『隠された記憶』、観ました。
テレビの人気キャスターであるジョルジュと美しい妻アンは、息子ピエロと共に
幸せな生活を送っていた。だがジョルジュの元に送り主不明のビデオテープが
不気味な絵と共に何度も届くようになる。映し出されるのはジョルジュの家の
風景と家族の日常。やがてジョルジュは遠い日の記憶を呼び覚ます…。
これで今年も100本近く映画を観てきたわけだが、その中でもとりわけ難解で、
観終わった後の解釈が無限に広がっていくのが、この映画なのかもしれない。
ぶっちゃけ、レビューを書く立場からしても、大変困るんだよなぁ、こういう
映画って(笑)。アタマは使うし、(内容を)整理する時間は掛かるし…。はて??、
何から書き始めて良いのやら。
で、これから観る人のために忠告しておくと、コイツ(この映画)を“単なる
サスペンス映画”と思っていたら痛い目にあう。盗撮したビデオは送られて
くるものの、事件は一向に進展しないし、結局、最後まで犯人が誰だったのか
さえ明確にされないまま、映画はエンディングを迎えちまう。僅かに犯人を
特定するヒントがあるとすれば、首を刎(は)ねられた鶏の絵と、ラストシーンの
学園のキャンパスで、意味深に話し込む2人の少年の姿だろう。まぁ、ここまで
書けば、必然的に(容疑者として)残るのはアノ人か、コノ人しか居なくなる
わけだが…、いや、この際、そんな“犯人当ての推理”なんてどうでも良い。
むしろ、この映画では、一見平穏そうにみえる家庭の裏側に潜む秘密と、
その実態の脆さについて描かれた“家族のドラマ”として観た方が良さそう。
あるいは、人が人として生きる上で必ず背負わなければならない“罪の重さ”
について描いた“自責と呵責(かしゃく)のドラマ”と言っても良いかもしれない。
そして、このサスペンス映画では、ナイフを持った殺人鬼が、家族の命を
奪いに来るのではない、主人公の“隠された過去の記憶”が蘇り、かつて自分が
犯した“罪の重さ”に押し潰されるのだ。それは、彼に限らず、ボクに限らず、
アナタに限らず、誰に限らず持っている“若さゆえに犯した罪の記憶”‥‥、
その苦しみからどんなに逃げても追ってくる、どんなにもがいても抜け出せない。
すがるように絡みつき、影のように付きまとうのだ。