快読日記

日々の読書記録

「ゆれる」西川美和

2010年08月19日 | 日本の小説
《8/17読了 ポプラ文庫 2008年刊(2006年にポプラ社より刊行された単行本を文庫化) 【日本の小説】 にしかわ・みわ(1974~)》

今現役の若い小説家で、このあとも読み続けたい人は?と問われたら、この人を挙げたいです、西川美和。
彼女が作る映画も好きですが、人物の心理をエグいほど掘り下げる気迫と力と執念、それを表現する言葉のするどさ、やっぱり小説も書き続けてもらいたい。

本作は、(正確には2組の)兄と弟の話。
6人の登場人物それぞれが語る形式です。
田舎の実家を守る兄は稔、東京に出てカメラマンとして活躍する弟は猛。
母の法事で帰省したこの弟の目を通して、兄たちの姿を描くうちに、あれよあれよという間に話は「藪の中」のように、一気にサスペンスっぽくなっていきます。
でも、何がサスペンスって、結局、人の心に勝る謎はない、というのが読後の感想です。

映画は観ていないのですが、キャスティング、とくに稔役の香川照之がハマりすぎて、
活字の上をチラつくその顔を追い払えず、途中であきらめました。
その香川が書いた文庫版解説も、2パターンの結末を描いていて佳作。

→「きのうの神様」西川美和