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「彼と彼女の墓」3

2017年11月03日 | T.B.2020年

 何日も雨が降り続き、やがて、止む。

 久しぶりの晴れ間。

 彼は再び、東一族の村へ入る。
 迷わず、墓地へと向かう。
 途中、誰にも会わない。

 墓地にも、誰もいない。

 風が吹く。

 彼は墓地の入り口で待つ。

 音を聞く。
 誰かが走ってくる音。

「ねえ!」

 手を振りながら走ってくる、まだ幼い印象の、子。
 もちろん、黒髪の東一族。

 そして、東一族現宗主の、実の娘。

 彼女は、誰とも判らない彼を
 不思議と思うことなく、話しかける。

「久しぶりね!」

 彼は頷き、云う。

「長かったね、雨」
「私、部屋の中で退屈しちゃった」
「そう」

 ふと、彼はあたりを見る。
 誰もいないと思っていた墓地に、また別の気配がする。

「どうかした?」
「…………」
 彼の様子に、彼女は首を傾げる。
 彼は彼女を見る。

 彼女は、東一族宗主の血を継ぐ者なのだ。
 本来、ひとりでこのような場所へは、来られないはず。

「ここへは内緒で?」
「うん」
 彼女が云う。
「じゃないと、外に出してもらえないよ」
「そう?」
「内緒で、こっそりね!」
「……ひょっとして」
 彼が云う。
「この前外に出たの、父親にばれたんじゃない?」

 雨が降る前にも、彼と彼女はこの墓地で会っている。

「うーん」
 彼女は苦笑いする。
「ばれてた」
「だろうね」
「でも、本当に今日は大丈夫!」

 彼は、再度あたりを見る。
 近くにいる。
 誰かが、彼女を付けてきている。

「……まあ。いいか」
「…………?」

 彼は云う。

「君が云っていた、君のお母さんのお墓」
「ええ」
「実は、見つけたんだ」
「え?」
 彼女は目を見開く。
「母様のお墓を?」
「そう」
「見つけ、た?」

 彼女は、ここで、今は亡き母親の墓を探している。

 亡き母親。
 つまり、少なくとも東の宗主の関係者であるはず。
 なのに
 誰も、その場所が判らないと、云う。

「行こう」

 彼は彼女の手を取る。

 そのまま彼女の手を引き、墓地の中へと歩く。

 ふたりは歩く。

 東一族の墓石が並ぶ横を通り過ぎ、墓地の外れへと来る。
 彼はまだ進む。
 そこに、墓石はない。

「ねえ」

 不安になったのか。
 彼女が彼の手を引く。

「この先に、墓石はないわ」

 彼は首を振る。
 立ち止まり、指を差す。

 そこに、小さな石が、ふたつ。

「ほら」

 彼は云う。

「君のお母さんの、お墓だよ」



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