女の子を好きになるみたいにさ。それぞれ、お互いが持っていないものを求める。不思議なものよね」
「うん……」
「若菜は誰かを好きになったこと、ある?」
「ボクの名前、それで決定なの?」
「嫌なら別のにするよ。どんなのがいい?」
「いや、若菜でいい」
 正直、名前なんかどうでも良かった。ただ、名前がないと千夏……だっけ。とにかく彼女が困るだろうから、この際、なんでもいい。
「で、どうなのよ?」
「うん……。あるよ」
「へぇ。どんな子? あ、ひょっとして相手の子って男の子だったりする?」
「いや? 普通に女の子だけど?」
 そういうと彼女は目を真ん丸くしてボクを見た。
「案外君ってノーマルだったんだね」
「別に……どっちだっていい」
「そうなんだー。その女の子、可愛かった?」
「うん。生涯きっとあの子より可愛い子になんて出会えない気がするよ」
「告白はしたの?」
「ううん。してない」
 勇気がないのだ。ボクに決定的にかけているもの、一つあげろといわれればすぐにでも浮かび上がる。勇気だ。何かを言う勇気、行動する勇気、そして……死ぬ勇気もない。
 ボクは常に全てのことをそつなくこなしてきた。可もなく不可もなく。上でもなければ下でもない。常に出来事の真ん中を占めている、以下同文な存在。
「そっかぁ。私もね、言いたいこと、言えないタイプなの」
「君が?」
「そうは見えない? これでも結構繊細なんだよぉ」
「へぇ。人はやっぱり見かけによらないんだね」
「なんか言い方、すごい失礼だけどこの際許してあげる。で? これからどうするつもりなの?」
「質問、多いね」
「癖なの。君、見た感じ十七、八っていったところだけど」
「今年で生まれてきて十九年になります」
「へぇ。じゃあ私の三つ下だ。私二十二だもん」
「二十二って言うと、大学生ですか? 社会人ですか?」
 ボクは途中から敬語ではなくなっていることに気づき、修正した。
「敬語じゃなくていいよ。敬語使われるような存在じゃないからね。私は一応、社会人かな。君は?」
「ボクは……大学生、かな」
 大学なんてほとんど行っていない。大学に行ったところで先生はボクが求めているような答えをくれるわけではない。今現在、自主休学中だ。
「その口調だと、あんまし学校には行ってないみたいね。大丈夫なの? 単位」
「別に、もう行くつもりは、ないから」
「もったいないわね。大学だけは出ておかないと、この先苦労するわよ」
 そんなこと、言われなくたって知ってる。大体、どうして大学を出なきゃ就職出来ないんだろうか。義務教育とされているのはたった九年なのだ。その義務教育を全うしただけじゃまともな仕事に就けない。だからこそ皆は勉強して高校に入る。そしてそこを卒業しても就職率は半分以下だ。皆は頑張って大学に進もうとする。中には浪人なんてものにもなりながら大学生になる。この世の中は狂っている。なんで、そこまでして大学に入らなくちゃいけないんだろう。
「はっきり言って、うんざりしてる」
「ん。君の気持ち、分からなくもない」
「この世界のこと、そしてどうしようもないこの心の闇」
「そうね。でも、私たちは前に進むしかないんじゃないかしら?」
「そんなこと、誰だって言うのは簡単だよ。でも……」
「『進むったって、どう進んだらいいのか分からない』といったとこかしらね?」
 この人、すごいと思った。まるでボクが思っていることがすべてこの人の頭の中に入り込んでいるのではないかと思うくらいだ。
 実際、本で読んだことがある。エスパーというものは実在するらしい。もし、彼女がそのエスパーだとしたら……。だとしても、ボクにとってプラスに作用するかどうかなんて分からない。
 ふと気づく。
 今までマイナスな気分だったボクが、プラスなんていうことを考えた。これはひょっとすればひょっとするかもしれない。
「ねえ」
「あら、何?」
「君、何者なの?」
「私? 私はただの通りすがりの女の子。君みたいな男の子にあこがれて、毎日、空っぽの人生を生きてる、ただの可哀想な女の子よ」
「ボクたち、似てるね」
「そうね」
 夕陽は完全に地平線の向こうへと沈んでいった。初冬の肌寒さがボクを取り巻く。マフラー、持って来ればよかったかな。
「これからどうするの?」
「ボクは……西へ行く。ここ東京から、大阪を越えて、広島のほうまで」
「なんで広島?」
「平和の街だから?」
「くすっ……何それ」
「な、何だっていいだろう」
「そうね。何でも良いわね」
 彼女はそういうと、首に巻いていたマフラーをボクの首に巻いてきた。
「気をつけて行ってらっしゃい」
「これは?」
「お守りよ。私はここであなたの帰りを待つことにする。誰かが待っているって思ったほうがあなたも安心するでしょ?」
 そういうと彼女はにこっと笑った。笑うと意外に……というか、相当可愛い。
 昔、好きだった子を思い出す。あの子も笑うと相当可愛かった。でも、その笑顔は決して、ボクに向けられることはなかった。情けないことに。そして、ボクのほうから彼女との縁を切ってしまったのだ。チャンスはいくらでもあった。でも、いかせなかった。
 ボクには勇気がないから。
「行く先々で色々な困難にぶつかるかもしれない。でも、きっと君なら乗り越えられるわ。君は、不思議な魅力を持っているもの」
 そんなこと、初めて言われた。
「いつか必ず、このマフラーを返しに来るよ」
「期待しないで待ってるわね」
 ボクはくるりと彼女に背を向ける。旅に出るには軽装備過ぎるその荷物を持って。
 旅立ちの日に、彼女に出会えたことは今後のボクにとって、どう作用するかなんて分からない。
 ただ、人と話したことによって、少しだけ心が穏やかになれた気がする。
 少しだけ……。
 ボクは振り返った。彼女はまだそこで手を振ってくれている。ボクも彼女に手を振った。
 さよならじゃない。またねだ。
 そしてボクは、旅に出た。

音姉とボク

2007-02-27 20:58:42 | Weblog
 「音姉!!」
 俺は息が切れていることも忘れて玄関の扉を勢い良く開け放った。
「……ぐすっ……お、弟……くん?」
「おわっ! な、何だこれ?」
 見ると部屋中ちり紙が散乱していた。音姫が涙を拭いたもの、鼻をかんだものがゴミ箱に入らずに散らばっていたのだった。まるで白い花畑のようにも見えた。
「お前……」
「ごめんなさい! 私……私……」
 涙と鼻水で可愛い顔を台無しにしながらもぺこぺこと謝る音姫を見るのは辛かった。
 俺は足早に音姫の元に歩み寄り、そして今まで以上の力で抱きしめてやった。強く強く、気持ちを込めて。
「ずっと、一緒に居るから……」
「ほ、本当……?」
「あぁ。もう、お前を悲しませたりなんかしないさ。嘘も隠し事もしない。約束だ」
 俺は音姫の髪をそっとなでてやった。
「本当かなぁ? 次、嘘ついたらどうする~?」
 さっきまでの涙はどこへ行ったのやら、意地悪そうな笑顔で俺を見上げてきた。
「うっ……。そうだなぁ。一週間、音姉の言うことを聞く! でどうだ?」
「え~? それじゃ軽すぎじゃない~? くすっ! まぁ、それで良いよ」
 何やら少し引っかかるが承諾してくれたのだから良かった。
「あ~あ。弟君のせいで、髪の毛くしゃくしゃになっちゃった。ねぇ、久しぶりにすいてよ」
 そう言うと音姫はいつも使っているブラシを俺に渡してきた。以前、音姫の髪をすいてやったときよりだいぶ激しく乱れている。これは俺なんかより、普段からやりなれている音姫がやるべきなのでは? と思ったのだが。
「だ~め! こうなったの、弟君のせいなんだからね。ちゃんと責任、取ってよ?」
「頼むから俺の心を読んだように先に言うのはやめてくれ……」
「ふふふ。だって弟君、すごい顔に出やすいんだもん。だから、どんな嘘だって私、見抜くからね!」
「分かった、分かった……」
「『本当のことは一回しか言わない』っていうコマーシャル知ってる?」
「すみません……」
「よろしい!」
 俺は仕方なく、音姫の髪をすき始めた。さっとブラシを通すだけであっという間に元のサラサラな髪に戻っていく。いったいどんなケアをしたらここまで綺麗な髪を維持できるのであろうか。もはや、シャンプーのコマーシャルに出てくる女優なんかと比較しても肩を並べるか、ひょっとしたらそれ以上じゃないかと思う。
「リボン、外すぞ?」
「うん」
 音姫のトレードマークとも言える大きなピンク色のリボンを外すと、束ねられていた髪がふわっと舞い、まるで幻想世界にいるような感覚にとらわれた。
 美しい。
 そう、美しかった。音姫は他のどんな女の子にもない美しさがあると、その時俺は感じた。
「きれいだ……」
「……ありがと。なんか、照れる……」
「いや、お前は世界で一番、素敵な女の子だと思う。心から」
「そんなお世辞、今日で何回目かしら~?」
 音姫は可笑しそうに笑うが、俺としてはかなり真剣に言ったつもりだった。でも、まぁ良いかと思う。音姫が笑ってくれれば、それで……。
「……。大好きだよ。義之」
 ぼそりと音姫が俺に言った。うん、分かってる。そんな言葉、言われなくたって俺には伝わっている。お前の俺を見る目、しぐさ、その全ては俺に向けられたものだから。
 今ならきっと言えるはず。これからもずっと、一生かけてお前を幸せにすると。それは世間で言ったら「婚約」になるのかもしれない。そんな大それたこと、学生の俺なんかが軽々しく口に出していいことではない。そんなことは分かっているつもりだ。
 でも……。
「なぁ、音姫?」
「ん? なぁに?」
 すっかり髪全体にブラシが通ったをなびかせながら音姫が振り返る。
「俺さ」
「ん」
「お前が好きだ」
「それは知ってるよぉ」
 くすくすと音姫は笑う。
「違う。そういうんじゃなくてさ……」
 決意を込めて開いた口を音姫がそっとふさぐ。
「まだ、だめ。解決すべきこと……残ってるでしょう?」
「あ、ああ。そうだな」
「初音島のこと、由夢ちゃんのこと。そして……おじいちゃんのこと」
「ああ……」
「忙しくなるね~」
「ああ……」
「テストもあるしね~」
「ぐっ……」
「弟君は大丈夫なのかしらねぇ。今回が初めての定期テストなんでしょう?」
 音姫が俺のおでこを小突いた。
「まぁ、定期テストと名のつくものは付属の頃から散々やってきたからな。かっては分かっているつもりだけど……」
「甘いっ! 大学のテストをなめたら痛い目にあうぞぉ?」
 びしっと音姫が俺に人差し指を突きつけてきた。
「大学ではね。成績不良者に何の配慮もしてくれないの。要するにその時点で落第。単位はなしなのよ? その辺、本当に分かってる?」
 頭が痛いほど学校側の説明会で聞いた。
「それにね、先生と学生なんてそこまで親密に付き合ってるわけじゃないから、それこそ点のつけ方はシビアだよ?」
「うん……分かってる」
「よろしい。じゃあ、お姉ちゃんと明日から特訓だね」
「え? でも、明日は音姉の誕生日だし……明後日からでも」
「だ~め! ちょうどいい機会じゃない。私の誕生日を返上して弟君を鍛えてあげる! 無事にテストを乗り越えたらそのとき改めて誕生日を祝ってもらうよ。由夢ちゃんも混ぜてね」
 音姫のお姉ちゃんモードが今日も始まってしまった。でもまぁ。不思議なことに今日はそこまでいやな感じはしない。むしろ、そんな音姫が愛しくて、欲しくて欲しくて、俺は音姫を抱きしめていた。
「だめ。テスト終わるまではお預けです」
 きっぱりと断られてしまった。テストって言うがあと一ヶ月もあるんだぞ?
「そうは言うけど音姉こそ我慢できるの?」
「わ、わわわ私は平気だよ! そ、そんな目で見ないで! Hなんて……しなくたって平気だもん」
 相当動揺している音姫がまた可愛かった。なんだかんだ言って人間、欲望には勝てないものだなぁと思った。
「え~。ほこん! ところで弟君? テストの教科とレポートで良い教科、ちゃんと把握してる?」
「ほぇっ? テスト受けなくても良い教科があるのか?」
「はいぃ? そ、そんなことも知らなかったの? ちゃんと講義聞いてる~?」
「いえ……あんまり……」
「ノートは?」
「さっぱりです」
 大げさなくらい大きなため息を音姫はついた。
「呆れた……。大学に何しに行ってるの~? サークルもやってるわけじゃないし……」
「い、いやぁ。な、なんとなくかな」
 苦笑いする俺を差し置いて音姫は自分の本棚を漁り始めた。
「確か……この辺に……」
 見ると音姫が使っていた教科書やらノートやらが大量に出てきた。さすがだ。一年の頃から今まで綺麗に整理してある。
「リーディングの先生は、今井先生よね?」
「え? あ、ああ」
「じゃあ、私のノート使えるね。私も今井先生だったんだよ」
 その整理されているノートの中から一冊音姫が引っこ抜いた。見ると、「リーディング一年」と書いてある。俺はページをめくってみた。確かにこんなような内容の授業をやっていたような気がする。
「あとは?」
「え?」
「弟君が取っている教科よ」
「え、えっと……。経済学と……」
 その晩、俺の授業事情を洗いざらい音姫に暴露し、ありがたいことに全ての教科のノートを手に入れることが出来、無事に就寝時間となったのだった。


