日本の心

激動する時代に日本人はいかに対処したのか振りかえる。

石原莞爾『最終戦争論』 第一部 最終戦争論 第三章 世界の統一

2016-05-23 09:53:59 | 石原莞爾


  石原莞爾『最終戦争論』
   第一部 最終戦争論


第三章 世界の統一

 西洋歴史を大観すれば、古代は国家の対立からロ―マが統一したのであります。
それから中世はそれをキリスト教の坊さんが引受けて、彼らが威力を失いますと、
次には新しい国家が発生してまいりました。

 国家主義がだんだん発展して来て、フランス革命のときは一時、世界主義が唱導されました。
ゲーテやナポレオンは本当に世界主義を理想としたのでありますが、
結局それは目的を達しないで、
国家主義の全盛時代になって第一次欧州戦争を迎えました。

 欧州戦争の深刻な破壊の体験によって、
再び世界主義である国際連盟の実験が行なわれることとなりました。
けれども急に理想までは達しかねて、国際連盟は空文になったのです。

 しかし世界は欧州戦争前の国家主義全盛の時代までは逆転しないで、
国家連合の時代になったと私どもは言っているのであります。
大体、世界は四つになるようであります。

 第一はソビエト連邦
 これは社会主義国家の連合体であります。
マルクス主義に対する世界の魅力は失われましたが、
20年来の経験に基づき、特に第二次欧州戦争に乗じ、
独特の活躍をなしつつあるソ連の実力は絶対に軽視できません。

 第二は米州であります。
 合衆国を中心とし、南北アメリカを一体にしようとしつつあります。
中南米の民族的関係もあり、合衆国よりもむしろヨーロッパ方面と経済上の関係が濃厚な南米の諸国に於ては、
合衆国を中心とする米州の連合に反対する運動は相当強いのですけれども、
しかし大勢は着々として米州の連合に進んでおります。

 次にヨーロッパです。
 第一次欧州戦争の結果たるベルサイユ体制は、
反動的で非常に無理があったものですから遂に今日の破局を来たしました。

 今度の戦争が起ると、
「われわれは戦争に勝ったならば断じてベルサイユの体制に還すのではない。
 ナチは打倒しなければならぬ。
 ああいう独裁者は人類の平和のために打倒して、
 われわれの方針である自由主義の信条に基づく新しいヨーロッパの連合体制を採ろう」 というのが、
 英国の知識階級の世論だと言われております。
 ドイツ側はどうでありましたか。
 たしか去年の秋のことでした。

 トルコ駐在のドイツ大使フォン・パーペンがドイツに帰る途中、
イスタンブールで新聞記者にドイツの戦争目的如何という質問を受けた。 

 ナチでないのでありますから、比較的慎重な態度を採らなければならぬパーペンが、
言下に「ドイツが勝ったならばヨーロッパ連盟を作るのだ」と申しました。

 ナチスの世界観である「運命協同体」を指導原理とするヨーロッパ連盟を作るのが、
ヒットラーの理想であるだろうと思います。
 フランスの屈伏後に於けるドイツの態度から見ても、このことは間違いないと信ぜられます。

 第一次欧州戦争が終りましてから、
オーストリアのクーデンホーフが汎ヨーロッパということを唱導しまして、
フランスのブリアン、ドイツのストレーゼマンという政治家も、その実現に熱意を見せたのでありますが、
とうとうそこまで行かないでウヤムヤになったのです。
 今度の大破局に当ってヨーロッパの連合体を作るということが、
再びヨーロッパ人の真剣な気持になりつつあるものと思われます。

 最後に東亜であります。
 目下、日本と支那は東洋では未だかつてなかった大戦争を継続しております。
しかしこの戦争も結局は日支両国が本当に提携するための悩みなのです。
 日本はおぼろ気ながら近衛声明以来それを認識しております。
近衛声明以来ではありません。
開戦当初から聖戦と唱えられたのがそれであります。
如何なる犠牲を払っても、われわれは代償を求めるのではない、
本当に日支の新しい提携の方針を確立すればそれでよろしいということは、
今や日本の信念になりつつあります。

 明治維新後、民族国家を完成しようとして、
他民族を軽視する傾向を強めたことは否定できません。

 台湾、朝鮮、満州、支那に於て遺憾ながら他民族の心をつかみ得なかった最大原因は、
ここにあることを深く反省するのが事変処理、昭和維新、東亜連盟結成の基礎条件であります。

 中華民国でも三民主義の民族主義は孫文時代のままではなく、
今度の事変を契機として新しい世界の趨勢に即応したものに進展することを信ずるものであります。

 今日の世界的形勢に於て、
科学文明に立ち遅れた東亜の諸民族が西洋人と太刀打ちしようとするならば、
われわれは精神力、道義力によって提携するのが最も重要な点でありますから、
聡明な日本民族も漢民族も、もう間もなく大勢を達観して、
心から諒解するようになるだろうと思います。

