脚本 阿井文瓶、監督 野田幸男
1987年3月5日放送
【あらすじ】
高級マンションが立ち並ぶ街の一角にある、時代に取り残されたようなアパート「あけぼの荘」。その古びた姿を見つめる神代の表情からは、深い感慨が読み取れる。そこへ、数人の部下を引き連れた貫禄ある男が、咥えタバコで通り掛る。男は神代に視線を向けると、驚いたように足を止める。「神代君?」旧知の男との偶然の再会に、互いの顔に懐かしげな笑みが浮かぶ。「青春回顧ですか?」男の意味ありげな問いに、「いや、仕事ですよ」と答える神代。「一度ゆっくり、食事でも・・・」男が差し出した名刺には、大手不動産会社の専務という肩書が記されていた。
「あけぼの荘」の一室では、特命課の刑事たちが扼殺死体を取り囲んでいた。被害者はその部屋の住人で、家主によれば、部屋代を滞納している上に素行も悪く、おかげで他の部屋の住人が次々と逃げ出し、今では被害者の他に3部屋しか埋まっていない状況だという。
3部屋の住人を調べたところ、いずれも被害者とトラブルを抱えていた。なかでも激しくやり合っていたのが、ニワトリを飼う老人だった。
事件当夜、その老人が、ぐったりした被害者を部屋に担ぎ込んでいたとの目撃証言を得る橘たち。追及に対し、老人は「鶏小屋の前で死んでいたので、疑われるのが嫌で運んだだけ」と犯行を否定する。「あのアパートは私の人生の拠り所だ。だから、どれだけ嫌がらせをされても、出て行く気はなかった。そんな場所で人殺しなんかするもんか・・・」だが、その言葉とは裏腹に、老人は郊外に住む息子夫婦宅に同居を申し入れては断られていた。さらに、鶏小屋の奥から凶器のロープも発見される。だが、神代は「老人は犯人じゃない」と断定し、釈放を命じる。
他の2部屋の住人を当たる特命課。被害者に暴力を振るわれていた無職青年は、紅林に「仕事もせずにブラブラしている僕が許せなかったんだと思う。根は勤勉な男じゃないかな・・・」と語る。中年夫婦は橘に被害者への殺意を語る。妻は妊娠中に被害者の嫌がらせを受け、流産していた。「あの老人は、私たちの代わりに奴を殺してくれたんだ・・・」
被害者の身許を調べたところ、ダムに水没した村の出身と判明。被害者はダムの補償金を酒とバクチで失った挙句、妻子と離別していた。時田は被害者の妻子を見つけ出し、詳しい事情を聞く。「村のためを思ってやったことなんです・・・」被害者は廃れる一方の村の将来を考え、土地を売るよう住民たちを説得した。だが、持ちつけない大金を持った住人たちは身を持ち崩し、その責任を一身に負わされた被害者は、妻子と別れて村を出るしかなかった。以来、被害者は引っ越すたびに、妻に手紙を送り、「今に大金をつかんで、もう一度、家族一緒に・・・」と伝えてきたという。
被害者が移り住んだ住所を調べたところ、すべて新しいビルやマンションに建て替えられていた。「あけぼの荘」周辺にも土地買収の計画があり、被害者は地上げ屋の手先となって住民を追い出していたものと推測された。一方、被害者の靴に付着していた土が特殊なものと判明。他の場所で殺され、アパートに運ばれたものと推測されたため、車を運転できない老人の無罪が証明される。
そのとき、老人が呆然とした表情で特命課を訪れる。「みんな、殺された・・・」老人の言葉に緊迫した雰囲気が走るが、死んだのがニワトリと聞いて、とたんに弛緩する。だが、神代は一人、厳しい口調で老人の過去を語る。「あの頃、地下鉄が15円。かけそばが17円。アンパンが5円。ニワトリの卵は15円もした・・・」しかし、老人は決して卵を売ろうとしなかった。結核持ちのタイピストや、うどん粉だけで飢えをしのいでいた夜間大学生。かつての「あけぼの荘」の住人たちは、みな老人の卵で救われてきた。「あのニワトリは、そういうニワトリで、卵はそういう卵だったんだ・・・」そして、神代もまた、老人に助けられた一人だった。「10数年前、私が風邪を引いたとき、卵を落としたおかゆを持ってきてくださいました。覚えていらっしゃいますか?」「神代、君?」「その神代です」「神代君!」懐かしげに神代の肩を握り締める老人。その肩を握り返す神代の頬を、涙が伝っていた。
(長くなるので、後編に続く)
【感想など】
阿井文瓶最後の脚本にして、最終3部作を除けば最終エピソードとなる本編は、80年代後半の、後に「バブル」と呼ばれる時代を背景とした傑作。じっくりとあらすじを書き残したいと思いますので、特別に前後編に分けさせていただきます。できるだけ間を空けずに、あらすじの後編と感想を投稿しますので、よろしくご了承ください。
1987年3月5日放送
【あらすじ】