 ここは……。
 俺は気づくと風見学園にいた。
 桜は当然のように満開であった。
「兄さんはいつもお姉ちゃんお姉ちゃんって……」
「由夢……」
 校門のところに由夢は立っていた。
「いいですよぉ。どうせこんながさつな妹なんか嫌でしょうし」
「違う。そう言うんじゃないんだ!」
「何が違うんです?」
 由夢は本校の制服姿のまま振り向いた。その目には涙が浮かんでいるようにも見えた。
「それは……」
 言葉に詰まる。正直なところ、由夢に魅力がないわけじゃない。由夢だって可愛いし、まぁ、がさつではあるがそれなりに頑張りやな所もある。何がいけないわけじゃない。
「お姉ちゃんはいいなぁ」
「え?」
「お姉ちゃんってさ~。頭は良いし、可愛いし、性格良いし、お料理も上手だし……まさに完璧を絵に描いたような女の子だもんね。そりゃ、皆、お姉ちゃんのこと好きになっても不思議じゃないよね~」
「た、確かにそうだけど。けど、お前にもお前の良いところが」
「もういい!」
「由夢?」
「慰めなんか、聞きたくない。惨めになるから」
 そう言うと由夢はすたすたと歩き出してしまった。
「由夢!」
「さようなら……兄さん」
 そのまま由夢はまるで煙のように消えた……。


 「……くん? 弟君?」
 音姫が俺を呼んでいる……。今のは、夢? それにしてはなんて嫌な夢なんだろう。
 俺はがばっと起き上がる。
「きゃっ! び、びっくりしたぁ。どうしたの? なんか、すごい汗だよ? 悪い夢でも見た?」
「い、いや。なんでもない。暑いからかな?」
 俺はパジャマを脱ぐと扇風機の前に座りスイッチを強にした。
「そんなことしてたら風邪ひくよ? ちゃんとタオルで拭かないと」
「大丈夫だよ! 俺はめったに風邪ひかないタイプなんだ」
 やれやれという具合に音姫は台所に戻った。
 一応、悟られてはいないみたいだな。由夢が俺の夢に出てきたなんて、いったい何を暗示しているのか? なんだかいやな予感がした。
 いつものとおり、二人で食卓を囲み、テレビを見ながら朝食を食べる。出掛けるときも一緒だ。何一つ変わらない一日の始まりだが、どうも何か引っかかる。あの夢を見たからだろうか?
「どうしたの~? もう出掛けるよ?」
 音姫が俺の顔を覗き込んだ。
「あ、ああ。行こうか」
「あのあと、すぐ寝ちゃうんだもん! せっかくお姉ちゃんがみっちり事前指導してあげようと思ったのにぃ」
「あ、あはは。疲れてたみたいだからさ」
 思えば昨日は色んなことがあったなぁ。まるで一日が一週間に感じたくらいだった。
 そんな物思いにふけりつつ、大学の構内に入っていった。
「ねぇねぇ弟君! テスト終わったら、初音島に戻る前にさ、温泉行かない?」
「温泉?」
「いいでしょ~! この前テレビでさ、ここら辺に天然温泉が出たってやってたんだ~! 一度行ってみたくてさ!」
 温泉か……。そういえばしばらくその手のものに入ったことがないな。骨休みの意味を込めて、それもいいかもしれない。
「そうだな。行くか! 温泉!」
「そうこなくっちゃ!」
 音姫は飛び上がって喜んだ。
 その時、音姫の携帯が鳴った。
「ごめんね。電話みたい」
 ディスプレイを確認した音姫の顔が硬直する。気になって覗いてみるとそこには“朝倉由夢”と表示されていた。
「由夢……」
 勇気を振り絞るように、一度深呼吸をしてから、音姫は通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『あ! お姉ちゃん?! おじいちゃんが……おじいちゃんが!!』
 由夢の絶叫に近い声が俺のところまで聞こえてくる。
「あ、ああ……由夢ちゃん? 落ち着いて? おじいちゃんがどうしたの?」
 いやな予感が的中した。純一さんもいい年頃だ。いつ何があってもおかしくなかった。特に、俺が初音島を出るころには体調もあんまり良くなかったことを今でも忘れることが出来ないからだ。
『おじいちゃんが……急に倒れたの! 今、救急車で病院に来てるんだけど……』
「そう。先生はなんて?」
『お姉ちゃん?! どうして? どうしてそんなに落ち着いてるの? おじいちゃん、死んじゃうかもしれないんだよ?』
 由夢の気持ちは分からなくもない。けど、俺らではどうしようもないことなのだ。音姫のように落ち着きすぎもどうかと思うが、少し落ち着かせるのが吉だろう。
「音姉、ちょっと貸して?」
 音姫から携帯を奪う。音姫は『駄目!』というように首をふったが気にしてなどいられない。このままでは、由夢が混乱状態から抜け出せずに、患者がもう一人増えてしまうかもしれない。
「由夢、とりあえず落ち着け」
『兄さん?! あなたまでそんなことを……。兄さんには関係ないじゃん! 部外者は黙っててよ!』
 予想を超えた由夢の反応に、少し戸惑ったが、ここは折れるわけにはいかない。由夢。お前のためだ。分かってくれ。
 そう祈りつつ、言葉を続けた。
「部外者なんかじゃない。俺も純一さんにお世話になった。お前と、音姉と、三人で一緒に育ってきたじゃないか。家族のいない俺にとって、純一さんやお前は家族同然。それに……」
『うるさい! お姉ちゃんに代わりなさいよ!!』
 だめだった。俺は間違っていたのか。
 見かねた音姫がそっと俺を抱き寄せ、携帯をとった。
「由夢ちゃん、言いすぎよ。弟君に謝りなさい!」
『いやよ! 兄さんのせいで……兄さんが悪い!!』
「由夢ちゃん!」
 最初は落ち着いていた音姫も思わず声を荒げた。キャンバス内を行きかう学生は、音姫の声に驚き、足を止めてこちらを見ている。
『もう知らない! 勝手にすれば良いじゃない! 兄さんもお姉ちゃんも大嫌い!!』
――ガチャ。ツー。ツー。ツー。
 むなしい電子音が繰り返される。
 音姫は呆然と立ち尽くし、その音を聞いていた。俺はそんな音姫を後ろから抱きしめるしか出来なかった。


音姉とボク(18歳未満閲覧禁止)

2007-02-19 13:59:56 | Weblog
 「……。これで良しっと……」
 翌朝、音姫が起きる前にこっそりと起き、杏からの指令を実行すべく小恋にメールを送った。
 朝、早い時間にメールを送るのはいささか抵抗があったが、この時間しかこっそりメールを送る時間はないので仕方がない。何しろ、音姫にばれてしまったら相当やばいことになりかねない計画を実行に移そうとしているのだ。慎重にならざるを得ない。
 さらに俺は、念には念を入れ、送信メールを削除した。
「……。これで、良かったんだよな……」
 そんな疑問に誰一人、答えてくれる人はいなかった。
 小恋からの返信メールは、学校に着いた瞬間に来た。もちろん、隣には音姫が居たのでその場で開くことはしなかった。
「今日も良い天気ねぇ。なんだか、今年の梅雨は全然雨が降らないよね」
 左の薬指には、昨日買いに行ったペアリング『永遠の愛』が刻まれたものがはまっている。音姫は時々、ちらちらとその指輪を見ては、幸せそうに微笑むのであった。
 正直な話、相当心が痛い。
 こんな計画、すべてを無にして音姫と二人、隠れながらでもいいから、誰にも邪魔されずに過ごしたい。しかし、動き出してしまった計画をとめることなど出来ないのだった。
「明日は音姉の誕生日だしな。この天気もその前祝いなんだろ」
「え~? 前日に晴れて、当日に雨が降られても困るよぉ。お天気予報では明日の空模様、怪しいらしいし……」
 そう。天気マークは曇りになっていたが、ところによってはにわか雨が降るらしい。こればっかりは、俺の力ではどうしようもない。
確かに音姫の普段の行いを見ていれば、雲ひとつない快晴で音姫の誕生日を祝福しても、バチは当たらないはずだ。
 となると……。明日の予報が芳しくないのは……。
「……俺の……せいだよな」
「ん? どうしたの? 何か言った?」
「い、いや。なんでもない。明日、何とかして晴れてくれないかなぁってさ」
「あ~。くすっ。その気持ちだけで充分だよぉ。ありがとね。弟君」
 にこっと笑った音姫。
 この笑顔を守ると誓ったあの朝。あの時点では、まさかこんな状況になるとは思っても見なかっただろう。
 俺は自分を見失いそうだった。
「……。最近の弟君、変だよ?」
「え? お、俺っても、もともと変じゃなかったっけ? あはは」
「変じゃなかったよぉ。そんなに変な子だったら私、好きになってないもん。どうしたの? 何か、悩みごと?」
 限界が近づいてきていた。これ以上、音姫に嘘はつきたくない。だましたくない。でも、今実行中の計画を打ち明けるには、俺の心が弱すぎた。
 もうひとつの隠し事。これを打ち明ける決意を俺は固めた。
「音姉、最近、初音島のニュース見た?」
「え? ううん? 最近、テレビはドラマかお天気予報しか見てないなぁ。何かあったの?」
「実は……」
 俺は、初音島の枯れない桜が復活していることをついに告げた。同時に、その原因が二通り考えられること、夏に初音島に帰ったらその原因をつきとめて、早急に桜を枯らしたい旨を伝えた。
「そっかぁ。でも、そんな大事なこと、どうして黙ってたの? 隠し事はしないって約束だったよね?」
 痛いところをつかれた。
「音姉に……またつらい思いをさせたくなくて……。特にあの桜が、由夢の仕業だとしたら」
「言ったでしょ? 私は、弟君……義之と一緒に居れるならどんなつらいことでも乗り越えていけるって。それくらいの覚悟は出来てるって!」
「うん……。ごめん」
「謝らないで!」
 音姫はすごい剣幕で俺を見た。いや、睨んだという表現がぴったりかもしれない。
「義之は、そんなに私のこと信用できない? 私はどんなときも義之を信じてきた。この前聞いたよね? 『何か隠し事してない?』って! そしたらあなた『してない』って言ったよね? あれ、嘘ついたんだね? どうして? そんなに……そんなに私って頼りない? 私の方がお姉さんなんだよ? もう少し頼っても良いと思う!」
「あ……。うん……」
「信じられない! 義之は嘘つく人じゃないと思ってたのに! がっかりしたよ……」
 そう言い放つとスタスタと自分の教室へと向かってしまった。
「音姉……」
「少し、頭を冷やしなさい? お姉ちゃんがなんで怒ってるのか、考えてごらんなさい」
 振り向きざまに言った音姫の一言がとどめとして俺に刺さった。
 初音島のことを告げただけでこうなってしまったのだ。例の計画を告げたとしたら……。
 恐ろしくて想像が出来ない。きっと……。
 俺は立ち尽くしたまま、身動きをとることが出来なかった。何時間経ったのかも分からない。
そんな時、俺の携帯に電話が入った。
 音姫かと思って少し期待したが、ディスプレイに表示されていた名前は違う人だった。
『もしもしぃ? メール送ったのに返事なかったから、電話しちゃった。今って電話大丈夫?』
 小恋だった。通話ボタンを押すなり明るい声が俺の耳に届いた。
「あ……あぁ。ごめん……」
『? 今日、元気ないね? どうしたのぉ?』
「い、いや……。そんなこと、ないと思うぞ? あはは」
『さては音姫先輩と喧嘩でもしたな~? 大丈夫よ、義之ぃ。もし、音姫先輩と別れたらぁ、私が義之の彼女になってあげるから! なんちって。えへへ』
 真面目に冗談きついです……。このタイミングでその言葉は俺に相当なダメージを与えた。
『冗談はそこまでにしてぇ。今日の夕方で良いんだよね? どこで待ち合わせする~?』
「あ、うん。どこでも良いぞ」
 半分、ヤケを起こしている俺に何を聞いても無駄だ、小恋。
『じゃあ、4限の講義が終わったら電話するね! 今日はいっぱいおいしいもの食べるぞぉ。楽しみ! じゃ、またねぇ』
 言いたいことだけ言ってさっさと切ってしまった。
 なんだかおかしくなって、俺は空笑いを繰り返した。
「何がそんなに面白いのかしら~? くすくす」
 一番、聞きたくない声がした。
「杏……」
「ふふふ。見てたわよ。凄い迫力ね、音姫先輩。この計画をばらしたらどんな風になるのか見てみたいわね……」
「や、やめろ……。そ、それだけは勘弁してくれ」
 俺はとっさに杏に土下座した。道行く人が不審がってこちらを見てくるが、気にしてはいられない。音姫を失うくらいだったら、どんな恥さらしにでもなってやる。
「ふふ。必死ね。大丈夫よ。そんなことはしないから……多分ね」
 にやりと笑った杏の顔が悪魔に見えた。小悪魔なんて可愛いものじゃない。完璧な悪魔の微笑だった。
「今日の予定は? 義之」
「え? あ……。一応、小恋を飯に誘ったぞ。あいつが授業終わったら俺に電話かかってくるはず」
「そう。よくやったわね。義之にしては上出来じゃない。合格よ」
 杏が土下座をしていた名残で座り込んでいる俺の頭をなでてきた。
「ふふ。可愛いわ。義之って、こんなに可愛い子だったかしら? 小恋に渡すのももったいないわね……」
 正直、付属の頃の杏はこんなじゃなかった。何が原因でこんなに変わってしまったのだろう……。
 何が原因……?
 頭の中で何かが引っかかっていたが、それが何なのかは分からなかった。
「義之、立てる?」
 杏が手を差し伸べてきた。
「あ、ああ。大丈夫だ」
 俺は杏の手を借りずに立ち上がった。別にどこか具合悪いわけではないのだから、すんなり立てるはずだった。
 しかし、立ち上がった瞬間に目の前がふらふらしだした。
「立ちくらみね……。全く、情けないじゃない。義之」
 相当参っているみたいだ。
「ちょっと、保健室で休んでくるわ……」
「そうしなさい。夜までには体力を回復してもらわないと……。あの小恋を抱けないものね。くすっ。楽しみにしてるわよ」
 そういうと杏はあっという間に俺の視界から消えた。
 あいつ、そんなにすばしっこかったか? そのときは、そんなに気にもしなかった。
 これが、歯車が狂いだした序章であったと言うことに、俺は気づかなかったのだった。
 
