粋雅堂藏書目録 ―Biblia-Catalogus―

劇団粋雅堂・主宰、神田川雙陽の雑記積み置き場Blogです。

…、『マンハッタンの黒船』から考える、一般意志2.0。

2010-11-28 00:15:36 | 批評・その他
<雑談:時にはじつと坐って静かに考えるように>

7ヶ月半のご無沙汰です。
最近はTwitterばかりで、このblogをひたすらに放置してしまっていて、
日に何人か訪れて下さっている方には申し訳ない限りです。

この7ヶ月の間にも、このblogを埋めるには十分な程度には色々と作らせて頂いたり、
お仕事させて頂いたりもしていたのですが、とりあえずその話は次回に回すとして。
(年内には次の更新をしたいものですが…!)

あ、それから、10月末から2005年以来使用してきたinfoseek.iswebの劇団サイトがサービス終了により
not foundになっております。
近々新しいスペースに移転する予定ですので、続報をお待ち頂ければ有り難いです。


<本題:”永世大統領” IS ALWAYS WATCHING YOU.>

今日はちょっと先述のTwitterで話題に上がった文章を投稿したいがために久々に浮上してきました。
私は昨年度の東工大の東浩紀先生の講義を(正規生として)受講していたのですが、
院のゼミ形式になった今期の講義にも、こっそり堂々と参加しておりまして、先日のゼミで発表も行ってきました。
その話題をTwitterでしたところ、そこで発表した文章(レジュメ)に興味を持って下さった方がいらっしゃったので、
発表原稿をそのままここに転載したいと思います。

(いつものこのblogの文章とはまた違った意味で)小難しい小理屈の続くだけの文章ですので、
苦手な方は読み飛ばして頂ければ、と。

一本目がゼミのレジュメ、二本目がレジュメの補遺として掲載した、
今回の発表のプロトタイプとなった今年3月に東先生の講義の課題レポートです。
実際のゼミのレジュメには、さらにここに2p、諸星大二郎『マンハッタンの黒船』のコピーが付きますが、
著作権上の問題からここでは掲載していません。
何やら適当に聞き齧りを書き散らしているだけの駄文なので、粗や矛盾、論理の破綻には目をつぶって頂ければ幸いです。

それから、名前の欄の @SUIGADOU は原文ママです(笑)
東工大の講義でTwitterのIDで発表した馬鹿は、きっと後にも先にも私だけでしょう。

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『『マンハッタンの黒船』から考える、一般意志2.0の理論的導入とファシズム』
11/24, 2010
@SUIGADOU

□前提:「20世紀民主主義の最大の病理であったファシズムを成立させないシステム作りが
    今後の社会システムの設計には必要不可欠」
    →一般意志2.0はこれまでのファシズム成立要件をうまく回避できるように思える

■主題:「なぜ一般意志2.0が成立しているように見える『マンハッタンの黒船』中で
    “永世大統領“」は独裁を行えている/成立させる事ができたのか?」

・諸星大二郎『マンハッタンの黒船』(1978年、集英社刊『失楽園』所収)
 →鎖国して100年が経った未来のアメリカに日本の黒い原子力艦が来訪するという内容の
  ディストピアSF作品
  日本の幕末期のパロディとして日米の立場を逆転させている怪作
  作中のアメリカは“永世大統領”なる人物によって独裁的に統治されている
・“永世大統領”
 →鎖国後の100年に渡りアメリカを統治しているとされる人物
  実体は“デモクラシー・マシン“を介して集積された全アメリカ国民の意志の集合体
・“デモクラシー・マシン”
 →鎖国アメリカ政府が全国民に配布し、携行する義務と権利を与えている電極付きの
  小型のデバイス

□理論的導入1:「工学的に見た場合の従来の意志決定と一般意志の違い」
・テクノロジーの限界から意志の集積精度(次元数・量子化精度・時間解像度)は
 自ずと決定される
・20世紀以前:意志の集積コストが十分に高かった
 →ある程度長期のインターバルを置かなければ次回の意志集積が行えなかった
  →数年に一度代表者を投票で決める間接民主制
 →意志の次元数が少ない、量子化の精度が低い:代表者の選択のみ
  時間解像度が低い:年単位
・現在:情報技術の進歩により意志の集積コストが劇的に小さくなった
 →意志の次元数、量子化の精度:以前とは比較にならない多量の情報を運用可能
  時間解像度:より短いスパンで意志集積が可能になった
・近未来:ライフログ的な時間・情報精度がリアルタイムに実現可能になると思われる
 →個人を形作るのに必要な全情報の集積・解析が可能に?
・工学的に見れば、一般意志は従来の意志決定よりも高頻度、多量の情報を扱う方式