高級マンションが立ち並ぶ街の一角にある、時代に取り残されたようなアパート「あけぼの荘」。その古びた姿を見つめる神代の表情からは、深い感慨が読み取れる。そこへ、数人の部下を引き連れた貫禄ある男が、咥えタバコで通り掛る。男は神代に視線を向けると、驚いたように足を止める。「神代君?」旧知の男との偶然の再会に、互いの顔に懐かしげな笑みが浮かぶ。「青春回顧ですか?」男の意味ありげな問いに、「いや、仕事ですよ」と答える神代。「一度ゆっくり、食事でも・・・」男が差し出した名刺には、大手不動産会社の専務という肩書が記されていた。
「あけぼの荘」の一室では、特命課の刑事たちが扼殺死体を取り囲んでいた。被害者はその部屋の住人で、家主によれば、部屋代を滞納している上に素行も悪く、おかげで他の部屋の住人が次々と逃げ出し、今では被害者の他に3部屋しか埋まっていない状況だという。
3部屋の住人を調べたところ、いずれも被害者とトラブルを抱えていた。なかでも激しくやり合っていたのが、ニワトリを飼う老人だった。
事件当夜、その老人が、ぐったりした被害者を部屋に担ぎ込んでいたとの目撃証言を得る橘たち。追及に対し、老人は「鶏小屋の前で死んでいたので、疑われるのが嫌で運んだだけ」と犯行を否定する。「あのアパートは私の人生の拠り所だ。だから、どれだけ嫌がらせをされても、出て行く気はなかった。そんな場所で人殺しなんかするもんか・・・」だが、その言葉とは裏腹に、老人は郊外に住む息子夫婦宅に同居を申し入れては断られていた。さらに、鶏小屋の奥から凶器のロープも発見される。だが、神代は「老人は犯人じゃない」と断定し、釈放を命じる。
他の2部屋の住人を当たる特命課。被害者に暴力を振るわれていた無職青年は、紅林に「仕事もせずにブラブラしている僕が許せなかったんだと思う。根は勤勉な男じゃないかな・・・」と語る。中年夫婦は橘に被害者への殺意を語る。妻は妊娠中に被害者の嫌がらせを受け、流産していた。「あの老人は、私たちの代わりに奴を殺してくれたんだ・・・」
被害者の身許を調べたところ、ダムに水没した村の出身と判明。被害者はダムの補償金を酒とバクチで失った挙句、妻子と離別していた。時田は被害者の妻子を見つけ出し、詳しい事情を聞く。「村のためを思ってやったことなんです・・・」被害者は廃れる一方の村の将来を考え、土地を売るよう住民たちを説得した。だが、持ちつけない大金を持った住人たちは身を持ち崩し、その責任を一身に負わされた被害者は、妻子と別れて村を出るしかなかった。以来、被害者は引っ越すたびに、妻に手紙を送り、「今に大金をつかんで、もう一度、家族一緒に・・・」と伝えてきたという。
被害者が移り住んだ住所を調べたところ、すべて新しいビルやマンションに建て替えられていた。「あけぼの荘」周辺にも土地買収の計画があり、被害者は地上げ屋の手先となって住民を追い出していたものと推測された。一方、被害者の靴に付着していた土が特殊なものと判明。他の場所で殺され、アパートに運ばれたものと推測されたため、車を運転できない老人の無罪が証明される。
そのとき、老人が呆然とした表情で特命課を訪れる。「みんな、殺された・・・」老人の言葉に緊迫した雰囲気が走るが、死んだのがニワトリと聞いて、とたんに弛緩する。だが、神代は一人、厳しい口調で老人の過去を語る。「あの頃、地下鉄が15円。かけそばが17円。アンパンが5円。ニワトリの卵は15円もした・・・」しかし、老人は決して卵を売ろうとしなかった。結核持ちのタイピストや、うどん粉だけで飢えをしのいでいた夜間大学生。かつての「あけぼの荘」の住人たちは、みな老人の卵で救われてきた。「あのニワトリは、そういうニワトリで、卵はそういう卵だったんだ・・・」そして、神代もまた、老人に助けられた一人だった。「10数年前、私が風邪を引いたとき、卵を落としたおかゆを持ってきてくださいました。覚えていらっしゃいますか?」「神代、君?」「その神代です」「神代君!」懐かしげに神代の肩を握り締める老人。その肩を握り返す神代の頬を、涙が伝っていた。
(長くなるので、後編に続く)
【感想など】
阿井文瓶最後の脚本にして、最終3部作を除けば最終エピソードとなる本編は、80年代後半の、後に「バブル」と呼ばれる時代を背景とした傑作。じっくりとあらすじを書き残したいと思いますので、特別に前後編に分けさせていただきます。できるだけ間を空けずに、あらすじの後編と感想を投稿しますので、よろしくご了承ください。
第438話「美しい狙撃者!殺意を呼ぶマネーゲーム」の田沼靴修理店すぐ側が今回のロケ地ですね。藤田啓而さんに匹敵する名脇役・今福正雄さんが今回の主役(特捜での最後の出演)!