 
 「おいしかった~! ありがとね! 義之」
 サイダリアから出た瞬間、小恋が満面の笑みでそう言った。
 小恋のやつ、落ち込んでいる俺を知ってか知らずか良く注文した。
 パスタにドリア、ケーキやアイス、さらにはドリンク飲み放題まで……。俺はただただ呆れて、コーヒーを飲むのが精一杯だった。
「今日はありがと。また、誘ってね~! 今度は私も出すからさ」
 小恋が帰ろうとしている。まぁ、このまま何事もなく済めばそれはそれでいい。
 俺は小恋に手を振ろうとした瞬間、激しい視線を感じた。
「っ?」
「ん~? どうしたのぉ? 義之ぃ」
「い、いや。なんか変な視線を感じてな……」
 キョロキョロと周りを見回した俺の視点がある部分でぴたっと止まった。
 建物の物陰から、なんともいえない呪詛のオーラを出してこちらを見ている杏の姿が目に入ったからだ。
「ははは……」
「どうしたのぉ? 何か居た?」
「い、いや。なんでもない。ちょ、小恋。これから時間空いてるか?」
「ん~? 今日はちょうど暇だったんだぁ。なになに~? どこか遊びに行くのぉ?」
「い、いや。ちょっとな。ははは。お前ん家、行っても大丈夫か?」
「ほぇっ? だ、大丈夫だけど……散らかってるよ?」
「構わないさ。ささっ、行こうか」
 俺は無理矢理その場から小恋を連れ出した。これ以上、あの目で見られてたら何か不吉なことが起きる予感がしたからだ。
 杏のやろう……。そこまで俺に小恋を抱かせたいか……。抱いてやろうじゃないか! こっちだって半ヤケ起こしてるんだ。何がどうなったって動じるものか!
「でも、家に来てどうするの?」
「い、いやぁ……。ほら、この前家に来た時にお前が抱いてって言ってたからさ……」
「え~!? あれ、本当にやってくれるの? ってことは、音姫先輩とは……」
「一回だけだ! それ以上はまけられん!」
「どういうこと? なんでいきなり?」
「くぅ~……。それはお前の大親友に聞いてくれ!」
 そういうと小恋は真っ赤な顔をさらに赤くしていた。多分、怒ってるんだと思うが俺の知ったことではない。
「杏~! また余計なことをして~!」
「んん~……。よ、余計なことなら、抱かなくても良いか?」
「そ、それとこれとは話が別だよぉ。せっかく義之がその気になってくれたんだから……良いよ? 一回だけでも……」
 少し照れたようにうつむいた。
 小恋のそんな姿に心なしかドキドキしている俺が居て驚いた。同時に今、この瞬間に小恋のことを女として見ている自分がいることに、苛立ちも感じていた。
「分かった……」
 程なくして、小恋の家についた。
 小恋が散らかってるといっていた部屋は、案外片付いていた。俺が想像する散らかるというものとの差を目の当たりにした瞬間だった。
「あぅ……。わ、私はどうすればいいの?」
 荷物を置いた小恋がもじもじしながら俺に尋ねてきた。
「本当に、後悔しないんだな?」
「うん……」
「俺が本当に好きなのは音姫だからな?」
「うん……悔しいけど……」
「じゃあ、行くぞ?」
 俺は持っていた荷物をその場に放り投げると小恋を強く抱いた。
「ふぇっ……。く、苦しいよぉ、義之ぃ」
「え? あ、すまん……」
「まぁ、良いけど……。ちゅう……して?」
「ん……」
 小恋のリクエストに応えてやった。音姫とはまた違った感触。
 俺は音姫とのキス以上に小恋とのキスに酔いしれていた。そんな感覚がまた、俺の興奮を呼び起こしていた。
 後ろめたさと罪の意識。
 この二つが俺を加速させた。無意識のうちに俺を取り込んでいた。
 もっと、強く、激しくこの子を抱きたい。この子のすべてを見てみたい。音姫以外の女の子が裸になる姿を見てみたい。触ってみたい。この手で、犯してしまいたい。
 欲望は次の欲望を生んでいく。
「んぁっ……。は、恥ずかしいよぉ」
 小恋のその一言で我に返った。俺は小恋の服を乱暴に脱がしているところだった。
「義之ぃ……。や、優しくしてよぉ」
「す、すまん。なんか、小恋が可愛くてさ」
「音姫先輩には劣りますけどねぇ」
「そういうことを言うか、こういうときに」
「だってぇ。義之、私を見てないもん……。今日くらいは……音姫先輩のこと、忘れちゃいなよ……」
「言われなくてもそうしてる。今は激しく小恋を抱きたいと思ってる」
「本当かなぁ? 途中で『音姫~』なんていったら、義之の大事なところ、蹴り上げてやるんだから!」
「はは……。言わないように努めます」
「よろしい! あぅ~。やっぱり、服は自分で脱ぐよ……。お気に入りの服なのにくしゃくしゃになっちゃった……」
「あ、ごめん……」
 小恋は『別にいいよ』というと、ゆっくりと服を脱いでいく。音姫に負けないくらいの白い肌があらわになった。そして下着に取り掛かろうとして
「や、やっぱり恥ずかしいよぉ」
 赤面してしゃがみこんでしまった。
「後は、俺がやってやるからさ」
 小恋をその場で押し倒し、そっとキスする。
「んっ……んんっ……んぁっ……よ、よしゆきぃ……」
 いつも音姫とHする時のように深い、深いディープキスからはじめた。
「じゃ、いくよ?」
 そういうと俺は小恋のブラを外しにかかった。それにしても小恋のやつ、ものすごいブラをつけているんだな。音姫のように可愛げがあるブラではなく、本格的に大人なブラだったことに少し驚いた。
 ブラのホックが外れ、小恋の胸が現れた。
 なるほど、ビーナスのあだ名はだてじゃなかったということか。
 俺はそのあふれんばかりの双丘を揉みほぐし始めた。
「んあっ……。義之のぉ……え、えっちぃ……んんっ……」
「す、すごい柔らかい……」
 俺は片方の乳首に口をつけ、舐めてやった。
 とたんに、小恋は激しくあえぎ始め、俺は徐々に優越感に浸っていく。
「んっ……やぁ……そんな、は、激しく吸っちゃ……。だ、だめぇ……あっ……」
 小恋は本気で感じているみたいだった。
 下半身に手をやる。パンツはもぅじっとりと湿っていた。
 そっと口を離す。
「小恋、こんなに濡らしちゃって……。案外お前もエロいんだな」
「ぶ~……。女の子って皆、意外にエッチなんだぞぉ~!」
 顔を赤らめながら、必死に訴えかけてくる小恋。そんな姿が可愛くて俺は次なる攻撃を仕掛ける。
「あっ! そ、そんないきなり触っちゃ……い、いやっ……」
 小恋の股間に指を忍ばせ、泳がせた。パンツを脱がさず、脇から指を挿れているそんな状況がまた俺に興奮をもたらした。
 中指を追うようにして、人差し指も挿入した。
「んあっ……やっ……あっ……ああっ……も、もっとぉ……た、足りないよぉ……」
 指二本、小恋の中で暴れさせているのだが、小恋にとってそれはお遊び程度にしか感じていないらしかった。
「もう一本、挿れていいんだな?」
「んっ……う、うんっ……ちょ、ちょうだい……あっ……」
 いったん、すべての指を抜いて、しっかりと指を湿らせまた小恋の中に挿れていく。
 少しきつかったが、すんなりと三本入っていった。
 俺はいたずらにその指を動かす。
「あっ……ああっ……んっ……んあっ……だ、だめっ……。し、死んじゃうよぉ~……あっ……ああああっ……」
 その瞬間、俺の手に大量の愛液がかかった。
 どうやら達してしまったらしい。
「はぁ……はぁ……。義之ぃ。義之が欲しい……。挿れて? 義之をちょうだい?」
 上気した顔でお願いしてくる。
 俺の下半身は我慢の限界を超えていた。
「んじゃ、挿れるぞ?」
「んっ……きて……」
 パンツはぬがさず、ずらしたまま俺は挿入した。
 少しずつ奥へ奥へと進んでいく。そして根元まで入った。
「あっ……んんっ……。う、動いて? は、激しく……」
「良いんだな?」
「うん……」
 俺は小恋のリクエストに応えるべく、激しく腰を振った。とたんに小恋はあえぎ声を出した。同時に小恋の胸が揺れて、その光景は本当にエロかった。
 音姫とはまた違った魅力がある子だなと思った瞬間だった。
「あっ……ああっ……だめっ……死んじゃうよぉ……んあっ……んんあああっ……」
「可愛いな。お前……」
 正直な感想だった。このまま、この子と一緒にいてもいいような感じがした。
「よ、よしゆきぃ……んあっ……あっ……んんっ……」
「そろそろ、いきそうだ……」
「いいよ。わ、私も……いくぅぅ」
 俺はラストスパートにと、激しく腰を振った。限界点が近づいてきた。ふと、ゴムをつけていないことに気づき、外に出そうとしているとき
「あっ……!! ああっ……!! だ、だめ~! い、いくぅ」
 小恋がきつく抱きしめてきた。
「よ、よせ。このままじゃ……」
 それをとめる術を俺は持っていなかった。
 俺の精液は大量に小恋の中に流れていったのだった。
「はぁ……はぁ……。き、気持ちよかったよぉ。義之ぃ」
「んあ……。そ、それよか大丈夫なのか? 中に出しちまった……」
「だ、大丈夫。何とかなるよ。えへへ。よしゆきの精液だぁ。感じるよ、暖かい……」
 俺の心配とは裏腹に満足げだった。
 その後、二人でシャワーを浴び、服を着た。
「あ、その指輪。音姫先輩とのペアリング?」
 小恋が目ざとく俺の指輪を指摘した。
「ああ、そうだけど?」
「いいなぁ。私にも欲しいなぁ」
「ペアリングをか?!」
「違うよぉ。何でも良いかなぁ。義之がくれるものだったら……」
 小恋はにっこりと笑った。
「そうだな。考えとくよ」
「ほんとっ? 約束だよぉ!」
 嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる小恋を見て、少し安心した。
 これで、いつもの小恋に戻ったわけだし、杏の指令は無事にクリアしたわけだ。
「じゃあ、そろそろ俺、帰るわ」
「うん! 今日は本当にありがとね!」
 玄関先で大げさに手を振る小恋。俺も少し遠慮がちに手を振りながら小恋の家を後にした。
 時間を確認しようと携帯を開いた。
 ディスプレイは一件のメール受信を知らせる画面になっていた。慌てて開いてみる。受信時刻は今から約一時間前。
『弟君……。今日はごめんね? お姉ちゃん、少し言い過ぎたかもしれない。きっと弟君は私のことを思って黙っててくれたんだよね? 本当にごめんなさい。家で弟君の帰り、待ってます。早く帰ってきて……。会いたいよぉ。会って、謝りたいよぉ。わがままでごめんなさい……。      音姫』
 携帯を閉じ、全力疾走する。
 音姫が待っている!
 早く音姫の元に行ってやらなきゃ。
 もう、悲しませたくない!
 俺は赤信号も無視して、何回も轢かれそうになりながら家路へと駆け出していった。

