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TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」181

2017年02月14日 | 物語「水辺ノ夢」

「……圭?」

杏子が振り返らないように
圭は強く杏子を抱きしめる。

不安な表情をしているであろう自分の顔を
見られる訳にはいかない。

「なにか、あったの?」
「いや」

杏子はまだ知らない。
真都葉の怪我の本当の原因。
悟の言葉。

伝えるべきか圭は悩む。

それでも、
真都葉が帰ってくる事を喜ぶ杏子を
落ち込ませるような事はしたくない。

少なくとも今だけは。

「本当に何でもないんだ」

圭は離れて笑顔を見せる。

「それじゃあ、
 病院に戻るよ」
「……圭」
「夕食は俺の好物もあると嬉しいな」

後ろ手に扉を閉めて、
圭は自宅を離れる。

何事も無いように歩き、
家が見えなくなると道を逸れ、水辺に向かう。
船着場の近くで圭は立ち止まる。

ここから一人舟を漕ぎ、
東一族の岸辺に行ったのが
とても昔の事のように思える。

今日は天気が良く
対岸の岸辺を見ることが出来る。

杏子はあそこで暮らしていた。

あの時二人が出会わなければ
今は互いにどうしていたのだろう。

「さっきは、
 上手く笑えていたかな」

杏子の事だ、
誤魔化したとは言え、
圭の様子がおかしい事には気づいただろう。

「………」

悪い偶然が重なっただけ。

これ以上何も出来ない、と考えないようにしているが、
1つだけ、ある。
悟が言うのはそう言う事だろう。

圭が杏子を追い出した所で
西一族から出ることが出来ない
杏子に行く先は無い。


つまりは、殺せという事。


「大丈夫。
 ただの警告だ」

圭は自分に言い聞かせるように呟く。

このまま大人しく
静かに過ごしていれば
悟の考えも変わるだろう。

「だから、大丈夫、だ」

一人で抱えるには重すぎる。
でも、決して杏子には言えない。
不安にさせたく無い。

誰に相談すれば良いのだろう、と
圭は頭を抱える。



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