□理論的導入2:「一般意志は“永世大統領”のような一個の人格を持ち得るか」
・「一般意志は特殊意志の差異の和、意志ベクトルの総和」(東)
 →すべての意志主体に十分な情報が与えられ、かつ合議によって合意を形成しないとき、
  各意志ベクトルと一般意志のベクトルの平均は外見上区別できない
  →次元数が一個の意志主体を表現するのに充分な次元数と量子化精度を持ち、
   充分に小さいタイムスパンで集積された一般意志ベクトルを構成員の数で割った
   ベクトルは一個の意志主体であるかのように振る舞う
    →このベクトルの平均はその意志決定単位における平均的な人間像を提供する
     →“永世大統領“は外見上一個の意志主体のように振る舞う

□理論的導入3:「意志集積に適当なタイムスパンとは何か」
・特殊意志の集積が時間精度が無限大(に近い精度で)可能な場合、その精度で意志決定を
 行うべきか?
 →「意志の周波数」の問題
  ・高周波な意志:瞬間~数日程度の持続期間のある意志
          情動や生理に強い影響を受ける。気分・ムード・瞬間的な好悪
          Google急上昇ワードやBuzztterなどで表面化する
  ・中周波な意志:数週間~数ヶ月程度の持続期間のある意志
          記憶や環境、社会的な空気に影響を受ける
          blogなどに現れる意志
  ・低周波な意志:数年から一生涯持続する意志(『三つ子の魂百まで』)
          人間としての身体性・性・文化・常識に影響を受ける
          普段は表面化しないが、強い価値感の揺さぶりなどによって強く顕在化
  →どの周波数に合わせて一般意志形成を行うべきか?
   →瞬間瞬間(高周波)で意志決定:
          首長や政策が極めて短いスパンで変化し社会に一貫性がなくなる
          (ランダムウォーク的変化)
          水嶋ヒロや田代まさしが総理大臣に
   →普遍性の高い意志(低周波)で意志決定:
          文化的風土的な影響を大きく受け、閉塞的、非流動的になる
          歴史主義的になり、一般意志の利点をあまり享受できない
    →人間の認知・思考、政策の実行とその結果を待つ意味でも、中周波の意志をいかに
     抽出するかが一般意志の適切なタイムスパン決定に必須

□理論的導入4:「一般意志下におけるファシズムとは何か」
・一般意志の形成は制御工学的にはフィードバック制御に簡単化できる
 →最も単純な「入力(初期状態の特殊意志)」⇨「集積」⇨「出力(一般意志)」という流れ
  に入力に前回の出力結果が還流するというモデル
  →一般意志によって環境=社会状況が変化することで必然的に個々の特殊意志は変化する
・制御工学におけるシステムエラーは発振(結果が収束しない)、(ex.マイクのハウリング)
 →社会システムに当てはめれば、特定の言説・ムード・権力の社会内における強度が時間的
  に減衰せず、持続もしくはむしろ強化される状況であること
  →特定の権力主体において発振が起こる=ファシズム、と仮定
・制御工学においては系の周波数特定を計算し、発振の起こらないシステムを設計する
 →一般意志に還元すれば、「安定的に意志を集積し表現するための適当なタイムスパン」を
  発見した上で、いかにイコライジングするかということ

■結論:「いかに一般意志たる“永世大統領“は自分自身であるアメリカを鎖国し独裁したか」
・「作中における鎖国→国粋主義の発露」、と捉えれば極低周波の意志の発露とも見られる
・国内輿論が瞬間沸騰的(極高周波)に高まった場合でも、同様のことは起こりうる
・人間が思考する動物である以上、ある程度の時間をおいて思考する(『頭を冷やす』)環境に
 おいては極端には走りにくいと考えられる(高低周波な思考の爆発に抑制がかかる)
・『マンハッタンの黒船』における一般意志の形成はシステム設計に不備を抱えていたため、
 そのエラーとして独裁を生み、その状況が持続したと考えられる
 
⇒「一般意志2.0はその設計によっては依然ファシズムを生む危険性を内包しているが、
  他方、従来の社会システムの設計と異なり、システム設計の段階で工学的に検討が
  容易である」

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『『マンハッタンの黒船』から考える、
一般意志2.0におけるファシズムの形成と意志集積の関係』
3/18, 2010
@SUIGADOU