 もう一つ大英帝国というブロックが現実にはあるのであります。
カナダ、アフリカ、インド、オーストラリア、南洋の広い地域を支配しています。
しかし私は、これは問題にならないと見ております。

 あれは19世紀で終ったのです。
強大な実力を有する国家がヨーロッパにしかない時代に、
英国は制海権を確保してヨーロッパから植民地に行く道を独占し、
更にヨーロッパの強国同士を絶えず喧嘩させて、
自分の安全性を高めて世界を支配していたのです。

 ところが19世紀の末から既に大英帝国の鼎の軽重は問われつつあった。
殊にドイツが大海軍の建設をはじめただけでなく、
三B政策によって陸路ベルリンからバグダッド、エジプトの方に進んで行こうとするに至って、
英国は制海権のみによってはドイツを屈伏させることが怪しくなって来たのです。
それが第一次欧州大戦の根本原因であります。

 幸いにドイツをやっつけました。
数百年前、世界政策に乗り出して以来、スペイン、ポルトガル、オランダを破り、
次いでナポレオンを中心とするフランスに打ち克って、
一世紀の間、世界の覇者となっていた英国は、最後にドイツ民族との決勝戦を迎えたのであります。

 英国は第一次欧州戦争の勝利により、
欧州諸国家の争覇戦に於ける全勝の名誉を獲得しました。

 しかしこの名誉を得たときが実は、おしまいであったのです。
まあ、やれやれと思ったときに東洋の一角では日本が相当なものになってしまった。

 それから合衆国が新大陸に威張っている。
もう今日は英帝国の領土は日本やアメリカの自己抑制のおかげで保持しているのです。
英国自身の実力によって保持しているのではありません。

 カナダをはじめ南北アメリカの英国の領土は、合衆国の力に対して絶対に保持できません。
シンガポール以東、オーストラリアや南洋は、
英国の力をもってしては、日本の威力に対して断じて保持できない。

 インドでもソビエトか日本の力が英国の力以上であります。
本当に英国の、いわゆる無敵海軍をもって確保できるのは、せいぜいアフリカの植民地だけです。
大英帝国はもうベルギー、オランダなみに歴史的惰性と外交的駆引によって、
自分の領土を保持しているところの老獪極まる古狸でございます。

 20世紀の前半期は英帝国の崩壊史だろうと私どもも言っておったのですが、
今次欧州大戦では、驚異的に復興したドイツのために、その本幹に電撃を与えられ、
大英帝国もいよいよ歴史的存在となりつつあります。

 この国家連合の時代には、英帝国のような分散した状態ではいけないので、
どうしても地域的に相接触したものが一つの連合体になることが、
世界歴史の運命だと考えます。

 そして私は第一次欧州大戦以後の国家連合の時代は、
この次の最終戦争のための準決勝戦時代だと観察しているのであります。

 先に話しました4つの集団が第二次欧州大戦以後は恐らく日、独、伊
即ち東亜と欧州の連合と米州との対立となり、
ソ連は巧みに両者の間に立ちつつも、大体は米州に多く傾くように判断されますが、
われわれの常識から見れば結局、2つの代表的勢力となるものと考えられるのであります。
どれが準決勝で優勝戦に残るかと言えば、私の想像では東亜と米州だろうと思います。

 人類の歴史を、学問的ではありませんが、
しろうと考えで考えて見ると、
アジアの西部地方に起った人類の文明が東西両方に分かれて進み、
数千年後に太平洋という世界最大の海を境にして今、顔を合わせたのです。

 この2つが最後の決勝戦をやる運命にあるのではないでしょうか。
軍事的にも最も決勝戦争の困難なのは太平洋を挟んだ両集団であります。
軍事的見地から言っても、恐らくこの2つの集団が準決勝に残るのではないかと私は考えます。

 そういう見当で想像して見ますと、
ソ連は非常に勉強して、自由主義から統制主義に飛躍する時代に、
率先して幾多の犠牲を払い幾百万の血を流して、今でも国民に驚くべき大犠牲を強制しつつ、
スターリンは全力を尽しておりますけれども、どうもこれは瀬戸物のようではないか。
 堅いけれども落とすと割れそうだ。
 スターリンに、もしものことがあるならば、内部から崩壊してしまうのではなかろうか。
非常にお気の毒ではありますけれども。

