歌野晶午『絶望ノート』とジョン・レノン

 
歌野晶午『絶望ノート』とジョン・レノン

遠藤利明

 ビートルズというと、秋から年末にかけて目立つ存在というイメージがある。ロック・クラシック関連のリリースが、クリスマス商戦を意識してか、年後半に集中するせいもある。今年だと、ビートルズのデジタル・リマスターが9月に発売され、関連書籍もあれこれ刊行された。最近刊行された『THE DIG Special Issue ザ・ビートルズ アナログ・エディション』では、私も「村上春樹『ノルウェイの森』~疾走のテーマとしてのビートルズ」という原稿を書かせてもらった。同小説中に流れるビートルズがどんな意味を持っているか考察した内容だ(と宣伝させてもらおう)。
 また、12月8日はジョン・レノンの命日であり、日本では毎年この時期にジョン・レノン・スーパー・ライヴが開催される。それも「ビートルズ=年末」のイメージを強めている。
 一方、年末は、ミステリー小説の季節でもある。『このミステリーがすごい!』(宝島社)『ミステリが読みたい!』(早川書房)「週刊文春」でもミステリー・ベスト10のアンケート結果が発表される。年末には、その1年のミステリーを回顧するムードが一気に高まるのだ。
 というわけで私は今回、ビートルズ・ファン、特にジョンのファンに向けて一冊の国内ミステリーを紹介したい。歌野晶午の『絶望ノート』(幻冬舎)である。今年の各種ランキングでは残念ながら上位にならなかったが、ジョンのファンなら読んでおくべき内容だと思う。


歌野晶午『絶望ノート』(幻冬舎)


 プラスティック・オノ・バンド名義のバンドを率いたオノ・ヨーコ(小野洋子)が、今年11月に来日した。僕も東京国際フォーラムでのライヴを見たが、小山田圭吾、本田ユカ、細野晴臣など才人揃いのプレイヤーをバックに、ヨーコは70代半ばとは思えぬ元気さで頑張っていた。特に印象的だったのは、あのスクリーミング・ヴォイスなど相変わらずの前衛路線で弾ける母を、息子ショーン・レノンが温かく見守りながら演奏で支えていたこと。この親子は、いい関係を持続しているんだなぁ、と感じた。
 一方、『絶望ノート』の最初の章は、「ショーンの魂」と題されている。それは主人公の中2男子が、大刀川照音(たちかわしょおん)という名だからである。彼の父・豊彦はジョン・レノンと誕生日が同じなこともあり、ビートルズとジョンの熱烈なファンになった。その勢いで瑤子=ヨーコという女性と結婚し、自分の息子にもジョンの息子と同じ名をつけた。したがって、同書では以降の章もすべて、「オー・ヨーコ」、「眠れるかい?」、「あいすません」など、ジョンの曲にちなんだ題名がつけられている。
 しかし、大刀川照音は、ショーン・レノンがジョン&ヨーコの息子という立場によく適応しているのとは違っていた。彼はクラスでいじめられており、その何割かはジョン好きの父が原因となっていたからだ。
 豊彦は若い頃、ビートルズのコピーバンドで小遣い稼ぎしていたが、その音楽活動がものになることはなかった。家族ができた後は、たいした家事をするでもなく、妻にぶら下がり酒をくらうようになった。ジョンと同じく「主夫」になったと自称しながら。しかも、髪型や服装はジョンのコスプレ状態で出歩き、自分は働かぬくせに高価なギターを収集する身勝手さ。豊彦のことをネタにからかわれることの多い照音は、「ジョンも一時期酒に溺れてたよなあ」などとほざく父について日記にこう記す。
「黙れ! ジョン・レノンは毎日朝から晩まで酒を飲んでも、印税がバカバカ入ってくるじゃないか。おまえが飲んだら家計が苦しくなるだけだろうが」
 ミステリー小説としての『絶望ノート』は、照音が自分をいじめるクラスメイトへの呪詛を日記に書くと相手が次々に死んでいく――という展開をとる。彼の日記を盗み読みした親はどんな態度をとったか、事件の真相は……というのが話の肝だが、ジョンのファンならニヤリとするだろうヒネリも用意されている。
 ジョンのファンのなかには豊彦みたいに、自分の生活態度の情けなさの言い訳にジョン・レノンを使っている人もいるのではなかろうか。そんな人は『絶望ノート』を読んで自戒すればいいと思います(笑)。

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 というわけで、本ブログ初お目見えの遠藤利明さんでした。大変ご無沙汰しております。毎度原稿、どうもありがとうございます。そして今回は投稿まで! ノーギャラで申し訳ないです……。そして歌野晶午ご存じない方はこちらでどうぞ。遠藤さん、次はミステリー作家をロック・ミュージシャンに例えてみるとかどうですか? それでなくても、ひまつぶしに何かかけたらまたお送りいただければと思います。
 そんなわけで、原稿が送られてきているのを見て「そういえば一般募集してたんだ」と思い出しました。プロの方もアマチュアの方も、とりあえず書き殴ってお送りください。採用するかどうかは辻口が独断で決めます。しかもノーギャラです。ということで、送り先はこちらでーす↓。

[投稿原稿受付中:送り先]
dig@shinko-music.co.jp


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