音姉とボク

2007-02-16 17:57:41 | Weblog
 制服は良い。
 皆が同じものを着ることによって一体感が出るし、さらには着こなし次第ではそれぞれの個性が出る。
 そして何より。
「可愛い……」
 そう、可愛いのだ。
 物心ついた頃から初音島に居た俺にとって、本島の多種多様な制服が珍しくて仕方がない。
 ブレザー。セーラー。
 どちらにも、それぞれの良いところがある。
 さらに言えば今日は日曜日だ。数少ない制服女子高生を見かけるたびにかなり目立つ。そしてその女子高生たちがまた可愛かったりするのである。
「もぉ~! また見てる……。弟君ってそんなに女子高生が良いの?」
 隣を歩いていた音姫が唇を尖らせて抗議してきた。
「え? み、見てない見てない! それに、あの子達と音姫を比べたら足元にも及ばないから!」
「どっちがどっちの足元にも及ばないのかしらねぇ。しっかりとチェックしちゃって」
 完璧にご立腹であった。
 今日は約束の日曜日。音姫の誕生日プレゼント探し兼、久々のデートなのだ。ほかの女の子に目移りしてる場合ではない。
 一生、音姫と一緒に居るという決意は、制服という魔物によってすっかり侵食されるところであった。
「私だって……。ちょっと前までは制服……着てたんだからね?」
――ちょっと。
 女の子が言う『ちょっと』とはどのくらいまでを指すのだろうと少し首をひねった。
「そりゃあ、可愛いよ? 私だってあんな制服着たかったんだから。それにね、今だって頑張ればまだまだいけるんだから!」
 音姫が本校を卒業して数年の今日。音姫はまたとんでもないことをしでかそうとしてたので、そこはしっかりと止めておいた。
 少なからず音姫の制服姿をもう一度拝んでみたい気持ちもあったが、それは二人きりの時のほうがいいだろう。うん。色々な意味で危ないからな。
「それよか、まだ気に入ったものは見つからないのか?」
 すでに今入ろうとしてる店で十八件目である。いささか俺の足も限界といわんばかりに重さを感じ出した。
「えへへ。実は、もう決めてあるんだよ?」
「だ、だったら最初からそこに行けば……」
 すると音姫は『わかってないなぁ』といわんばかりに首を振った。
「こういうのはね、一番最初に目的を達成しちゃったらつまらないでしょ? 色々ぐるぐると回って、色々と見て、色々試してみるのが楽しいの。それがデートってもんじゃない?」
「……。よく、分からないが、音姫がそれで良いって言うなら、良いんじゃないか?」
「なぁに? そのやる気のない言い方は~。もぅ、男の子なんだからもっとしゃきっとしてよぉ。これくらいで疲れてちゃ、私と由夢ちゃんのお買い物についていけないよぉ?」
 音姫は言った後にハッとなった。
 やっぱり気にしているんだな。由夢を一人、初音島に残してきたことを。
「まぁ~。俺がその買い物に付き合うかどうかって言う選択肢があるのかないのかはよく分からないが……。夏休みはいっぱい、由夢との時間をすごしてやれ」
「うん……。そうする」
 とりあえずこんなで応急処置はオッケーだろう。なんだかんだ言って俺だって由夢のことが気にならないわけではない。
 さらに悪いことは、初音島の桜が復活しているということ。しかもそれの原因がひょっとしたら由夢にあるかもしれないこと。
 未だに音姫には内緒だが、初音島に帰る前には告げなければいけないだろう。
 初音島に着くなり桜が復活している様を見て、卒倒されてもかなり困るからな。
「んで? この店では何を見て回るんだ?」
「あ、えっとね。実はこのお店がゴールだよ。私が欲しいものはねぇ……」
 音姫がキョロキョロと店内を見回し、あるショーケースを指差した。
「ペア……リング?」
「……そう。半分、出すからさ」
 そういえば付き合ってから数年経つというのに未だに俺らの指にはその手のものが存在しない。
 音姫個人で言えば、俺が一昨年あたりの誕生日プレゼントに買ってやった指輪を持っているのだが、俺はアクセサリー類とは無縁の生活を送ってきた。
「指輪……かぁ」
「い、いやかな?」
 音姫がお願いするときにするあの、子犬のような目で俺を見てきた。
「べ、別に嫌じゃないけどさ。なんか、こう改まって買うとなると少し気恥ずかしい気がするなぁってさ」
「弟君って案外照れ屋なんだね」
「そんな意外性がウリなんでな」
 するとそんな俺らに店員さんが話しかけてきた。
「お仲がよろしいんですね。本日はペアリングをお探しですか?」
「え? あ、ああ。は、はい。そ、そうです!」
 いきなり話しかけられて混乱する音姫。店員さんはそんな音姫を見て、クスッと笑った。左手の薬指にはシルバーの指輪が光っている。
「あの、店員さんのそれもペアリングですか?」
 我ながら野暮ったいことを聞いたと思う。それでも店員さんは嫌な顔をひとつせずに笑顔で答えてくれた。
「これですか? これは、婚約指輪なんですよ」
 にっこりと幸せそうな笑顔。きっとこの笑顔は営業スマイルではないんだろうな。見た感じ新婚ほやほやっていうオーラを放っていた。
「お二人はお付き合いしてどれくらいなんですか?」
「俺たちはもぅかれこれ三年くらい経ちますね。だよな?」
「え? ええ。もぅそんな経ったんだねぇって感じだよね」
「ふふふふふ。お仲がよろしいんですね。羨ましいです」
 店員さんも幸せオーラふりまいてるくせに……。
今回はぐっとこらえた。きっとこれも営業マニュアルみたいなものにそってのことなんだろう。ああ、そう考えてしまう自分が果てしなく嫌だ。
「それでしたら、良いものがあるんですよ」
 どうぞ、といわれて店の奥に案内される。
 周りを見渡してもカップルしかいなかった。そりゃ、ひとりでペアリングなるものを見ても、むなしいだけだしな。
 そんなことを考えていたとき、いったんバックヤードに下がっていた店員さんが戻ってきた。
「これなんかどうでしょう。このリングの内側部分にフランス語で『永遠の愛』と書いてあるんですよ」
 確かに見たこともない単語が筆記体で書かれていた。なんて読むのかはフランス語を勉強していない俺にはわからなかった。
 もっとも、英語だったとしてもきっと読めない自信がある。
「へぇ~。なんか、良いよね! 他にお勧めとかありますか?」
 音姫がノッてきた。女の子の本領発揮である。
 他にも三、四個と見比べてみたが、俺にとっては同じ指輪にしか見えなかった。そこで俺は、すべての選択は音姫にゆだねることにした。
 それでも音姫は最後の二択で迷っていて指輪を俺に見せてきた。
「ねぇ。どっちがいいかな?」
 正直……見分けがつきません。
「こっちがね、一番最初に店員さんが持ってきてくれたやつで、こっちはね、デザインがちょっと可愛いの。どっちも捨てがたいんだけどぉ……。弟君はどっちが良い?」
 最終決定権が俺に回ってきたらしい。
「ん~……。俺としては音姉とずっと一緒に居たいから……。こっちかなぁ」
 最初に店員さんが持ってきてくれた『永遠の愛』と刻印の入った方を指差した。
「弟君ったら~。ずっと一緒に居るに決まってるじゃない! でも、私もこの刻印、良いかなって思っててさ」
「お熱いんですね。お二人とも」
 店員さんがからかってきた。
 音姫は顔を真っ赤にして、少しうつむきかげんだった。
 そんな初々しい反応が出来るお前が本当羨ましいよ。まぁ、そこが好きなんだけどな。
「えっと、こっちでお願いします」
 俺が指輪を店員さんに渡した。
「号数はいかがなさいます?」
 号数? 何じゃそりゃ。
「私は七かな? 弟君、号数って測ったことある?」
 だから、号数って何?
「よろしければ、お測りしましょうか?」
「あ、ああ。お願いします」
 俺は流されるがままに店員さんの指示に従った。それにより俺の号数とやつは『十三』であることが判明したのだった。
「指、細いんですね。素敵です」
 ほめられた。確かに、友達と指の太さを比べても圧倒的に俺のほうが細かったが、ほめられるほどのことなのか? これは。
「それでは在庫を確認してまいりますので少々お待ちくださいませ」
 ペコリとお辞儀をして、またバックヤードへと入っていった。
「いよいよだね」
「音姉、はしゃぎすぎ」
「だってぇ。永遠の愛だよ? 永遠の愛! なんか、素敵じゃない~?」
「そのまま結婚指輪にしても良い感じだな」
「え~! それはそれで別に欲しいよぉ」
「うっ……。経済的余裕が出来たらな」
「うん! プロポーズ、楽しみにしてる!」
「そういうことを言うか? 普通」
 そんなやり取りをしている間に店員さんが戻ってきた。
「ちょうどお二人の分、ありましたよ。こちらで、お間違えないですね?」
 確認のために店員さんが二つの指輪を俺たちに見せた。確かに。よく分からない筆記体が入っていたから間違いないだろう。
「それではお会計のほうお願いします」
 俺らはレジに誘導された。そこでお金を払い、お互いの名前が入れられることや、手入れの仕方などを説明された。
 店を出た頃にはもう薄暗くなってきていた。
 音姫が今その指輪をはめたいと言ったので、お互いがお互いの指にはめっこした。
 なんだかこそばゆかったが、これでまたひとつ、音姫とのつながりが増えたのかと実感することが出来た。
 まさにそのとき、俺の携帯がメールの受信を告げた。
「ちょっとごめん」
 携帯を開いて俺は少し動揺した。
 送り主は……杏。
『明日の夜、小恋を夕食に誘いなさい。ちょうど明日の夜だったら小恋も予定ないし、音姫先輩の誕生日ともかぶらないでしょ? ふふふ。結果報告、楽しみにしてるわよ』
「誰から~?」
 音姫が俺の携帯を覗き込もうとしたのであわてて携帯をしまった。
「え、えっと。と、友達だよ。そう、大学の友達!」
「ふ~ん? でもなんでそんなにあわててしまったの? ……あ~! ひょっとして女の子っ?」
 女の子……には違いないのだが、本気で大学の女の子だったらどんなに良かったかと思った。
「え? ち、違うよ! あのバカ、『音姫さんとは今日は何回やったんだ?』とか送ってきたから、慌てちゃって。あはは」
「あのバカって?」
「え、えっと……す、杉本! そう、杉本だよ! 音姉も一回会ったことあるだろ?」
「あぁ。あのメガネかけてて、ちょっと根暗そうな子? あの子、そんなこと言うんだ~。ちょっと意外かな。でも、男の子ってそんなものなのかな?」
「そ、そうだね。あはは。俺も男だから、なんとなくあいつの気持ち、分かるかな。あはは」
「でも、弟君はそんなにエッチじゃないもん。そこが良いところなんだからね! ものすごくエッチになっちゃったら、お姉ちゃん、嫌いになっちゃうかもよぉ~」
「う、うん……。約束する」
「あはは。冗談だよぉ」
 音姫はケラケラ笑い出した。
 音姫……本当にごめん! お前に何回嘘ついたか分からないよな。
 今、出来ることならお前に土下座をして謝りたい。まだ未遂とはいえ、許してくれないかもしれない。でも、これ以上、嘘つくよりはましな気がする。
 でも、でもだ。この作戦が上手くいけば、もう悩むこともなくなるし、音姫との関係もきっと、もっと深いものになる気がする。
 本当にごめんな。心の中でしかお前に土下座できないなんて……。
「どうしたのぉ?」
 音姫が心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「え? いやぁ。ちょっとね……」
「なぁに? お姉ちゃんに話せることなら話してみてよ?」
「い、いやぁ。えっと……その……。そうそう! そいつが明日一緒に飯食わないかって言ってきてさ! ちょっと迷ってるんだよね……」
 聞く人が聞いたら絶対に嘘だとばれるような嘘だったが、音姫は信じてくれた。
「そっかぁ~。じゃあ、明日は何か適当に食べるよ。弟君もお友達づきあい、大事だからさ。私のことは気にしないで楽しんできて! そうだ。私もお友達のところに上がりこんじゃおうかなぁ」
「それって……」
「大丈夫! いつも大学で仲良くしてくれてるなっちゃんだから。そんな、男の人の家になんか行くわけないじゃん! だから、安心して?」
 音姫が俺の頭をなでてきた。いつもとは立場が逆になったが、嫌な感じはしなかった。
 むしろ音姫のその手は暖かくて、優しかった。
 ただひとつ、俺の中に音姫に対する申し訳なささえなければ、そっと音姫の胸に沈んでいきたい気分だった。
「帰ろう?」
「ああ」
 どことなく後ろめたさを感じながらも、音姫と二人、手をつないで家路に向かった。

え?

2007-02-15 21:54:53 | Weblog



にゃぁ~♪
今日は給料日なり~☆☆
買いたくてずっと我慢してたCD買って来ました~♪
「スケッチスイッチ」「少女迷路でつかまえて」「あい」「Love Power」「水平線の彼方で」の5枚~♪
にゃぁ~♪特にスケッチスイッチがお気に入り~☆
ずっと欲しかったもんww


ってか、今日久しぶりにあのお方にお会いしました♪
なんでも最近は同人活動に飽きてゲームを作りたいんだとか(×_×;)
んで「シナリオ誰がやるの~?」って聞いたら、ネットで知り合った人に書いてもらうんだそうです☆
へぇ~♪じゃあ、完成したら楽しみだなぁ♪って思ってたら
「でもハチキン(18禁)の部分は書いて?」


ぱーどぅん?

