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震災と公益放送

2011-04-09 09:03:11 | 人:世相・若者の生き方
「こころ」はだれにも見えないけれど
「こころづかい」は見える
「思い」は見えないけれど
「思いやり」はだれにでも見える

チェロのようなゆったりとした柔らかな音楽が流れ、電車内では妊婦に席を譲る勇気を出せなかった高校生が、公園の階段でふと思い立って振り返り、足元の危ないおばあさんが上がっていくのを助ける……ACの公益広告「見える気持ちに」である。非常によく構成された広告の言葉と、わかりやすい生活の一場面に、初めて見たときは誰でも心を動かされ、気持ちを揺さぶられる。

そう。思いやりを持っていても、それを行動に移すのは容易ではない。美しい心も、行動に表れてこそ、そこに含まれる価値が真に意味を持つようになる。「見える気持ちに」で引用された言葉は、宮澤章二さんの詩集「行為の意味」に収められている。この言葉が優しい人々の心を共振させ、広告が放送されてわずか一週間で詩集の販売数はアマゾンのトップに躍り出た。

マグニチュード9の大地震が起こり、日本のテレビ局で放映されていたすべての企業広告は、震災での自粛と死者への哀悼のために中止された。そのため、ふだんは年にわずか13回しか放映されないACジャパン(旧日本公共広告機構)の公益広告が、一般の広告に代わって一週間に100時間以上放映されることになり、テレビ広告の99%を占めてしまった。毎日テレビをつけると、無残な光景を伝える震災のニュースのほかは、妊婦、おばあさん、そして、すでに聞き飽きた公益広告の言葉が繰り返し繰り返し流されることになった。

公益広告自体は金銭の授受を伴わないが、放送の頻度が高すぎるために、ACジャパンに対して「広告の内容が地震と関係がない」「『エーシー』という言葉(サウンドロゴ)が不快だ」などの投書や抗議が殺到し、ACジャパンではついにサウンドロゴを消し、ホームページに謝罪文を掲載した。その後、歌手やスポーツ選手、俳優、芸人などがボランティア出演する団結力を呼びかけた新しい広告が作られ、悲惨な震災ニュースの合間に、新しい輝きが出現した。

梅干は身体にいい食べ物だが、大量に食べると塩分の取りすぎになって健康によくない。公益広告もそれと同じようなものだろう。心に深い傷を負った被災者の方々は、確かに温かい慰めを欲している。しかし、道徳観を呼びかける言葉がいつまでも続いたら、心理的な拒否感が生まれて逆効果になってしまう。その意味で、「見える気持ちに」は私たちに考える機会を与えてくれたとも言えるだろう。

(C)AC JAPAN

●ACジャパンCM「見える気持ちに」 http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=puKHnOWKBrA


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