快読日記

日々の読書記録

「暗渠の宿」西村賢太

2011年07月28日 | 日本の小説
《7/27読了 新潮文庫 2010年刊(2006年に新潮社から刊行され単行本を文庫化) 【日本の小説 短編集】 にしむら・けんた(1967~)》

デビュー作「けがれなき酒のへど」と表題作の2編。
前者は女にだまされた話、後者は別の女と同棲した話。
「苦役列車」での作者の分身(主人公)北町貫多はまだ生まれておらず、語り手の「私」には名前がありません。
そして、この「私」というのが年下の友人をして「最低の奴」と言わしめるほどの男で、本の中にいるぶんにはおもしろいけど、身近にいたら本当に関わりたくない人物。
特に自分より弱い相手に対する暴言が殺人的にひどい。
あまりの笑えない悪態に、かえって大笑いしてしまうという変なことになるので要注意です。
さらに信じられないほどの真性小心者なので、もし体調がふるわないときに読んだりしたら、汚穢を浴びせられたような気持ちになるでしょう。
そうだ、しょせん人間は皆みじめで卑怯で滑稽なおたんちんだ、ということを思い知らされ、だからかわいいのだ、と思えないこともない。
文章はちょっと町田康を思い出させる饒舌体だけど、町田康がいかにもモテなのに対して、こっちは正真正銘の非モテ。

この作者の魅力を、解説の友川カズキは「命を焦がす疾走感」と表現しています。
乾燥した木が勢いよく燃えるんじゃなくて、水分を多く含む生木がブスブスと「焦げてる」んですね。
炎が出ないので人を暖めることもなく、むしろあたりに悪臭を漂わす、しかも高温なので軽く見てるとやけどする。
さすがうまいことを言う。

芥川賞もらったあとの作品が読みたいです。

→「苦役列車」西村賢太

/「暗渠の宿」西村賢太
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