まぢでつかww
何故にピンポイントwww

「いやぁ。お前の方が経験あるでしょ」
みたいな事いわれてもwwww
ちょwww経験とかあんまし関係ないし~www


音姉とボク第6話前編

2007-02-13 17:49:12 | Weblog
 運命というのは怖いものだ。
 いつ、どこで、どう転んでしまうか分からない。
 今まさに、俺の目の前にその運命と呼ぶべきものが立ちはだかっていた。
「なんでお前がここに?」
 小恋が押しかけてきたあの日から数日が過ぎた。
 音姫は用事があるからと学校に残ったため、俺一人で帰り道をとぼとぼと歩いていた。
 そんな俺の目の前に現れたちびっ子でくるくるした髪を引っさげた少女。
「あら。久しぶりに会ったのに、ずいぶんな言い方じゃない? 義之」
 杏だった。
 相変わらず背が低い。俺は見下ろすようにして杏を見ていた。そんな俺を見て杏はくすりと笑った。
「相変わらずどっちつかずの男やってるみたいね……。まぁ、そうでなければ義之らしくないけど」
 大変に失礼なことを言ってくれる。俺はシカトすることにした。
「小恋の気持ち、踏みにじるつもり?」
 立ち去ろうとする俺の背中に突き刺さったその言葉はとてつもなく重たいものだった。
「……。俺だってどうすればいいのか、わかんねぇんだよ」
 俺は振り返る。杏の顔が悲しげにゆがんでいるのを見て驚いた。
「杏……」
 雪月花三人娘の一人、杏があんな顔をするのをおそらく俺は初めて見ただろう。いつも、姉妹のように仲の良かった親友の小恋が苦しんでいるのを目の当たりにして、杏自身もどうしていいのか分からないみたいだった。
「義之は……小恋のこと、どう思ってるの?」
「どうって……。嫌いではない。かといって付き合うことは出来ない。俺は……」
「音姫先輩と付き合ってるから?」
 俺の言葉を遮るように杏は言った。
「じゃあ聞くけど、もし音姫先輩と付き合ってなかったら小恋からの告白、受け入れるの?」
「それは……」
 正直、相当迷うだろう。
 音姫のときもそうだったように、今まで幼なじみ……もとい、妹みたいな小恋を恋人として見ることが出来るのか。微妙なところだった。
「あなたは小恋をただの親友にしか見れない……。違う?」
「……。それは、間違いじゃないと思う……」
 すると杏はクスリと笑った。俺にはその笑顔がかなり不気味に見えた。
「じゃあ、話は早いわね。義之、あなた、小恋を抱いてあげなさい」
「はっ? なんでそうなるんだよ」
「お友達づきあいは大事なのよぉ、義之。お友達の望みを叶えてあげるのが親友ってもんじゃない~?」
 とんでもない理屈をぶつけてきた。
 た、確かに友達は大事だし、友達づきあいを円滑に進めるためには相手の望みを叶えてやることは間違いないのだろうが。
「そ、それとこれとは話が別だろうが!」
「いいえ、違わないわ。小恋の一番の望みがそれだもの。それにね……」
 杏は意味ありげに笑うと、指で『耳を貸せ』と俺に指図してきた。仕方なく俺は杏に従う。
「あの子……。脱ぐとすごいわよ~」
 そんなことだろうとは思ったけど、こいつは俺の予想を寸分狂わず実践して見せた。
 あいつが脱ぐとすごいことくらい……なんとなく想像できる。実際、付属のときからあいつの胸は、全クラスの男子から『ビーナス』とあがめられてきた。余談だが『聖母』は茜だった。
「だ、だからと言って、付き合ってもないのに、そういうこと出来るかよ!」
 柄にもなく慌てていた俺を見た杏は、すっと真面目な顔をして言い放った。
「あら、私は出来るわよ。まぁ、相手にもよるけど……義之なら、うん。全然オッケー」
「うっ……なんでだ? なんで皆、俺なんだよ……」
 昔、ちょこっとだけかじったパソコンゲームの主人公みたいな状況だった。十二人のお姉さん全員、主人公のことが好きという、お姉さま萌えなやつにはたまらないストーリーだったが、俺にとってはそこまで面白いものではなかった。友達に勧められてなんとなくやってみたのだが、途中で飽きて結局誰も攻略しなかった。
「それはね……。義之には不思議なオーラがあるのよ。人をひきつけるような、ね」
「不思議なオーラ?」
「そう。上手く説明できないけど、なんだか一緒に居るだけで安心できるような……。それはそれは女の子にとってはたまらなくあま~いフェロモンというやつね」
 さくらさん、ごめんなさい。今日初めて、あなたを恨んでしまいました。この体質もきっとあなたが願ったことですよね?
「で……どうするの? 抱くの? 抱かないの?」
 結論を急がせる杏。
「抱くわけには……いかない」
「そう。じゃあ、私たちの友情もここまでってことね」
 にやりと笑った。この、小悪魔娘め。俺が小恋を抱くって言うまでねちねちと攻撃する気満々の笑みを浮かべてやがる。
「ざ~んねん。一回抱いてやれば小恋だって満足しちゃうのに」
「いや……。一回抱いてしまったら、次も次もって求めてこないか? 人間の欲望って、常にエスカレートするもんだし……」
 杏がわざとらしく深いため息をついた。
「あのねぇ。小恋だって子供じゃないのよ。でも、どうしていいか分からない。だからこうして私がアドバイスしてるの、わからない?」
「そんなこと言ったってお前は小恋じゃないんだから……」
「私が小恋だったら……ううん? きっと小恋もそうだと思うわ。義之に一回抱いてもらえばそれで満足しちゃう。だってあの音姫先輩から一回だけだけど、義之を奪ったことには変わりないでしょ。それってすごいことよ」
 くすくすと笑いながら怖いことを言う杏。
 音姫ってそんなに恨まれてるのか? あんなにちやほやしていたのは男子だけだったというのか? 女の子って正直怖い……。
「とにかく……。一回でいいから小恋を抱いてあげなさい? もうこれはお願いじゃない。命令よ? でないと親友やめるわ」
「くっ……。い、一回でいいんだな?」
「えぇ。たったの一回よ。楽なもんでしょ」
「杏~!」
 その時、タイミングが良いのか悪いのか小恋が走りよってきた。
 俺はあまりの気まずさに一瞬、視線を落としてしまったが、杏がその視線の先に顔を覗かせ『だ~め』と言った。
「よ、義之?! どうしてここに?」
 い、いや。俺としてはなんでここに杏がいるのか知りたいのだが。大かた、俺のことで杏に相談したら、杏が飛んできたのだろう。
 仲が良すぎるのも困りものだ。
「い、いやぁ。帰り道でばったり杏と会ったんだよ」
「そうそう」
 きこちない俺に比べて杏は涼しい顔をしていた。
「ふ~ん……。あ! 杏~! またなんか変なこと言ったでしょ! あのこととか……」
 俺は一瞬どきりとしたが、杏はつとめて冷静だった。
「ちょっと小恋。私のこと信用してないの? 私はただ、久しぶりに義之と会ったから、昔の話をしていただけよ。そうよね? 義之」
 パチリとウインクしてきた。
「あ、ああ……。杉並とか渉とか、元気かなぁって思ってな。はは。あははは」
「ふ~ん? まぁいいけど。ところで杏。この前メールで話したお店、つれてってあげるよ!」
「ふふふ。小恋ったら私をダシにして自分に言い訳してるわね? この胸は、甘いもので大きくなったのかしらぁ~?」
 むにむにと、杏が小恋の胸を揉む。
「や、やめてよぉ~! は、恥ずかしいから~!」
 一回か……。音姫には後ろめたい気持ちもあったが、その一回ですべてが終わるなら……。
 俺は杏の提案を受け入れることにした。
「な、なぁ。小恋?」
「ふぇ? な、なぁに? 義之ぃ」
「今度……飯でも食いに行かないか? その……ほら! や、約束、しただろ?」
「約束……。あぁ! ってことはおごり?!  わ~い! 絶対いく! いつにする?」
 俺の覚悟を知ってか知らずか小恋は本当に嬉しそうだった。
「そ、それは……。まだ予定固まってないから、決まったらメールするよ」
「絶対だよぉ? あ! 杏も一緒に行って良い?」
「私は遠慮しておくわ。二人で行ってらっしゃい?」
 杏が意味ありげな笑みで俺を見た。そして俺にしか聞こえない声でこう言った。
「いい子ね……」
 身震いがしたが、これも音姫と俺のため。こうすることによって友達関係も、音姫との関係も上手くいく。そう信じて。
「え~! 杏も一緒じゃないとつまらないよぉ」
「ふふふ。本当はそう思ってないくせに」
「ううっ。今日の杏、すごい意地悪な顔してる~!」
「あらぁ。私ってそういう人じゃなかった?」
 確かにそういう人だ。小恋や。お前は本当に『良い』お友達を持ったな。ある意味うらやましいぞ。
「じゃあ。そろそろ行くね? 義之、メール待ってるから!」
「お、おう。忘れないようにしとく」
「忘れたら一生うらんでやる~!」
 そう言うと小恋は杏を連れて歩き出した。その後姿をしばらく眺めていたが、ふと、杏が俺の元に戻ってきた。
「上手くやるのよ?」
「分かってる……。そうじゃないと俺の今の生活が終わってしまう……」
「ふふ。本当に小恋が羨ましい」
 杏はそう言うと、小恋が待っているところに走って戻っていった。
 杏の最後の言葉……。あれはいったいどういう意味なんだろうか。音姫ではなく、小恋がうらやましい? それはやっぱり音姫から俺を『一回レンタル』出来たからなのか? まぁ、あいつに限ってそれはないだろう。きっと、あの底なしの元気に対してうらやましいと言ったんだな。そう信じよう。
 これ以上厄介ごとが増えても困るので、自分の中で良いように解釈して俺は家路に向かった。
「それにしても……」
 俺は真っ赤に染まりつつある西の空を見上げた。
「俺なんかのどこがいいのかねぇ……」
 お天道様は当然のように何も答えてくれなかった。
 
家に帰って音姫の顔を見るのが少し辛い。出来れば今日は顔を合わせたくなかった。
しかしその願いは叶わなかった。
「あ! お帰り~! 弟君、遅かったね?」
 学校に居残っていた音姫のほうが先に家についていた。
 俺は冷静に振舞おうと必死だった。
「い、いや何。帰りに友達にば、ばったり会ってさ! あはは。すごい偶然偶然」
 誰が見ても怪しい言動だった。
「そうなんだ! 良かったね。弟君、最近お友達と遊んでるところ見かけないから、お姉ちゃん心配してたんだ。でも、良かったぁ」
 うぅぅぅ。
 申し訳なさでいっぱいだった。
 どうしてこの子はそんなに素直でいい子なんだろう。俺には本当にもったいない。
 でも、この子の幸せのために俺だって頑張ってるんだ。だから、いくらアレな作戦だったとしても、きっちり成功させなきゃいけない。
 そう、音姫のためなんだ。
「ん? どうしたの? 元気ないね。ひょっとして喧嘩しちゃった? ちゃんと謝った?」
「い、いやぁ。大丈夫。大丈夫。ちょっと遊びすぎて疲れたのかな~。なんて」
「弟君ったら。いつまでも子供っぽいところ、抜けないね。まぁ、お姉ちゃんは弟君のそんなところが好きなんだけどね~」
 なんだかいっぺん死んでみたい気分になった。
「っていうか、音姉、今日何してたの?」
 俺はこれ以上音姫に嘘をつくのがつらくなって話題を変えた。
「今日~? えへへ~。秘密!」
「おいおい。隠し事はなしだって約束だろ~?」
 とか言いながら思いっきり音姫に隠し事をしているのだが、この際おいておこう。
「だってぇ。言っちゃったらつまんないんだもん」
 言っちゃったらつまらない? あぁ。そういえばもうすぐあの日か。
「ん。今のでなんとなく分かった。これ以上聞かないようにするよ」
「え~! 分かっちゃったの? 今日の弟君、鋭いなぁ」
 実際、俺も密かに色々準備をしていた。
 もうすぐ六月十七日。音姫の誕生日だった。なんで本人かこそこそ準備してるかは気にしないとして……。これで墓穴を掘ったことになった。
「なぁなぁ。何が欲しいんだ? 実は結構迷ってるんだ……」
 アクセサリー類の無難なものはもぅほとんど過去の音姫の誕生日にあげてしまっていた。しかも季節的には夏だ。服をプレゼントするにしても相当なセンスが要る。俺にはそのセンスがあるとはお世辞にも言えない。
「ん~……。弟君がくれるものなら何でもいいよ!」
「ああ……。そういうのが一番困る」
「だよね」
 二人して苦笑した。さっきまでの罪悪感はとうに消え、その後も音姫のプレゼントの話題で盛り上がった。
 二人で討議した結果、今度の日曜日に一緒に買い物に行くことにした。音姫はそこで気に入ったのがあれば買ってもらうという。
 実に、討議が始まって二時間後に出た結論だった。
「日曜日、楽しみだね~」
「あぁ。何気に久しぶりのデートだからな」
 二人で一緒に布団にくるまりながらそんな会話をする。
 久しぶりにゆっくりとこの時間をすごした気がする。なんだかんだ言って、あれから毎晩のように抱いていたからな。
 たまにはこういう夜も悪くはない。
「ねぇ」
「ん?」
 音姫が寝返りを打ち、むこう向きになりながら俺を呼んだ。
「私に何か隠し事……してない?」
 ぎくりとした。ばれたのか? 一瞬混乱したが、ここで作戦を失敗させるわけにはいかない。
「うん。してない」
 本日何回目の嘘なんだろう。こうやって嘘をつきながら大人になっていくのかと思うと、未来に希望をもてるのかが不安になる。
「そう。なら良かった」
「でも、なんで?」
「ううん? なんとなくね。長く付き合ってると、ちょっとした変化とか、敏感になるものだからね」
「でも、信じてくれるんだ? 今、俺が言ったこと」
「当たり前じゃない。私の一番大好きな人なんだよぉ」
「音姫……」
「ん? なぁに? 義之」
「俺……。お前が彼女で本当に良かったよ」
 むこう向きの音姫を後ろから抱きしめた。すると、安心したように音姫は言った。
「うん。私も。義之じゃなかったら今頃、不安で不安で仕方なかった。でも、義之なら大丈夫って思える。不思議だね。なんでかな?」
「さぁな。でも、そう言ってくれて嬉しい」
 心臓はドキドキバクバクしていた。正直、腕が震えてたかもしれない。でも音姫は、そんな俺の腕をそっとなでてくれた。
 俺も音姫の髪をそっとなでる。
 音姫が振り返る。
 キスまであと数センチ。
 そっと近づいた。
 二人の唇が重なった瞬間、俺の携帯が鳴った。俺たちはその音をシカトしながらお互いの唇を味わった。
 激しく、優しく。
 お互いの気持ちを確認しあうように。
 唇が離れたとき、俺の携帯は鳴り止んでいた。同時に、睡魔に襲われ、俺は夢の世界へと沈んで行った。
 音姫一人を残して。

