呼ばれたような気がして、杏子は顔を上げる。
風が吹く。
あたりには、誰もいない。
杏子はため息をつく。
手に持っていた、かごを、地面に置く。
一族の者は、夕方の支度だろうか。
あちこちの建物から、煙が上がっている。
この時間。
自分は、いつも何をしていただろう。
そう思いながら、杏子は再度、あたりを見る。
風が吹く。
あたりには、誰もいない。
「杏子。ほら、かごを持って」
云われて、杏子は慌てて、かごを持つ。
「そうだ。私も夕方の支度をしなくちゃ」
声のした方向を、見る。
「・・・光」
杏子は云う。
「もう、会えないのかと、思った」
彼が頷く。云う。
「梨子に、預けているものがあるから」
「ええ。聞いたわ」
杏子が云う。
「でも、光がいてくれれば、いいの」
杏子は、光に近付こうと、する。
「待って、光」
けれども、近付けない。
「光・・・」
杏子は手を伸ばす。
「ねえ、光!!」
杏子の伸ばされた手 を、誰かが掴む。
「杏子!」
杏子は、目を見開く。
そこに
「・・・、佳院?」
杏子は、思わず佳院の手を振り払う。
「やだ、」
杏子は、笑う。
悪いと思って。
笑う。
けれども
顔は、笑えてない。
「なぜ、ここに?」
佳院が訊く。
村はずれの墓地。
杏子は、答えない。
「ごめんなさい」
「杏子・・・」
「どうしちゃったのだろう、私」
佳院を見る。
「謝ってばかりだわ」
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