快読日記

日々の読書記録

「香水 ある人殺しの物語」パトリック・ジュースキント

2008年04月09日 | 翻訳小説
《グルヌイユが欲しかったものは。》





これは、魔力ともいえる超人的な嗅覚を持つ男・グルヌイユの話です。
冒頭から、息をするのもためらうほどの「匂い」がひしめきます。
安部公房がかつて、
例えば見慣れた町の地図を犬が作ったら、それは匂いの分布図になり、そこには我々が見たこともない世界が広がるはずだ、
と言っていた、まさにそれです。
風景も人の往来も、その感情や関係まで"嗅ぎとる"グルヌイユに付き合ううち、世界は匂っている、匂いこそが世界だと思えてきます。


そんなグルヌイユが、求め続けた匂い――それを考えると底なしの絶望と孤独で、みぞおちの辺りがひんやりと重くなってきます。

■4/9読了 文春文庫 池内紀 訳 【翻訳小説 ドイツ】