バンシーチルドレン

2007-02-13 14:49:44 | Weblog
タイトルに特に意味はないですw

今日は久しぶり(?)にお休みいただきました☆
っていうか、無理矢理奪い取った?みたいなf(^_^;)
アシスタントマネージャーの許可を得て代わってもらいました。
だって疲れたもんww(ぁ
久しぶりに力入れてお部屋のお掃除もしたし☆うん♪気持ちいい♪
ついでにお布団も干したかったなぁ~。ふかふかラブ~☆(ぇ

この後、携帯修理に出してきますorz
か、買ったばかりなのにぃ……。

音姉とボク(18歳未満閲覧禁止)

2007-02-10 16:52:41 | Weblog
 気づいたら朝になっていた。
 あれから食器を片付け、そのまま倒れるようにして寝たらしい。
 起き上がろうとして、俺の体を毛布が覆いかぶさっていることに気づいた。
 視線を上げるとそこには音姫がパジャマのままの姿で朝食を作っていた。
「あ、弟く~ん? そんな格好で寝たら風邪ひいちゃうぞ? ただでさえ私が移しちゃうかもしれないんだから」
「んあ……すまん」
 立ち上がり、音姫の元に歩き出す。
 俺は音姫の具合を確かめるためにおでこに手をやった。
 さすがあの薬を飲んだだけのことはあり、熱はすっかり下がっているみたいだ。
「もぅ大丈夫だよぉ。ささ、ご飯の支度するから、顔洗っておいで?」
 やっぱりか。音姫のやつ、今日も学校行く気満々なんだな。
「お前、今日は休めよ。無理したらまたぶり返すぞ?」
「大丈夫だよぉ。弟君の看病のおかげですっかり元通りだもん」
 こりゃ埒があかない。
 仕方なく音姫を抱き上げ、寝室に強制連行した。
「ちょ、ちょおっとぉ。弟君?」
「だめだ。お前は何でもかんでも頑張りすぎなの。今日は俺も学校休むから、おとなしく寝てなさい」
 布団に横にさせ、毛布をかぶせる。ここは譲れない。
「いいな?」
「う~……。はぁい」
「うん、よろしい」
 俺が音姫がやっていた朝食の続きにかかろうと、立ち上がり寝室を後にしようとする。
「小恋ちゃん……必死だったね」
 思わぬ音姫の一言に足が止まった。
「今、なんて?」
「小恋ちゃん。昨日、来てたんでしょ?」
「なんでそれを知ってるんだ?」
 昨日、音姫の様子は何度も確認していた。確認していたが音姫は相変わらず気持ちよさそうな寝息を立てていたはずだ。
「ちょっとね。一瞬、目が覚めたの。そしたら小恋ちゃんと弟君が言い争ってるのが聞こえて……」
 しまった。つい声を荒げてしまったのか。むしろ、寝室の戸を閉めておくべきだったな。
「どこから……聞いてたんだ?」
「ほとんど全部かな? 小恋ちゃんが私に挑戦状を突きつけたこととかも聞こえたよ」
「……そうか。でも、気にするなよ」
「うん……。弟君のことは信じてる。でも、小恋ちゃんには悪いことをしたかなって」
「そんなこと、お前が気にすることじゃないだろ」
「でも……」
「でもは、なし!」
 そんなことで音姫と言い争いたくはなかった。どんなに可愛い子でも、アイドルでも芸能人でも女優でも……今の俺に告白してきたところで、音姫に対する気持ちが変わることはないのだ。
 たとえ音姫の気持ちが俺に向かわなくなったとしても……だ。
「うん……。でも言わせて?」
「なんだ?」
 決意に満ちた音姫の表情。
 その迫力に押されて、音姫の主張を聞き入れることにした。
「私……。負けないから!」
「そうか……。それを聞いて安心したよ」
 てっきり、小恋に譲るとか言い出すのかと思った。音姫に対する気持ちは一方通行じゃなかったのを再確認してほっと胸をなでおろした。
「私と弟君が付き合ったことによってたくさんの人を傷つけたかもしれない。由夢ちゃんにしてもそう。でもね、私、それも覚悟の上で弟君と付き合ってるもん。皆の気持ち以上に弟君が……ううん。義之が好きだから。中途半端な気持ちで義之と付き合ったりなんかしたらそれこそ、その皆を傷つけることになるし」
「ごめんな。俺のせいで」
 全然気づかなかった……というのが一番の罪であることを最近知った。
 故意でやったのならともかく、自覚がないのだから反省のしようもない。
 それがまた、俺の周りの人を傷つける結果になっているわけだし、音姫を苦しめる結果になっていた。
 本当に申し訳なかった。音姫にも、皆にも。
「義之は悪くない。ううん? きっと誰が悪いわけじゃないよ。こういうことは運命だから。きっと誰もそれに逆らえない。私が選ばれたのもそう。むしろ私は義之と付き合えて本当に幸せだから……。私も義之にいっぱい幸せをあげたい!」
「音姫……」
「義之……。愛してるよ」
 音姫の目がゆっくり閉じられていく。合図だった。
 俺はゆっくりと音姫の唇に向かい、そしてついばんだ。
 音姫がそれを受け入れる。
「ん……。んん……」
 深い、深いキスを交わした。今、俺の口の中にある唾液がもぅどっちの唾液だか分からないくらい、夢中になって音姫の唇をもてあそび、楽しみ、そして愛した。
「んん……んんぅ~……。よ、義之ぃ……良いよ?」
「ああ」
 俺の手が音姫の胸を優しくなで、そして揉みほぐした。
 パジャマということもあって、いつもよりなんだかエロティックだった。エロティックだったが同時に新鮮で、それがまた愛しくて、俺は音姫のパジャマを脱がさずそのままの感覚を味わった。
「ん……。あ……。義之ぃ。今日の義之、すごいエッチな顔してる……」
「そう? そうかも。だって、音姫のすべてが欲しいって、俺の体が言ってるんだもん」
「恥ずかしい……。あっ……。もぅ……。そんな愛撫の仕方ってある~? んあっ……あっ……」
 色々な愛撫を試してみる。
 そのたびに音姫は敏感に反応してくれた。
 それがうれしくて、欲望はだんだんエスカレートしていった。
 俺の手は、音姫の下半身を走り、そして音姫の一番大事なところの周りに指をそ~っと走らせる。
「あっ……。くすくす……。くすぐったいよぅ。義之ぃ」
「知ってる。だって、くすぐってるんだもん」
「もぉ~。遊んでるのぉ? お姉ちゃん、怒るぞぉ?」
「そんな軽口聞けないようにしてやる」
 そう言うと俺は中指を音姫の中にゆっくり挿入した。
「んあっ! だめっ……! ああ……。んああ……」
 音姫の中はすでに大洪水状態だった。
 俺の中指なんか一瞬で根元まですっぽり入ってしまう。
 その中指を動かすと、くちゅくちゅといやらしい音が聞こえてきた。
 その音は音姫にも聞こえているらしく、ひたすら恥ずかしがりながらも快感を味わっている。
 俺は指を追加した。そのとたん、音姫の体が一瞬ぴくっとはねたが、すぐにまた快感の海へと沈んでいく。
「あっ……あっ……ああっ……。よ、よしゆきぃ~……も、もっとぉ……もっと、ちょうだいぃぃ」
「今日の音姫、ものすごくエッチだ」
「えっ? あっ……んっ……んん~……。よ、よしゆきがぁ~……んっ……んあっ……悪いぃぃ」
 こんな音姫、誰が想像できるものか。
 普段はまじめで、そして清らかなイメージを周りに振りまいている音姫が、俺の愛撫に本気で感じ、反応し、喘いでいる。
 この瞬間が俺は好きだった。
 この世の裏側すべてを手に入れた王様になった気分だった。
 俺は指を抜くと、息子に帽子をかぶせ、それを音姫に挿れた。
「あああっ……。あっ……ああっ……。よしゆきぃ。暖かいぃ。んあっ……。あっ……。あっ……。やだ……。声、おさえ……んんっ……おさえられ……っ……ない……あっ……」
 俺のゆったりとしたピストン運動に合わせて音姫が喘ぐ。
 その自分の声が恥ずかしいらしく、もう音姫の顔は真っ赤になっていた。
「音姫の声、すごく可愛い。もっと聞かせて?」
 俺は腰を激しく振った。音姫の声は少しずつ大きくなっていき、ついには悲鳴に近くなってきた。
 快感が俺の下半身にもやってきた。
 俺は音姫の口を自分の口でふさいだ。
 舌を絡ませ、唾液を交換し、さらに激しく腰を振った。
「んんっ……。んふっ! んぁっ……んんっんんんんっ……。んちゅ……。んんんんん~~! んぁああぁ~!!」
「お、音姫……。も、もぅ……」
 唇を離し、音姫を見据える。
「ん。いいよ……。私も……いき……いきそ……。あっ……。あっっっ……」
「音姫……音姫。愛してる。んっ……。世界で一番、お前を愛してるからな!」
「よしゆきぃぃ~!」
 限界だった。
 俺の体内から、大量の精液が出て行くのがわかる。
 体力を使い果たし、音姫の上にかぶさる。そんな俺の頭を優しく音姫はなでてくれた。
「お疲れ様……。義之」
「ん。音姫、ちゃんといけた?」
「そ、そんなこと聞かれても……」
 恥ずかしそうに視線を落とす音姫。
 この様子だと無事にいけたみたいだな。
 二人が同時に達するのは今回が初めてだった。
「大好きっ……」
 そのまま音姫は俺を力いっぱい抱きしめた。俺もそれに負けじと音姫を抱きしめた。
 朝からこんなことをしてしまったことに抵抗はない。
 俺たちは本当に愛し合っているんだ。その気持ちに時間なんて関係ない。ただただ、お互いがお互いを求めている。それで十分だった。
 音姫が毛布を被せてくれ、俺と音姫はお互いにしっかりと抱き合いながら、どちらともなく眠りについた。

 何時間経っただろうか。
 目が覚めた俺は時間を確認しようとして、携帯に手を伸ばした。
 携帯を開くとメールが一通来ていた。送り主を確認して、メールを開ける。
 小恋からだった。
『昨日はごめんなさい。私……どうかしてたかも。寝室で聞き耳立ててた音姫先輩にも謝っておいてください。でもね、義之への気持ちだけは変えられそうにないから。今日は学校休みます。今、義之に会ったらまた感情的になりそうで怖いので。  
 追伸、音姫先輩の風邪、早く治ると良いね』
 『俺も、悪かった』と、打とうとしてやめた。今は刺激しないほうがよさそうだと思ったからだ。
 携帯を閉じ、横で静かな寝息を立てている音姫に目をやった。
 こう見えて寝たふりが上手いからな。どんなにぐっすり眠っているように見えても、密かに聞き耳を立ててたりする。
「音姉」
 耳元で名前を呼んでみた。反応はない。もう一度呼んでみる。
「音姉、小恋がごめんってさ」
 やはり反応がなかった。
 これは本格的に寝ているなと思い、静かに布団を出る。
 音姫が準備の途中で投げ出した(正確には投げ出させた)朝飯の後片付けをするため、俺は台所に向かう。火を使っているときじゃなくて本当に良かったと思う。
「さて……」
 音姫が起きないようになるべく音を立てずに片づけをはじめる。これが意外に難しいことを今、初めて知った。
 いつもは十分足らずでやっていた作業をのんびり三十分かけてやった。もどかしかったけど、たまにはこんな日もいいかなと思えてきた。
 時刻は一〇時を回っていた。今日は二人とも一限から講義があったが、当然のごとく間に合わない。
「たまには……な」
 お湯を沸かし、コーヒーを淹れた。
 それとお菓子を持って、テレビの前に座った。基本的にはこの時間、テレビなんか見ない、というか見れないので、どんな番組がやっているのか知らなかった。適当にチャンネルを回している俺はある局でチャンネルを回す手を止めた。
「そんな……。うそだろ」
 テレビの中でアナウンサーがうっすらと微笑を浮かべながら原稿を読んでいた。
『……このように、一時は枯れていた初音島の桜でしたが、今年は春が終わった今でも満開であるとのことです……』
 初音島のシンボルが帰ってきたと、キャスターも喜んでいる様子だったが、こちらとしては恐怖すら感じるニュースだった。
 あれは確かに俺の目の前で音姫が枯らしたはず。その日からは、ほかの地域の桜の木のように春にならないと花を咲かせていなかったはずなのに。どうして……。
 考えられる原因はいくつかあった。
 まずはじめに、さくらさんの仕業。これは喜ばしいことだった。
 あれ以来、さくらさんの姿を見た人は誰もいないし、噂では俺を復活させるために自らが犠牲になったと。もし、今回の騒動がまたさくらさんに原因があるのなら、もう一度会うことが出来る。桜をまた復活させた意図は分からないが、それを差し引いてもやっぱり嬉しいことであった。
 もうひとつ考えられる原因は……。
 ごくりとつばを飲み込んだ。
 あの、由姫さんのもう一人の娘。
「由夢……」
 俺が初音島に居た頃は、あいつに能力があるとかないとか全く分からなかった。でも、もし気づいていなかっただけで、あいつにも能力があるのだとしたら……。
 あいつの俺らに対する強い気持ちが桜を復活させたことになる。何を願ったかは知らないが、ゆがんだ願いが桜を復活させたのだとしたら……。再び初音島の住民に被害が及ぶことになってしまうだろう。
 でも、可能性的には極めて低い。あの頃の桜だって、さくらさんがアメリカで研究をしたサンプルを持ち込んだもので、オリジナルはとっくに枯れて、花をつけなかったのだから。
「弟く~ん……」
 音姫が目をこすりながらのろのろ寝室から出てきた。
 俺は慌ててテレビを消す。このニュースを今、音姫に見せるわけにはいかなかった。
 これは俺だけで留めておきたかった。
 変な正義感かもしれないが、今度の事はきっと俺に非があると感じていたため、音姫を巻き込みたくなかった。
 ましてや、あの頃のようなつらい思いなんか二度と音姫にしてほしくなかった。
「起きたか?」
「うん~……。弟君、学校はぁ~?」
「休む。お前を放っておけないしな」
 すると音姫は少し困ったような顔をして
「私は大丈夫だからぁ。弟君まで学校休むことないよ」
「いや。一人にして置きたくないんだ。少なくとも今はな」
 半分本音で半分建前。まぁ、至極単純な理由を述べてしまえば、面倒くさいのである。音姫が風邪をひいたときから、俺も休んで看病することは決めていたし、さらに昨日のあの出来事だ。学校になんか行く気になれない。
「うぅ~……。ごめんね……」
「また謝った。大丈夫だって言ってるだろ? そうだな、次から音姉が悪くないのに謝ったら何か罰ゲームでもしてもらおうかな」
「え~。それだけは勘弁だよぉ」
 きびすを返し、逃げるようにして洗面所に行った音姫。
 俺はそんな音姫を見て、少し安心した。
 そうだ。今回は俺が解決しなくてはいけない問題なんだ。音姫には、つらい思いをさせないために俺が踏ん張れば……。
 決意を固めた俺に顔を洗ってきた音姫が飛びついてきた。たまにある音姫の過剰なスキンシップだった。
 俺は音姫をしっかり受け止め、愛しいその髪をなでてやった。
 安心したように音姫が両手を俺の背中に回し、きつく抱きしめた。
 俺もそれに負けじと音姫を抱きしめた。
 胸にある不安は相変わらず消えなかったが、少し小さくなったような気がした。