「先生のつうしんぼ」(1977年・日活児童映画)では渡辺篤史さんが新任の先生役で今福さんが校長役でした。お二人にとっては10年後の共演で、撮影の合間にもしかしたら昔話に花を咲かしてたかも知れません。
何といっても第54話「ナーンチャッテ おじさんがいた!」が今福さんの最高傑作でしょうね。もちろん「カラスと呼ばれた女!」など今だに彼を超える温かみを感じさせる役者を私は知りません。
神代課長の評する「お人好しで、しかし貧乏な人」(南老人)の卵を落とした一杯のおかゆに感謝も出来ず、恩を仇で返した挙句、「大っ嫌いだ」と吐き捨てた冬川専務。まさに因果応報。あの世でも重い十字架を・・・以下略。
続きは後編で。
ようやく後編も投稿しましたので、よろしければまたコメントいただければと思います。
もちろん、殺人は別だけど。
件の台詞は、後編で紹介しているラストシーンでの男の台詞ですね。仰るとおり、男と神代、いずれの価値感が正しいと言えるものでもありません。その対比の奥深さが、本作の魅力と言えるでしょう。
よろしければ、引き続き後編についてもコメントいただければ嬉しく思います。またよろしくお願いします。
叶はC大学法学部の学生と仮定すると駿河台キャンパスに通って「いもや」の天丼を食べたりしたんじゃないか・・・と神保町を訪れる度に夢想してました。
財布を落としたのが東中野駅~叶の恩人の警官が勤務するのが飯田橋。大学への最寄り駅がお茶の水駅とすれば中央線つながりでまとまります。
駅の立ち食いそば屋も頻繁に利用したかもしれませんね。私事ですが昔ひとりで食事してたらオバちゃんに「内緒ね」って玉子をサービスして貰ったっけ・・・。もっとも叶なら毎日サービスされるのでしょうね。イケメンだから(笑)。あの時のおばちゃん、ありがとう!(今なら、おねえさんと呼びます)
ニュース速報で名古屋でK氏が当選と報道。叶のような者が報われる社会実現への良い兆しです。でも状況はエジプトと同じ公務員天国なので楽観は出来ませんが、とにかく吉報です。
叶刑事も夜学を出ていますね。今の日本人が失っているバイタリティーを持っていて、ほんとうに名作だと思います。
>平成の勤労学生さん
ども、こんばんは。#371「7月乃青春レクイエム!」も名作です。アレも夜学で叶の青春を扱った名作です。これで叶ファンになりました(照)。
せっかく夜学に通ってるのですから、船村よろしく角打で一杯ひっかけて英気を養う・・・なんてのもたまにはイイ?案外高杉もそのクチだと思います。純粋まっすぐ君は長続きしません。紅*みたいのが真っ先にコケます。遍く真理ですね。漫画家の水木翁も同じ趣旨の事を述べていらっしゃいます。
陰ながら応援してます。あっ!よろしければ拙ブログ「コロンボの特捜最前線日記」をご覧ください。ロケ地の記事ばっかりでスイマセン。たまにオフ会の告知が出ます。って直近は5月19日(土曜)です。この場を借りて告知を(^^)。
あらすじ読んで是非映像を観たくなりました
余談ですが、私の推し刑事は、船村刑事と橘刑事です。
凄い格好良く、亡くなった今でも、強く尊敬してます。
平成になって28年目ですが、特捜最前線とGメン75を越える作品は存在しませんね。
それくらい特捜とGメン大好きです。
学ぶことがたくさん有ります。
特捜最前線には数多くの名作ありますね
裸の街Ⅱ最後の刑事
撃つ女
は感動します