 それからヨーロッパの組はドイツ、イギリス、それにフランスなど、みな相当なものです。
とにかく偉い民族の集まりです。
しかし偉くても場所が悪い。
確かに偉いけれどもそれが隣り合わせている。
いくら運命協同体を作ろう、自由主義連合体を作ろうと言ったところで、考えはよろしいが、
どうも喧嘩はヨーロッパが本家本元であります。

 その本能が何と言っても承知しない、なぐり合いを始める。
因業な話で共倒れになるのじゃないか。
ヒットラー統率の下に有史以来未曽有の大活躍をしている友邦ドイツに対しては、
誠に失礼な言い方と思いますが、何となくこのように考えられます。
ヨーロッパ諸民族は特に反省することが肝要と思います。

 そうなって来ると、どうも、ぐうたらのような東亜のわれわれの組と、
それから成金のようでキザだけれども若々しい米州、
この2つが大体、決勝に残るのではないか。

 この両者が太平洋を挟んだ人類の最後の大決戦、極端な大戦争をやります。
その戦争は長くは続きません。
 至短期間でバタバタと片が付く。
そうして天皇が世界の天皇で在らせらるべきものか、
アメリカの大統領が世界を統制すべきものかという人類の最も重大な運命が決定するであろうと思うのであります。

 即ち東洋の王道と西洋の覇道の、
いずれが世界統一の指導原理たるべきかが決定するのであります。

 悠久の昔から東方道義の道統を伝持遊ばされた天皇が、間もなく東亜連盟の盟主、
次いで世界の天皇と仰がれることは、われわれの堅い信仰であります。

 今日、特に日本人に注意して頂きたいのは、
日本の国力が増進するにつれ、国民は特に謙譲の徳を守り、最大の犠牲を甘受して、
東亜諸民族が心から天皇の御位置を信仰するに至ることを妨げぬよう心掛けねばならぬことであります。

 天皇が東亜諸民族から盟主と仰がれる日こそ、
即ち東亜連盟が真に完成した日であります。
しかし八紘一宇の御精神を拝すれば、
天皇が東亜連盟の盟主、世界の天皇と仰がれるに至っても日本国は盟主ではありません。

 しからば最終戦争はいつ来るか。
これも、まあ占いのようなもので科学的だとは申しませんが、全くの空想でもありません。 

 再三申しました通り、西洋の歴史を見ますと、
戦争術の大きな変転の時期が、同時に一般の文化史の重大な変化の時期であります。

 この見地に立って年数を考えますと、
中世は約一千年くらい、
それに続いてルネッサンスからフランス革命までは、まあ300年乃至400年。
これも見方によって色々の説もありましょうが、大体こういう見当になります。

 フランス革命から第一次欧州戦争までは明確に125年であります。
千年、300年、125年から推して、
第一次欧州戦争の初めから次の最終戦争の時期までどのくらいと考えるべきであるか。

 千年、300年、125年の割合から言うと今度はどのくらいの見当だろうか。
多くの人に聞いて見ると大体の結論は50年内外だろうということになったのであります。

 これは余り短いから、なるべく長くしたい気分になり、
最初は70年とか言いましたけれども結局、
極く長く見て50年内だろうと判断せざるを得なくなったのであります。

 ところが第一次欧州戦争勃発の1914年から20数年経過しております。
今日から20数年、まあ30年内外で次の決戦戦争、
即ち最終戦争の時期に入るだろう、ということになります。

 余りに短いようでありますが、考えてご覧なさい。
飛行機が発明されて30何年、
本当の飛行機らしくなってから20年内外、
しかも飛躍的進歩は、ここ数年であります。

 文明の急激な進歩は全く未曽有の勢いであり、
今日までの常識で将来を推しはかるべきでないことを深く考えなければなりません。

 今年はアメリカの旅客機が亜成層圏を飛ぶというのであります。
成層圏の征服も間もなく実現することと信じます。

 科学の進歩から、どんな恐ろしい新兵器が出ないとも言えません。
この見地から、この30年は最大の緊張をもって挙国一致、
いな東亜数億の人々が一団となって最大の能力を発揮しなければなりません。

 この最終戦争の期間はどのくらい続くだろうか。
これはまた更に空想が大きくなるのでありますが、
例えば東亜と米州とで決戦をやると仮定すれば、始まったら極めて短期間で片付きます。

 しかし準決勝で両集団が残ったのでありますが、
他にまだ沢山の相当な国々があるのですから、
本当に余震が鎮静して戦争がなくなり人類の前史が終るまで、
即ち最終戦争の時代は20年見当であろう。

 言い換えれば今から30年内外で人類の最後の決勝戦の時期に入り、
50年以内に世界が一つになるだろう。
こういうふうに私は算盤を弾いた次第であります。



【続く】 
石原莞爾『最終戦争論』 第一部 最終戦争論 第四章 昭和維新

 



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