本書は「人間社会にとって交通とはなにか」という問題のもと、政治社会・科学技術の多数の専門家が、学際的アプローチを行い出来上がった労作である。副題「歴史に学び、未来を語る」が示すように、交通の歴史に関して、月並みでない深い掘り下げを行なう。これが、本書の特色である。道路、馬車、鉄道、海運、自動車といった様々なキーワードが学際的に飛び交う。そんな本書の内容を包括的に限られた紙幅で紹介することはできない。そこで、損害保険に関連する2つの章を取り上げてみることにする。東京大学教授安達裕之氏による第3章「和船の発達と日本文化」と、交通史研究家で文学博士の齋藤俊彦しによる第4章「車の文化史」である。
第3章では古代から近世に至る和船の発達を追う。本書113ページにある挿図「江戸後期の海運網」を見ると、鎖国により海外との交通が殆ど途絶えた代わりに、江戸時代には強力な統一政権のもと、国内水運が素晴らしい発展を遂げたことが分かる。水運の発達するうえで、重要名役割を果たした幕府の法令があった。寛永13年(1636年)公布の海難救助と海難処理に関する法令、寛永15年(1638年)に改定された武家諸法度の大船禁止条項である。寛永13年令は3か条からなる。遭難船の救助を義務付け、遭難船の荷物の取りあげを命じ報酬を規定し、打荷をした遭難船は着いた港の役人が取り調べ、残り荷を記した証文を出し、不正があれば厳罰に処すと定められた。天正16年(1588年)豊臣政権下で海賊停止令は、既に発令されているが、寛永13年は偽装海難を禁じる全国令であり、幕末に至るまで幕府の基本法として受け継がれた。水運が盛んになると、付随して様々な犯罪行為が出てくる。これを防止するために法律が制定された。すると、その抜け道を考えて新たな犯罪行為がなされる。そのような実態が簡潔に解説されていて興味深い。
第4章は、『くるまたちの社会史』(1997年、中公新書)の著者が語る人力車、自転車、乗合馬車、馬車鉄道といった“くるま”に関する薀蓄。特にお得意分野の人力車には力が入る。162ページからは、自動車にテーマが移る。日本に最初に自動車が来たのは1898年(明治31年)。フランス人テブネが持ち込んだパナール社(フランス)製の石油自動車であった。この車が、銀座を走った光景はフランス人の画家ビゴーにより描かれている。当時の「東京朝日新聞」、「時事新報」、「報知新聞」、「ジャパンタイムズ」等でも報じられた。このことについては、齋藤俊彦氏の前掲書『くるまたちの社会史』でも詳しく説明され、また他の文献でも引用・言及されている。にもかかわらず、自動車保険の解説書等で、自動車の歴史に触れる際、“大昔の定説”を孫引きして、別なことを書いて平気な著者がいる。恥ずかしいことだ。
(2006年、技報堂出版、2200円+税)
第3章では古代から近世に至る和船の発達を追う。本書113ページにある挿図「江戸後期の海運網」を見ると、鎖国により海外との交通が殆ど途絶えた代わりに、江戸時代には強力な統一政権のもと、国内水運が素晴らしい発展を遂げたことが分かる。水運の発達するうえで、重要名役割を果たした幕府の法令があった。寛永13年(1636年)公布の海難救助と海難処理に関する法令、寛永15年(1638年)に改定された武家諸法度の大船禁止条項である。寛永13年令は3か条からなる。遭難船の救助を義務付け、遭難船の荷物の取りあげを命じ報酬を規定し、打荷をした遭難船は着いた港の役人が取り調べ、残り荷を記した証文を出し、不正があれば厳罰に処すと定められた。天正16年(1588年)豊臣政権下で海賊停止令は、既に発令されているが、寛永13年は偽装海難を禁じる全国令であり、幕末に至るまで幕府の基本法として受け継がれた。水運が盛んになると、付随して様々な犯罪行為が出てくる。これを防止するために法律が制定された。すると、その抜け道を考えて新たな犯罪行為がなされる。そのような実態が簡潔に解説されていて興味深い。
第4章は、『くるまたちの社会史』(1997年、中公新書)の著者が語る人力車、自転車、乗合馬車、馬車鉄道といった“くるま”に関する薀蓄。特にお得意分野の人力車には力が入る。162ページからは、自動車にテーマが移る。日本に最初に自動車が来たのは1898年(明治31年)。フランス人テブネが持ち込んだパナール社(フランス)製の石油自動車であった。この車が、銀座を走った光景はフランス人の画家ビゴーにより描かれている。当時の「東京朝日新聞」、「時事新報」、「報知新聞」、「ジャパンタイムズ」等でも報じられた。このことについては、齋藤俊彦氏の前掲書『くるまたちの社会史』でも詳しく説明され、また他の文献でも引用・言及されている。にもかかわらず、自動車保険の解説書等で、自動車の歴史に触れる際、“大昔の定説”を孫引きして、別なことを書いて平気な著者がいる。恥ずかしいことだ。
(2006年、技報堂出版、2200円+税)