快読日記

日々の読書記録

「人質の朗読会」小川洋子

2011年10月19日 | 日本の小説
《10/18読了 中央公論新社 2011年刊 【日本の小説】 おがわ・ようこ(1962~)》

地球の裏側のある村で、日本人旅行客が乗ったバスが、反政府ゲリラに襲われた。
拘束されて100日以上たったころ警官と特殊部隊が突入。
犯人グループは全員射殺されたが、人質も8人全員が死亡。
その2年後、生前の人質たちが各々の物語を綴り、それを順番に朗読していたテープが公開された。
…という小説です。

小川洋子には「人間の哀しさ」という短いエッセイがあって、
子供のころ見たある光景を語り、そこからすべての人間が持って生まれてくる哀しみ・心細さ・美しさ・切なさ、そうした“何か”を言葉にすることこそが自分にとっての小説を書く理由である、と宣言しています。
この作品に登場する人たちは、「人質になる」という状況下で自分の人生の一場面の“何か”を切り取り、文章にする。
それは蚕が吐き出した絹糸の繭のように、小さくて静かで美しくて哀しい。
そこで朗読される、塩の結晶のような物語たちは、小さな弾丸になって胸にずーんと来ます。
生きて、死んだ、という、言葉にするとそれだけのことなのに。

/「人質の朗読会」小川洋子
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