 一般意志2.0に基づく民主主義2.0に限らず、民主主義の新たな手法での実現に関する言説には、
常に「それはファシズム生まないのか?」という疑問に晒される。20世紀を経験した現代の世界で
は、民主主義に内在するファシズムへの危険性に対し、アレルギーとも言うべき過剰な拒否反応が
存在し、その疑問からの攻撃に耐え、危険性への具体的な解決策への道筋を示しうる手法のみが、
こわごわとこれまでの言説群に取り込まれて、消極的に受容されてゆく。殊に一般意志2.0は情報技
術のタームでの集合知との親和性をその根幹で主張するが、集合知の概念は情報技術への社会への
浸透の過程で現代人の新しいライフスタイルを形成する一方、googleやAmazonが保有する莫大な
情報資産とインフラを指し「情報ファシズム」の主たる概念であると非難する層が存在するため、
従来の民主主義に関する新規な言説と比してもファシズム的なシステムエラーに対する概念ベース
での対策を明確に主張する必要がある。ファシズムの発生要件すべてについての言及はこのレポー
トの範囲を超えるため、ここでは情報システムの技術的な側面に関して、一般意志抽出の間隔とフ
ァシズムの回避との関係について述べていきたい。

 ファシズムの定義は様々あるが、ここでは議論を簡単にするために、「民主的手段で合法的に選
ばれた個人/小集団が選出元の共同体において合法的に強大な権利を行使しうる状態、かつ行使す
る状況」と定義する。20世紀初頭から中葉にかけての民主主義がファシズムに対して無力だった理
由は、「民衆の一時の熱狂」が「強権的な支配者」を生み、「支配者が支持に基づき」「自身の権
利をより強固に」し、「その状態が持続した」ことによる。この現象をタイミングに注目して眺め
れば、「民衆の一時の熱狂」が、「強権的な支配者」をより強めるほどの期間にわたり「持続した」
ことに原因がある。つまり、工学的に換言すれば、一時的に付与された外乱の影響が、実際の影響の
持続時間よりも十分に長く残り、次の意志決定タイミングまで変更不可能であったことが問題の核心
となる。講義中の解説に表現を求めれば、20世紀以前の技術水準では意志の集積コストが十分に高か
ったため、ある程度長期のインターバルを置かなければ次回の意志集積が行えなかったため、という
ことである。この前提に基づいて考えれば、現在の技術水準で可能な最小のインターバルで意志集積
を行えば、「民衆の一時の熱狂」という外乱の影響を最小化し、強権者が「自身の権利をより強固に」
する期間が短くすることで脅威が減少することになるが、果たしてその仮定は正しいのであろうか。

 一般意志は討議によらない(合意形成しない)意志の総和によって抽出される。この行為自体が意志
の集積にヒトの介入を必要とした20世紀までは困難であったが、現代においては情報技術の革新によっ
て以前ほどの困難さはない。このことで、例えばエレクトロニクスによって自動的に個々人の状態を取
得し、そのデータを元にクラウド・コンピューティングなどを用いて一般意志を自動的に抽出するシス
テムなどを考えることができるが、その概念を先取りした興味深い作品が存在する。漫画家の諸星大二
郎による短編『マンハッタンの黒船』(1978年)では、1980年代にアメリカが鎖国を敢行した100年
後の世界という設定に基づくパラレル・ワールド作品であるが、この作品におけるアメリカ国民は「デ
モクラシーマシン」と通称される小型のデバイスを携行する義務と権利を有している。作中のアメリカ
国民たちは、小型の四角い箱から2本のケーブルが伸び、装着者の首筋の電極に繋がっているその装置
で、一人一人がホワイトハウスに設置されたメインコンピュータに直接それぞれの意志を送り、それら
の集積によって、仮想の最高意志決定権者である「永世大統領」が政策を決定するという政治形態をと
っている。設定における意志集積の間隔は不明ではあるが、生理/神経センシングと通信機構を備えて
いると思われる「デモクラシーマシン」であれば、かなりの短さで意志を集積できるものと推測される
。この作品における世界観では「永世大統領」の統治下は明治維新直前の日本の様相に酷似しており、
「永世大統領」が独裁者でるかのような、所謂ディストピア作品に仕上がっている。その理由について
作中で具体的には語られないが、「鎖国」という語から推測するに、「デモクラシーマシン」によって
国粋主義的、排他的な意志が集積された結果起こったと考えることができる。先程の仮定に基づけば、
十分に短い間隔で意志を集積する環境下ではファシズムは弱体化されるはずであるが、作中世界ではそ
の環境そのものが独裁の説明として用いられている。この不一致は仮定の矛盾を意味するのであろうか。
 一般意志を全構成員の意志のベクトル和であると考えれば、十分な情報が与えられ、かつ合議によっ
て合意を形成しない、という前提を十分に満たす、条件下の各意志ベクトルと一般意志のベクトルの平
均(大きさを構成員の数で割った一般意志ベクトル)は外見上区別できない。つまり、全構成員が一般
意志ベクトルの平均となるような意志を持つ均質な状況は理論上想定でき、そのことから一般意志ベク
トルの大きさを構成員で割ったベクトルはあたかも一人の意志主体であるかのように振る舞う。この仮
想の意志主体は意志集積の間隔(量子化の精度)と取得する意志の種別数(ベクトルの次元)に依存す
る平均的な構成員像であり、精度と次元が無限大であるような意志集積(ライフログと同義になる)に
おいてはその意志決定単位における平均的な人間像を提供する。すなわち、十分に高い精度と取得する
情報の種類がある場合、その意志決定単位における個人的な信条や集団の(非合議的な)ムードまでが
、ダイレクトに一般意志に反映されてしまうため、その集団が満遍なくある種の思想を共有している場
合は、それがそのまま詳細なディティールとして意志決定に影響を与えてしまう。先述の『マンハッタ
ンの黒船』における例であれば、作品世界におけるアメリカでは非常に強固な国粋・排他主義が平均的
にも非常に強く分布していた結果であると考えられる。ただしもちろん、意志決定主体のすべての構成
員が、(特に国家ほどの規模において)それほどまでにムラなくある思想を共有していることは考えに
くく、一般意志の原理に基づいて考えれば、個々の多様な価値観が対向のベクトルとして相殺されるた
め、実際に「デモクラシーマシン」のような装置を導入し、非常に短い時間幅で意志集積・決定を行っ
たところで、意志決定は株価のような一見法則性のないランダム・ウォーク曲線を描くものと推測され
る。このような装置は例えばIC乗車券や遠隔の体調管理システム程度の時間感覚・精度であれば現状で
も実現可能であり、今後、情報工学や脳神経科学の知見がより深まれば、より詳細な意志集積が可能に
なることが推測される。

