「圭・・・」
それでも、杏子は、何かを云おうとする。
杏子の目は、うつろだ。
圭は、杏子を支える。
杏子が、何か、云う。
けれども、その言葉は、か細い。
聞き取れない。
「杏子」
圭は、杏子をのぞき込む。
「・・・ごめんなさい」
杏子が、再度云う。
「あなたの名まえを、私が口走ったばかりに・・・」
「・・・杏子」
「あなたと、・・・広司に迷惑を」
その言葉に、圭は一瞬顔をしかめる。
首を振る。
「杏子」
圭が云う。
「・・・休もう」
あの騒ぎから、何日過ぎたのだろう。
・・・その間、杏子は、どこでどんな扱いを。
圭は、杏子を支えたまま、部屋の奥へと移動する。
今は、使われていない部屋。
「杏子、ほら」
圭は、杏子を坐らせる。
「ここに横になって」
圭が云う。
「少し、休もう」
杏子の目は、すでに、閉じられていた。
しばらく、圭は杏子を見つめる。
やがて、部屋を出る。
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