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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」156

2016年11月04日 | 物語「水辺ノ夢」

補佐役は顔を上げる。

会議室で仕事をしていたところだった。
そこに、誰かが部屋へと入ってくる。

「なんだ、巧」

巧を見て、補佐役は書類をまとめる。

「生まれたんだってな」
「ああ」
「子どもは黒髪だったと」
「・・・ああ」

「どうしたもんか」

補佐役は肘をつく。

「南に移住した西の者に、託すか」

「そのことなんだが」

巧は立ったまま云う。

「子どもと母親は、うちには不要だ」

「・・・・・・」

補佐役は一瞬目を細める。
が、
すぐに、頷く。

「まあ、そうだろうな」
云う。
「家に黒髪がふたりもいるのは、な」

とりあえず坐れ、と、補佐役は手を出す。

「だが、あいつらにはほかに居場所はない」
「圭の家に住まわそうと思う」
「何?」
「あそこは今、空き家だ」
「おいおい」

補佐役が云う。

「空き家ではなく、あくまでも留守の家だ」

そして、そんなことはどうでもいい、とも。

「とにかくそれは出来ない」
「なぜだ」
「誰が面倒を見るんだ」
「自分で何とかするだろう」
「ダメだ。お前の家に連れて帰れ、巧」
「うちには不要だと云っている」
「早いうちに、生まれた子どもは南へ出してやる」

補佐役が云う。

「お前との子は、白い髪の男かもしれん」

巧は首を振る。云う。

「魔法を使う西一族でも考えているのか」
「巧」

「俺には不要だ」

巧は云う。

「沢子だか、誰だか面倒を見るだろう」

「お前は、あの女の見張りも兼ねているんだぞ」
「東の女が逃げるわけがない」
「巧」
「話は終わりだ」
「おい、巧!」

巧は立ち上がり、部屋を出る。

そのまま、病院へと向かう。

部屋の前に来ると、
ちょうど、病室から高子が出てくる。

「巧」

「退院はいつだ?」
「杏子のことかしら?」

高子は診療簿を持ち直す。

「明後日には子どもも一緒に退院していいわよ」
「わかった」
「迎えに来てあげてちょうだい」



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