音姉とボク

2007-02-05 23:54:43 | Weblog
 「それで? 3限の授業はちゃんと受けられたの?」
 夕食時、俺は一番気になっていた疑問を音姫にぶつけた。
 帰り道ではいつもどおりの音姫に戻っていたので、あまり気にはしないようにしていたのだが、やっぱり少し気になった。
「え? だ、大丈夫だったよ!!」
 大丈夫じゃなかったんだな。音姫がこういう言い方をする時ってだいたいそうなんだよな。
でもまぁ、普段からまじめに授業を受けている音姫のことだ。一回の講義が空白になったところで、そんなに痛手ではないだろう。
「まぁ、ならよかったよ」
 なんとなく気まずい雰囲気が流れた。これ以上、この話題には触れてはいけない気がして、俺はテレビのスイッチを入れた。
『……来週、桜花大学の校内で予定されていた撮影は、韓国の俳優、ぺ・ヤング氏の事情により、一時中止ということになりました』
 まずい! 失敗した。この時間のニュースで取り上げないわけがないのだが、まさかテレビをつけた瞬間にどんぴしゃとは……。今日の俺は本当についてない。
 あわててチャンネルを変えようと、リモコンに手を伸ばしたのを、音姫に止められた。
「一時……中止?」
『……これは、韓国政府とぺ・ヤング氏の問題であり、日本のドラマ制作に迷惑をかけるわけにはいかないということで、ぺ・ヤング氏が韓国政府に頭を下げ、日本のお盆頃には来日できるよう話し合いを行ったという……』
 お? じゃあ、撮影は完全になくなったわけじゃないんだな。
「な? 俺の言ったとおりだろ? まぁ、音姉に聞こえてたかはこの際、別として」
「うん! 撮影しているところ自体は見れないかもしれないけど、ドラマ、すっごく楽しみだから!」
「やっぱり、忍びこんで見る気だったんだ?」
「えへへ~! だって、生でキムタク見たかったんだもん! ヤン様も!」
 夏休みには、初音島に帰る予定だったから、当然、撮影を見に行くことは出来ない。
 でも、音姫が納得しているのなら良いかなと思えてきた。
「まぁ、何にしても音姉が元に戻ってくれてよかったよ。帰りの時間まであのままだったらどうしようかと思ったんだぜ?」
 すると、音姫はテレビの電源を切った。
 この後の番組は音姫がいつも楽しみにしている番組だった。しかも、録画をしている形跡もない。
「音姉?」
「また……弟君に迷惑掛けちゃったね?」
「なんだ、そんなこと気にしてないのに」
「ううん? 弟君が気にしなくても私が気にするよ」
 あ~あ……。また始まったよ。音姫の悪い癖パート2。こうなっちゃうと、俺の気持ちとかまったく無視で、俺のご機嫌をとろうとするからな。ぶっちゃけ、こっちとしては普通で居てくれたほうがいいのだが。
「弟君? 来て……」
 でも今日はまた違った反応だった。
 普段だったら『何が欲しい? お姉ちゃん、弟君が欲しいものだったら何でも買ってきてあげるから!』とか、『弟君、肩こってるでしょ? お姉ちゃん、マッサージしてあげる!』とか言ってたのだが。
「え? え?」
「もぅ……。来てって言ってるでしょ?」
 微妙に赤らめた顔。少し上ずった声。
 間違いない、これは。
「え? こ、ここで?」
 黙って首を縦に振る音姫。
 男の子とはいえ、準備も出来ていない時にそんなこと言われても困る。まぁ、少なくとも俺の場合はそうだ。
「音姉、悪いものでも食った?」
 俺は食卓に並んだ食材を確認した。うん、大丈夫だ。俺が作ったものが半分以上を占めている。あとは適当に買ったレトルト製品が並んでいるが、ひょっとしてこれか?
「……」
「……」
 音姫や。俺の負けでいいです。だから、そんな目で見ないでください。
「分かった。音姉がそこまで言うなら……」
 実際は言ってないだろ! とか突っ込まれても俺は反論に困ってしまう。
 この目は、音姫のこの表情は、きっと間近で見てみないと分からないものがあるだろう。
 相手に有無を言わせないような目、そして表情。朝の音姫じゃないが『ずるい』表情であった。
 俺は少しためらいがちに音姫を抱いた。
 暖かい……というか、熱い?
「ん? 音姉?」
「お、弟くぅん~」
 甘えた音姫の声を無視して、おでこに手をやる。
 俺の手がものすごい熱を感じた。
「お前……。いつから?」
「あはは~……。ばれちゃった? ん~……。ちょうど夕飯前くらいかなぁ? 急に寒くなってきたと思ったら、今度は体中がぽかぽかしてきてぇ……」
 普通を装ってたけど、ご飯食べ終わった後に耐え切れなくなったと。
「バカだな。無理しないで言えばよかったものを」
「だってぇ~。今日、いっぱい、弟君に迷惑かけちゃったもん~……。これ以上は悪いから~……」
「そういうことは完璧に隠しきれたら聞いてやるよ。ちょっと待ってな」
 俺は台所に行った。確か、この前俺が風邪ひいたときに飲んだ薬があったはず。少し眠くなるやつだったから、ちょうどいいだろ。
 食器棚の奥のほうに追いやられた風邪薬を発見し、音姫の元に戻ってきた。
 それを音姫に飲ませ、寝室へと促した。
「うぅ~……ごめんね? 変な期待持たせちゃって……」
 あえてそっちを謝るんだ。まぁ、音姫らしいといえば音姫らしいけど。
「大丈夫だよ。俺ら、何年も付き合ってるんだよ? ほら……その……そういう気分になったら、我慢しないから平気だよ」
「弟君の……エッチ……」
「ははは……。いいからゆっくり寝な? 俺、片付けしなきゃだから」
 俺が立とうとしたとき、音姫に右手をさらわれた。
「もうちょっと……ここに居て?」
「ん……。分かった。手、握っててやるからさ」
 しっかりと音姫の手を握ってやる。
「義之……。大好きだよ」
「俺もだよ。音姫」
 こうしていると、昔を思い出すな。
 そう、あの時も音姫は熱を出していた。しかも、今日みたいにぎりぎりまで耐えていたような気もする。
 由夢の誕生日の日。俺は、由夢の約束をすっぽかして音姫の看病をした。
 その後、音姫が少し落ち着いたので由夢の元に駆けつけたが、時すでに遅し状態。
 今思えばあの頃から由夢の、俺に対する印象というものは変わってしまったのかもしれない。
 やがて音姫の静かな寝息と共に、俺の手を握る力が弱まった。
 薬が効いてきたのだろう。あれ飲むとかなり眠くなるからな。しかも結構強い薬だから、明日の朝にはひょっとしたら熱も下がってるかもしれない。
「それにしたって、明日は休ませるべきだよな……」
 音姫は何でもかんでもがむしゃらに頑張る癖がある。そこは音姫のいいところでもあり、悪いところでもあるのだけど。
 そのとき、俺の携帯が鳴った。
 その音で音姫を起こさないようにあわてて寝室を出て、通話ボタンを押した。
『もしもしぃ? 義之ぃ?』
 小恋だった。ディスプレイを確認しないで電話に出たので少しびっくりした。
「おぉ。どうした~?」
『どうした? じゃないよぅ。音姫先輩、大丈夫かなぁって電話したんだけど』
「あぁ~。その件に関しては大丈夫だ。ただ……」
『ん?』
「あれから音姉のやつ、熱出してさ。今、薬飲ませて寝かせたところ」
『あわわわわ。ごめんね~。変なタイミングで電話しちゃってぇ』
「ああ大丈夫だ。タイミング的にはぎりぎりセーフだったな」
 もうちょっと早かったら、せっかく寝付いた音姫を起こしてしまう結果になったろう。
 幸い音姫は深い眠りについているらしく、びくともしていない。
『なら良かったけどぉ。ねぇ、義之? これからちょっと会えないかな?』
「今からかぁ? どこに行けばいいんだ?」
 時計を確認した。今はちょうど8時半くらい。決して遅い時間ではないが、今から出掛けるとなると少し億劫だ。
『私、義之の家に行くよ! 話……聞いてもらいたくてさ』
「わかった。気をつけて来いよ。今、結構物騒だからな」
『りょ~か~い。いざとなったら、義之に助けを求めるから平気だよぉ』
 勘弁してください。俺はあなたのボディーガードじゃないんだから。
「まぁ、ともかく気をつけて来いよ」
『もぅ。子供じゃないんだから平気だよぉ』
 そういうと小恋は電話を切った。その次の瞬間、うちの玄関からノックの音が聞こえた。あのヤロ、家の前で電話してやがったな。
「義之ぃ?」
「あぁ~! 今開けるから大きな声を出すな! 音姉が起きるだろ」
 むしろ俺の声のほうが大きかったような気がする。一瞬、音姫が寝ている寝室を確認したが、音姫の眠りの妨げにはなってなかったらしい。相変わらずすやすやと規則ただしく胸が上下している。
 ほっと胸をなでおろし、玄関の扉を開けてやった。
「やほ! 大丈夫だって言ったでしょ?」
「あ~。お前には負けたよ……」
 『やった!』とばかりに小さくガッツポーズをする小恋。そんなに嬉しかったのか……。まったく、女の子っていう生き物は時々よく分からないな。
「んで? 話って何よ?」
 俺はいきなり本題をぶつけた。音姫のこともあるし、早めに済ませたかった。
「ん~……ちょっと話づらいんだけど……」
「なんだ? 急に改まって……」
「あうあう~……。実はね……」
 小恋はもじもじ話しにくそうにしながらも、少しずつ話はじめた。
 なんでも、大学で同じ講義を取っている男が居るそうなのだが、その男にご飯に誘われたらしい。大学生なんだからそれくらいは普通だろうと思ったのだが。
「なんで? ご飯くらいだったら良いんじゃないの?」
「でも、二人きりだよ? そこまで親しくないのに……」
「だったら、断れば良いじゃん」
「うん。断ったよ? でもしつこくて……」
 きっぱり断ったらしいのだが、男の方が『なに? 彼氏でも居るの?』とか聞いてきたらしく
「だから。『うん! 居るもん。桜内義之って人が私の彼氏だから』とか言っちゃった」
「いや、言っちゃった! じゃないし! 俺と音姉がいつも二人で登校してるのをそいつ知らないの?」
「いやぁ? むしろ、義之自体を知らなかったらしくてさ。『ふぅん』って言ってどっか行っちゃった」
 なるほどな。それで万事解決……って、待て待て! だったらなんで小恋は家に来たんだ?
「ちょっと待て小恋。それじゃあ、お前が家に来た本当の目的は何だ?」
「えへへ~。久しぶりに遊びに来たよぉ! だって義之、最近ガード固いんだもん。音姫先輩、音姫先輩ってさ~。私だって女の子なんだよぉ?」
 小恋が言いたいことはなんとなく分かった。昔から何かにつけて一緒に居た存在だからな。俺に彼女が出来て、寂しくなったのだろう。それは分かるのだが……。
「だから~! 抱いて? 義之ぃ」
「は?」
「聞こえなかったのぉ? 抱いてよぉ。音姫先輩を抱くみたいにさぁ」
「ちょ、ちょっと待て! お前ってそんなキャラじゃなかったよな?」
「うぅ~……。このニブチン義之めぇ。私なんか、音姫先輩よりずっとずっと義之の事しってる自信あるもん!」
 何がどうなってるんだ? 確かに、小恋とは物心ついた頃から幼なじみをやっているが、音姫とは物心ついた頃から姉弟をやっている。
 どっちがよく俺を知っているかといったら、音姫の方に軍配が上がるのではないのか?
 本当、女の子って時々よく分からない。
「私、ずっとずっと義之のこと、大好きなんだから! 音姫先輩になんか、負けないんだから!」
「い、いやぁ。負けるも何も、俺ら付き合ってるわけだし……。小恋とは……」
「分かってるよ~……。だからぁ。音姫先輩と別れて?」
「は? は? 小恋。お前、どうしちゃったんだ?」
 いつもの小恋ではなかった。
 音姫と同じく、熱でも出したかとおでこに手をやったが、熱はなかった。
「私はまじめに話してるの! まじめに聞いてよ!」
「な、なぁ。小恋。落ち着け?」
「落ち着いてますぅ。義之が混乱してるだけじゃない」
 実際、誰の目から見てもそうだった。小恋のやつはちゃっかり正座して俺を真正面から見据えているのだが、俺のほうはというと視線があっち行ったりこっち行ったり、足元は落ち着かずそわそわしていた。
「と、とりあえず。話し合おう? なんでまた急にそんなことを言い出したんだ?」
「急にじゃ……ないもん……。ずっとずっと、サイン送ってたのに、気づいてくれなかったじゃない。かと思えば、いつの間にか音姫先輩と付き合っちゃってるしぃ。だからね、決めたの。次のチャンスは絶対逃さないって。義之がニブチンだから、私が積極的にならなきゃいけないって」
「チャンスって……」
「音姫先輩が弱ってる今がチャンスだもん! 音姫先輩には悪いけど、私だってこのまま引き下がるわけにいかないんだから」
 弱った。本気で弱ってしまった。
 きっと小恋をこんなにしたのは俺のせいなんだろうな……。俺がにぶ……ニブチン? だったのがいけないんだな。
 正直、へこむ。
「分かった。お前の気持ちもよ~く分かった。けどな、今は勘弁してくれ。せめて音姉の風邪が治ってからでも……」
「そうやって逃げるんだ……」
「なっ!? そうじゃない! 風邪ひいてる音姉を放っておけるかよ!」
「それは風邪ひいてるのが音姫先輩だから?」
「そんなことはない! 誰だって親しい人が具合悪かったりしたら、心配だろうが!」
「……わかった。じゃあ、私も風邪ひけば義之に心配してもらえるんだね?」
「そ、それは……」
 言葉に詰まってしまった。
 気まずい空気が二人の間を縫っていく。
 今日は本当に、魔物でも取り付いているのか? なんてついてない一日なんだ……。
「ごめんね? 私、どうかしてた……」
 小恋はすっと立ち上がると、玄関までふらふら歩いていった。
「大丈夫か? 家まで送るよ」
 そういうと小恋は力なく振り返る。青ざめた小恋の顔が小刻みに震えていた。
「義之……。中途半端な優しさってね、時に人を傷つけるんだよ?」
 俺は何も言い返せず、ただただ小恋が扉をあけて出て行くのを呆然と眺めることしか出来なかった。
 寝室では音姫が何事もなかったかのように静かな寝息を立てていた。

