快読日記

日々の読書記録

「ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて」安田浩一

2013年01月12日 | ノンフィクション・社会・事件・評伝
《1/9読了 講談社 2012年刊 【ノンフィクション】 やすだ・こういち(1964~)》

在日特権を許さない市民の会(在特会)を追いかけたルポ。
ネットを駆使し、会員数1万人を誇る「市民保守団体」だそうです。
代表は1971年生まれの男性。

カルデロン一家の娘が通う学校や京都の朝鮮学校に押しかけたり、フジテレビ前で反韓流デモをしたりした人たち、と言われると、ピンとくる人も多いんじゃないかと思います。
在日朝鮮人をこの上なく口汚く罵る独特の演説が特徴です。

どういう人たちがメンバーなのかについては予想通りというかんじ。
「ネット右翼」と称されることも多いけど、彼らは右翼とは似て非なる存在でしょう。
在特会メンバーがその胸中に押し込めているのは劣等感・喪失感・不安、そして寂しさ、何もかもがうまくいかない焦り、なんで自分だけがという被害者意識。
在日朝鮮人へのバッシングはその憂さ晴らしにすぎないのかもしれません。
そもそも在日朝鮮人に「特権」なんかあるのか、という点も筆者によって丁寧かつ冷静に検証され、その他の彼らの主張が抱える矛盾も慎重に指摘されています。
(例えば「在日特権」を批判するならまず在日米軍だろう、とか。)

しかし、この本が立派だなあと一番思うのは、
メンバーの素性の暴露や活動の批判をするだけでなく、
冷徹な取材で厳しく追及しながらも、彼らの核にある“寂しさ”“もろさ”に触れ、デリケートな部分を誠実に分析しているところです。
エピローグまできて筆者の言いたいことが分かった瞬間、胸が熱くなりました。←ふさわしい言い方かどうかわかりませんが。

「サミュエル・ジョンソンは、「愛国心は、卑怯者の最後の隠れ家である」という有名な警句を残した。だが、本当にそうなのか。在特会を見ている限りにおいて、愛国心とは寂しき者たちの最後の拠り所ではないのかと感じてもしまうのだ」(138p)

「どうせ自分はこんな社会では、うまく立ち回ることができないのであれば、いっそ、社会なんて壊してしまった方がいいと真剣に思った。(略)世の中をブチ壊すことで、ダメな自分もようやく人と同じ地平に立つことができるのではないかという、一種の破壊願望だ」(362p)

/「ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて」安田浩一