 民主主義2.0の発想に沿って実際のシステムを設計する上で、最終的な政策の決定のための意志集積の
タイムスパンは重要なパラメータであることはこれまで述べてきた通りである。ここまでの説明では、
比較的長い間隔と微小時間間隔での意志集積の双方でファシズムが起こり得る可能性を示してきた。ま
た、技術的な側面において非常に短い時間感覚での意志集積が可能であることを示唆してきたが、それ
ではファシズムの発生のリスクを最小にしつつ、一般意志に最大限即した政策決定を許容するような意
志集積の間隔とはどのように決定すれば良いのであろうか。その問いへの一つの回答として、筆者はこ
こで自己組織化に関わる理論の一つであるシナジェティクスの概念を導入した手法を提案する。シナジ
ェティクスはヘルマン・ハーケンらによって提唱された理論であり、多要素の非線形動的システムにお
ける自己組織化一般に適用されている。シナジェティクス理論の中でも興味深いものに、スレービング
原理と呼ばれるものがあり、端的に説明すれば、「多変数系において、収束の早い変数群は収束の遅い
変数群に隷属する」とする原理であり、より早く定常状態に達する変数は、より長いタイムスパンで変
化する変数が存在する場合、無視できる場合が存在する、と説明される。この原理は社会システムや生
物学など、極めて多い変数をもつ系の挙動を推測する場合によく用いられており、一般意志の集積とい
う、超多変数系において有効な手段だと考えられる。先述の「デモクラシーマシン」のような意志・神
経活動の取得機構を導入した上で、スレービング原理に基づいたパラメータのみを取得すれば、瞬間的
な外乱に強く、また生理的・ランダムウォーク的なノイズ要素を排除した、「ファシズムに強い」一般
意志の形成が可能になるのではないだろうか。

 以上の議論を簡単にまとめるならば、仮に無制限な精度、時間間隔で意志の集積がなされ、形成され
た一般意志に即して政策が決定できるようになったとしても、ある一定のタイムスパンを置くべきであ
る、ということになるだろう。一般意志が「意志」である限り、決定されるべき政策の現在の状況の把
握、すなわち環境情報の把握が必要であることに変わりはない。技術の進歩は個人の意志の集積をライ
フログそのものの精度で行うことすら可能にするだろうが、現在ですら人間の環境への認識は情報技術
よりも十分遅い。その身体的条件下で「人間の」社会を形成する手法としてエレクトロニクスの助けを
借りた一般意志の形成を設計するのであれば、「生理の変化よりも遅く、郵便よりは早い」意志集積の
適当な間隔を、諸学問が共同で模索してゆく必要があるだろう。

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