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「タイムバール」少年探偵団の時代

元少年探偵団、現ダメ社長が「記憶と夢」を語ります。

いそべの力

2007年05月01日 | Weblog

宣伝広告ほど世相を反映しているものはありません。何しろ四方八方から我々を観察し、あの手この手で彷徨える子羊達を囲い込もうとします。特にテレビCMは悪質で「みんなが買うのに貴方だけ買わないんですか?!」なんて迫られれば余程の貧乏人か偏屈以外は逆らうことはできません。最近ではインターネットまで駆使して閲覧者の関心を引き、誰かに話したくなるようなカラクリが主流です。これを「バイラル・マーケッティング」と言うそうですが、要は「さくら」を使った口コミです。こんな客を舐めたやり方が長続きするとは思えませんが、一方では「許せる」売人もいます。何の関係もない通行人を一発で仕留める究極の売人「テキヤ」です。

以前のブログで、伝説の販売員「並びのイッちゃん」の話をしましたが、彼もテキヤ出身です。「フーテンの寅さん」が演じるタンカ売は見事ですが、当然の事で「渥美清」自身が上野でテキヤをしていたからです。テレビと違って、テキヤは裸一貫、口先ひとつで「売」をするプロですが、決定的な違いは「目の前の客」の心理と行動を見切る能力です。マグロ漁に例えれば大がかりな「延縄」と勘と腕が頼りの「一本釣」の差です。そんな匠の技を見たのは20年以上も前です。

場所は渋谷のデパートの地下。歩いているといい匂いが漂ってきます。「いそべ餅」です。前方に一人の中年男が餅を焼いています。ネクタイをして「実演販売員○○」の名札ですがどう見てもテキヤです。こんな場所で売ネタとしての地位が低い「いそべ」とは・・・しかも売る気配もなく黙々と餅をひっくり返しています。彼の貫禄なら「七味」が相応しいのに、と思う間もなく通りかかったおばさんにいきなり「はいっ!」と海苔で巻いた餅を渡します。虚を突かれたおばさんは反射的に餅を受け取るとその場に固まります。「販売員」は黙って手のひらで「どうぞ!」の仕草。そうして次々と餅でおばさんを釣っています。彼は餅をタダで配っているのです。男には配りません。

おばさん達が集まったところで彼は「新型皮むき器」の実演を始めます。次々と野菜の皮をむきながら「サラダ」や「つま」を造ります。その見事な盛り付けにおばさん達は深く頷きます。その後の展開は説明する必要はありません。恐らく商品は「完売」だった筈です。まず「餌」としての「いそべ餅」の凄さです。おばさんは「タダ」が好きなので差し出された餅は返しません。しかし歩きながら餅を頬張る訳にもいかず、しかも熱い餅は食べるのに時間がかかります。結果としてその場で餅を食べている間に見事な技を見せられ、「僅か」千円ちょっとで自分もその技の持ち主になる「権利」を手にします。しかも既に「餅」を食べてしまっています。買わないと「食い逃げ」になります。

その後、テレビの全国テキヤ大会での優勝者が使ったのがこの「必殺技」でした。20年以上もこの技が有効なのは、完成度の「高さ」か、おばさんの「欲望」なのか定かではありませんが、生きた「獲物」を相手に一瞬の「虚」を突く見事さは、カタカナを振り回す頭でっかちのマーケッティング屋なぞ遠く及ばず、何よりも決定的なのは「やられた」とは思わず「匠の技を買った」という爽快感です。長く続いているものには「真理」があります。


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