「水辺ノ夢」１

弓矢に槍。
無意味な事だとは分かっていたが、彼は準備をした。

「お前には無理だ
　何度も言ったがお前を連れては行けないよ」

分かっていても　もしかしたら　
という思いがあったのかもしれない。

風が吹き　水面が揺れる。

急に現実に引き戻されて彼は顔を上げた。
あたりを眺めると、そこは舟の上で、
そして大きな湖だ。

ああ　そう　釣りをしていたのだった。

ふと、そのことを思い出す。
残念ながら未だに一回も引きがない。
こんな事でも　何一つ成果が出せないのだと思い知らされる。

竿の先に巡らせていた視線を手元に向ける。　
白く痩せた自身の腕が
変わっている訳でも無いというのに。

「こんなんじゃ　とても狩りには行けないよな」

一族の中でただ一人狩りに出ることが出来ない。
それが何を意味するかは、彼自身が一番よく分かっている。

ふと　対岸に目を向けた。

遙か遠くの向こう岸には行ったことがない。
行けない距離ではないことは知っていたが
誰も行こうとしないからだ。

向こうには　彼らとは違う一族がいる。

もしかしたら

彼はわずかに期待をしてしまった。
狩りにいけるかもしれないと思っていた時のように。

もしかしたら　あそこならば
自分はうまくやれるのではないか　と。

舟が揺れて動き出す。　向こう岸へと向かって。



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