快読日記

日々の読書記録

「ペテロの葬列」宮部みゆき

2014年06月12日 | 日本の小説
《6/1読了 2014年刊 【日本の小説】 みやべ・みゆき(1960~)》

小説ってのは書く人の人間としての力量みたいなのがあらわになっちゃう怖い分野なんですね。
この杉村三郎シリーズ(「誰か」「名もなき毒」「ペテロの葬列」)は人間の見本帳のようで、
主要人物はもちろん端役にいたるまで「ああ、こういう人いる!」と思い当たり、何より感心するのは、各人物の性質と言動に矛盾がないこと。
実際にその人に接したようなリアリティと説得力があります。
そして、人間に向ける目は意外なほど冷徹なところもあって、読んでてグサッとくることが多い。

杉村三郎と編集長・園田が仕事帰りにバスジャックに巻き込まれるところから話は始まりますが、その謎解き(も充分おもしろいけど)よりも、事件を軸に展開するたくさんの“人”の物語に読み応えがありました。
結局、一番の謎は人間そのものなんだ、なんて言ってしまえば軽率だけど、人間を描くことへの“覚悟”が読む側を圧倒します。

いろいろ意見が分かれそうな結末については、わたしはこれしかないと思いました。
あまり詳しくは書きませんが、プロローグで語られる“杉村三郎がバスの中から見た光景”と、奇しくも(もちろん作家の意図ではあるが)二人がそれぞれ口にした「甘え」という言葉のあまりのギャップに、これ以外の終わり方はないと感じました。

それにしても、宮部みゆきのこの腹の据わりっぷりと懐の深さは尋常じゃないですね。
人間や運命の捉え方が松本清張を想起させます。

/「ペテロの葬列」宮部みゆき