快読日記

日々の読書記録

「アレグリアとは仕事はできない」津村記久子

2012年12月20日 | 日本の小説
《12/19読了 筑摩書房 2008年刊 【日本の小説 短編集】 つむら・きくこ(1978~)》

収録作品:アレグリアとは仕事はできない/地下鉄の叙事詩

アレグリアは気まぐれで怠慢、すぐに仕事を放棄し、1分働くと2分休む、男性社員には媚び、女が操作するとエラーを出す、ビッチなコピー・スキャナ・プリンタの複合機。
主人公のOLがアレグリアに対する怒りや憎悪をフツフツと煮えたぎらせる様子に笑いながら、なんだか分かるわ~、その気持ち。

文章は理屈っぽいけどスッキリ味で透明感があります。
しかし、そこで描かれるのは小さいけど、いや、小さいからこそ絶望的にズキズキと痛いささくれみたいなものです。

「自分が最も受け入れがたいことはいったいなんなのだろうかと考えた。それは結局、たった一人でこの機械はおかしい、と主張し続けることで、それに一切の共感を得られないことだ」(41p)

皮肉なことに、どうしても受容できない人(orモノ)のことが頭から離れない。
周囲の人を見ると結構うまくつきあってるようだ。
ってことは、悪いのは自分なのか?
どんどん心がすさんでゆく。
劣っているのは自分の方なのか、という苛立ちと孤独、自分が重く汚れていくような感覚。
こういう感覚が文字になるなんて。小説になるなんて。
大げさかもしれないけど、純文学の意義が少し分かった気さえしました。
終わり方もちょっと切なくて秀逸。

朝の通勤電車で起きたある事件を4人の人物それぞれの視点で語った「地下鉄の叙事詩」は、作者の錐で深く突き刺すような心情の描写が鬼気迫るかんじ。

「電車は暴力を乗せて走っている」(151p)

さらっとした文体にミスマッチなくらい黒い話。
だからこそ読めるのかな。

/「アレグリアとは仕事はできない」津村記久子
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