<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
宇宙エンタメ前哨基地





地球軌道上を周回する宇宙ステーション。
そのステーションに「パンナム」のマークを付けたスペースシャトルがゆっくりとアプローチ。 BGMはシュトラウスの「美しき青きドナウ」。
ワルツの流れる中、シャトルの室内をマジックテープの付いた靴で慎重に歩く白いスーツを着たフライトアテンダントがトレイに紙パックのジュースを入れて運んでくる。
客室ではたった一人の客がシートに座って居眠り中。
その近くではポケットから抜けだした乗客のペンが空中をゆっくりと漂っている。
そのペンをサッと手に取る客室乗務員。

「おお、なんてリアルな!」

SF映画の金字塔「2001年宇宙の旅」1シーン。
リアルで迫力満点の映画だった。
尤も、何度も見ていると眠くなってくるシーンが少なくなかったのもこの映画の別の特徴。
何度も繰り返しみているうちに美しい映像とクラシック音楽でグーグー寝てしまったことも記憶に残る名作でもある。

この映画。
リアルさが有名だけに粗探しもまたSFファンの興味を誘う。
その粗ありシーンの代表が先のシャトルの乗客がオレンジジュースを飲むところ。
飲んだジュースがストローの中を「下に戻っていく」というカットが「無重力じゃないじゃない」と指摘されている部分だ。
そんなことどうでもいいじゃないか、と思うのだが、根が真面目な映画だけに、こんな些細なことが大きな話題となるような作品だったというわけだ。

実は私には他にもう一箇所、
「ほんまかいな」
と思えるシーンがある。
そのシーンは長年の謎になっていたのだ。
問題のシーンは船長のボーマンが小型船外活動船で、殺された乗組員フランク・プールを回収して戻ってくるところの最終部分。
ディスカバリー号のコンピュータHAL9000は反乱を起こしているのでボーマン船長の乗船を拒絶。
ドックを開けようとしない。
そこでボーマン船長は非常用ドックを手動開放させ、ヘルメットを付けずに真空状態の宇宙空間へ飛び出す。
というシーンなのだ。

ボーマン船長は真空の非常用ドックに飛び込むなりエアハッチを閉め空気を入れるのだが、
「死ぬだろ、ふつう」
と私は思っていたのだ。
真空状態に放り出された人間は瞬間的に血液が沸騰し、体が膨張、爆発して死ぬ、と何かの本に書いてあったように思ったし、別の映画では宇宙服が破れて人体が膨張炸裂するシーンを見たことがあったので、このシーンに懐疑的になっていたのだった。
つまりここも粗探しシーンの対象カットではないかと思っていたのだ。

ところが事実は小説や噂より奇なり。
映画は正しかったのだ。

メアリー・ローチ著、池田真紀子訳「私を宇宙へ連れて行って-無重力生活への挑戦」(NHK出版)は、ジェミニ計画以前から国際宇宙ステーションまでの人類の無重力状態への挑戦を描いた、笑えて感動する科学ノンフィクションなのであった。
ドイツがV2号ロケットを開発して以来、人類は宇宙へ宇宙へと目指していた。
この宇宙へ目指すために、様々な試練を経験してきたわけだが、私達が知っているのはアポロ1号の火災事故、スペースシャトルの爆発など、目立った悲劇、惨劇だけ。
しかし、このような大事故に勝とも劣らない壮大なる実験が繰り返されていたことは、私は少なくとも本書を読むまではちょっとしか知らなかった。
しかも笑えるような大実験だ。

例えば、ジェミニ宇宙船の飛行士は2週間の間、カプセルに入ったまま地球の周回軌道を回り続け、その間、「風呂なし」「着替えなし」「シャワーも無し」の生活を実施。
どのような現象が人間に与えるのかという実験が実施されたことは知らなかった。
ジェミニのカプセルが地球へ帰ってきて、ハッチを開けた時の匂いは言語を絶するものがあったという。
宇宙飛行士が並の仕事ではない、という事実を示していて笑えたのであった。

また、アポロ宇宙船では度々飛行士のウ◯コが漂い出てきて船内に小さなパニックを起こしていたことも笑えたし、それがヒューストンとの更新記録にもちゃんと残っているのも凄いことだし、宇宙食を開発していたのは実験動物の餌係が担当していたことも、驚きなのであった。

で、真空への人体の放出もちゃんと実験されていて、30秒から1分程度は意識もしっかり元気だし、ましてや体が沸騰して破裂するなってことは絶対ないとのこと。
強いて言えば、舌の湿った部分がヒリヒリするのだとか。

ともかく、全編驚きの連続で宇宙旅行をすることは映画のようにスマートにはいかないことが最も面白いSF映画では想像できない真実のオンパレードなのであった。


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