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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」70

2014年05月23日 | 物語「水辺ノ夢」

「東一族の村、に?」

杏子はその手と成院を交互に見る。

帰れる?

まさか、帰れる日、が?

杏子は息をのむ。

そうだ。
今なら、圭はいない。
成院なら、きっと、無事にここから連れ出してくれる。

そして
村に帰れば、父と母と、……なつかしい人に会える。

「杏子」

成院の声が、杏子に響く。

「でも……」

でも、もし、杏子が西一族の村から逃げ出したことが、ばれたら?
圭は

圭は、どうなるのだろう。

「杏子、帰ろう」
再度、成院が云う。
「成院」

杏子は、自分の手の平を、強く握る。

「……私、出来ない」
「杏子?」
成院の表情が、こわばる。
「大丈夫だ、俺が必ず連れて帰る」
「そうじゃないの」
杏子は、首を振る。
「ひとりにして、……行けない、から」
「ひとり?」

そうだ。

このまま、黙って出て行けない。

こんな状況で

圭が、

圭が、……心配だ。

「まさか、西一族、か?」
成院の言葉に、杏子は小さく頷く。
「いつかは帰りたいと思っている。……でも、今は」

杏子は、窓から辺りを見る。
「早くここから離れて。私は、……大丈夫だから」

杏子は、そっと、笑う。

成院は、ただ、

ただ、驚いている。

「ありがとう」
杏子が云う。
「成院。どうか気を付けて。……さようなら」



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