快読日記

日々の読書記録

「果てなき渇望-ボディビルに憑かれた人々」増田晶文

2012年02月17日 | ノンフィクション・社会・事件・評伝
《2/15読了 草思社 2000年刊 【ノンフィクション】 ますだ・まさふみ(1960~)》

ただのコンプレックス克服とかナルシシズムなんていう単純な話じゃありませんでした、ボディビル。
「メンタルスポーツだと思う。もうこのくらいでいいやと考えた瞬間に、もうその人はチャンピオンになる資格を失っている」(119p)という女子ビルダーの言葉が表すように、ボディビルダーたちは真面目で自律的。
始めるきっかけはさまざまですが、一度のめり込むと生活のすべてを筋肉に捧げるようになるのはみんな一緒です。
そして、一般的な「美しい肉体」をはるかに追い越し、明らかに「異形」となった肉体を手に入れても彼らは満足しない。
さらに驚いたのは、日本のビルダーのほとんどはアマチュアで、国内のコンテストはすべて賞金なし!という話。
想像を越えています。
1円ももらえないのに、何が悲しくてそんな辛いことを…。
いや、もらえないからこそ、なのかな。

女子ビルダーの項もおもしろかったです。
自らの女性性を否定し、人間として強い肉体を求めてボディビルダーになったのに、審査基準で「女性らしさ」を要求されるという矛盾。
かつて“ボディビル界の百恵ちゃん”と呼ばれた西脇美智子は、女子ビルダーの中ではかなり華奢な部類のようです。

圧巻はどこかと言えば、間違いなくアナボリック・ステロイドをはじめとする禁止薬物を使うビルダーを取材した第3章。
与えられた肉体(自然)を、人知の力でねじ伏せ、コントロールする快感に取り憑かれているとしか思えないのですが、
仕事も家族も自分の人生をも犠牲にして(いるように見える)、この人たちはいったいどこに行きたいのでしょうか。

しかし、
人と競うのではなく、ひたすら自分と向き合い、こつこつ努力できる、
運や勝負勘やスポーツセンスなどは関係なく、やったらやっただけの成果が、目に見える形で現れる、
こんなボディビルの虜になる理由がなんだか少し理解できた気がします。
人間って、おもしろいね~。

/「果てなき渇望」増田晶文
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