音姉とボク

2007-02-02 00:52:21 | Weblog
 部屋から出る。音姫が作ってくれている朝ごはんのにおいがする。
 俺と音姫の寝室を出るとすぐに台所が見える。そこでは、さっきまで俺の腕の中に居た音姫がにこにこしながらテーブルを彩っていく。
ご機嫌な様子だった
 我ながら本当に良い彼女をもったと思う。きっと、彼女以上の子は俺の今後の人生の中で、絶対にあらわれないと思ってるし、音姫との仲が壊れてしまうなどということは考えもしなかった。
「いやにご機嫌じゃない?」
 少し、いたずら心が芽生えた。
「え? まぁ、ね。弟君ったら朝から大胆なんだもん」
「大胆って? 俺、何かした?」
 とたんに困ったように赤面してうつむいてしまった。
 うん。そんな表情が見たかったんだよ。お前は素直で可愛いな。なんていうか、男心というものを知ってるかのように悩殺的な態度をとってくれる。
「可愛いよ。音姫」
 一度火が付いたいたずら心は、そう簡単に抑えることは出来ない。このまま、突っ走ってしまうのを制御できないほど、俺はまだまだ子供だということなんだろう。
「あぅ……義之だって。いきなり抱きしめたり、名前で呼んだり、ずるいんだから」
 その言葉、ものすごい好きだ。
 『ずるい』という言葉の持つ、強大なパワーにひたりながら腰掛けた。
 音姫もご飯と味噌汁を二人分持って席に着いた。
「いただきます」
 二人そろって朝ごはんを食べる。当たり前のようで大切なこと。
 自分が作ったものを相手に食べてもらう。この喜びは、女の子じゃない俺も経験済みだ。
 実際、料理の腕では俺の周りに敵はないと思っているくらい。
 この、音姫を除いては……だけど。
「おいしいよ。音姉」
 お世辞でもなんでもなく、自然に出てくる言葉。昔の俺じゃ負けたくない一心でそんな言葉なんか、口が裂けても言えなかっただろう。
 今は、この瞬間は、素直になれた。
「弟君には負けるよ~! 本当、どっちが主婦やるのか喧嘩になりそうなくらい」
 ケラケラと無邪気に笑う音姫。何度も言うが、いい彼女を持ったと思う。
 俺は世界一幸せな男だと。
 朝ごはんが終わり、片付けもやるという音姫をなだめて、俺が食器を洗った。
 今の社会、男も家事をしなさいとかテレビで口うるさく言っているが、そんなものは、うちでは当たり前のこと。
 お互いがお互いを尊重しあい、お互いがお互いをいたわりあう。これこそが、健全なカップルというやつじゃないかと思う。
「終わった~! さて、そろそろ時間?」
 食器を全部洗い終わり、きれいに拭いて食器棚にしまった俺は時計を確認した。
 9時ちょっと前。俺は2限から、音姫は3限からという今日のスケジュール。
 少し早いけど、一緒に家を出ることにした。
「ねぇねぇ? この前、テレビでうちの大学のことやってたよね?」
「え? あ、うん。確か、木村拓朗と韓国のぺ・ヤングが共演するっていうドラマの撮影会場になるんだよな」
「そうそう! 楽しみ~! 日韓の二大スターがうちの大学にくるんだよ! 本当、この大学に入ってよかった~!」
「いや、でも、撮影中は立ち入り禁止だろ?  しかも、その期間は学校が休み! 俺としては違う意味でこの大学に入ってよかったと思ってるよ」
 そう、この大学はよくドラマの撮影に使われたりする。たいていは夏休みや春休み中といった、学生が長期休みでキャンバスが留守のときに行われるのだが、今回のドラマは音姫が言ったとおり、日韓の二大スターの共演なのだ。お互いのスケジュールをあわせるのが大変で、やむなく大学側は1週間、全講義休講という特例措置を提示し、ドラマ制作側がそれに応じたのだった。
「弟君ったら! まぁ、その分、弟君との時間が増えるなら喜んでもいいかなぁって」
「大丈夫。バイトも軽めに入れてあるから、遊びに行ったり出来るよ」
「本当? 嬉しいなぁ。最近、弟君と出掛けたりすることってなかったもんね」
「うん。まぁ、一緒に暮らしてるし、ちょっとなぁなぁになってた部分はあるよな」
 確かに、常に一緒に居ることは居るのだけど、一緒に居るというだけで、恋人らしいことはあんまりしていない気がする。
 どうだろう。最近、流行っている恋愛映画『今、刺しに行きます』でも見に行こうかな。
「えへへ~。どこ行こうかなぁ」
 俺の横ではしゃぎだす音姫。そのしぐさが可愛くて、そっと手を握った。音姫も無言のままそれに応じてくれた。
「そういえば、もぅすぐ夏だね」
「あぁ。夏休みだな」
「違うよぉ。暑いけど、楽しい季節だなって思って」
 そっか。音姫は夏が好きなんだったっけ。
 付き合って数回は夏を経験した。その度に音姫は人一倍、はしゃいでいた気がした。
 一方の俺はというと、暑さに耐えられずにダウンした日も数え切れないほど。
 どちらかというと、冬が好きな俺にとってあの夏の猛暑に耐えるだけの耐性は持ち合わせていない。
「その前に。テストもあるしね。弟君? 大丈夫なのかにゃ~?」
 色んな意味でどきどきさせる発言だった。
 テストかぁ~……。何でそんなものがこの世に存在しているんだろう。本当、いらない制度だなと受けるたびに思う。
「でも、それがないと弟君、勉強しないでしょ?」
 俺の心を見透かされたように音姫に突っ込まれてしまった。
「あ、でも。弟君、テストがあっても勉強しないか」
「あ、よく俺をご存知で」
 二人で笑いながらキャンバスに入っていく。
 そこで俺と音姫は、掲示板の前の人だかりに気づいた。
「なんだろう?」
 音姫が俺に尋ねる。もちろん、俺もそんなこと知ってるわけがない。
「さぁ? 撮影のことは皆、知ってるはずだし、いまさら人だかりなんか出来ないよな」
「行ってみましょう?」
 野次馬根性丸出しのまま掲示板前の人だかりまで歩いた。
 皆が口々になにかを言っている声が聞こえてきた。人数が多い上、ばらばらなことをしゃべっているので、聞き取ることは不可能だった。
 そんな人だかりの中に見知った顔を発見した。
 小恋だ。
「小恋じゃん。久しぶり」
 話しかけると、びっくりしたように振り返りながら、挨拶を返してくれた。
「義之~。久しぶり。元気だった?」
「俺は元気だよ。小恋も元気そうだな」
「まぁね~! 元気だけは義之に負けないよぉ。って、音姫先輩、お久しぶりです」
「うん、久しぶり~。小恋ちゃん、なんだか可愛くなったよね」
「ふぇ?! そ、そんな、こと……ないです……」
 顔には、努力しました! と素直に書いてあった。相変わらずだな。少し安心した。
「まぁ、それはおいといて。この人だかりはなんなんだ?」
「義之、知らないの? ドラマの撮影、中止になったんだよ?」
「知らないも何も、今来たばかりだし……」
「あれ、昨日から貼ってあるよ?」
 基本的には朝一しか掲示板をチェックしない。それは音姫も一緒だった。
 音姫のほうに視線をやると、まさに真っ白になっているという表現がぴったり当てはまるような、抜け殻状態になっていた。
「まぁ、それは良いんだが。何でまた中止になったんだ?」
「んとね~……。韓国のほうで、政府とぺ・ヤングが、兵役? だったかな? そのことで揉めたらしくて、来日出来なくなっちゃったみたいだよ」
 まぁ、来日できないということは、同時にドラマの撮影もなしということになる。
 結論から言ったら、学校が休みではなくなるということだった。
「はぁ~……:。俺の第二GWを返せって感じだよなぁ。韓国政府は」
「あはは……。ところで義之ぃ? 音姫先輩、さっきからどうしちゃったの?」
「あぁ~……あいつ、このドラマ楽しみにしてたからな。撮影も放送も」
「あちゃぁ~……。それじゃ落ち込んじゃうよね~……」
 指でつついても反応はなかった。
 仕方ない。少し恥ずかしいが、おんぶして運ぶことにしよう。
「こいつ、ちょっと教室まで送るから。悪いな。こっちから話しかけたのに」
「ううん? また今度、ゆっくり話そうよ。そのときは、お昼ご飯でもご馳走してもらおっかな」
 うぅ~……いつからこんな子になってしまったんだろう。小恋や、お父さんは悲しいぞ。
 なんてことを言ったら、きっと小恋は笑って『いつからお父さんになったのぉ?』なんて言ってきそうだ。
 まぁ、昼飯おごるくらいなら安いか。昔の話とかもしたいしな。
「仕方ないな! 今回限りだぞ?」
「ほんとぉ? やった~! 楽しみにしてるね」
 心底嬉しそうな小恋に手を振り、音姫の教室、といっても3限からなのだが、2限は使われないらしく、そこに音姫を座らせた。
「じゃあ、授業行ってくるからな? いい加減、あきらめろよ。まったく無くなったわけでもないっぽいんだし」
 そう一声掛けて立ち去った。
 振り返って確認したが、相変わらず抜け殻状態だった。
 だめだこりゃ。ああなっちゃうと、しばらくかかるんだよな。
 3限の授業、無事に受けられるんだろうか。
 心の底から心配だった。
「はぁ~……」
 こんなに大きなため息をしたのは実に何年振りであろうか。体中の力が抜けた気がした。
 2限が終わったら、様子見に来てやるかと思い、自分の経済学の教室に向かった。