ポン太よかライフ

得した気分、首都圏見て回りの旅、美術館散歩

木村泰司先生 祝・新書刊行!西洋美術史講座終了ありがとうございました。

2010-12-24 16:21:56 | ブックレビュー
西洋美術史の木村泰司先生が、新書を出されました。
興味深いテーマが並んでいてなかなか面白いです。
お正月に、ゆっくり読書を楽しもうと思います。



先生は、神楽坂で月一回古代から現代までの西洋美術史の流れを一年サイクルで講演されています。
「感性で絵を見るのではなく、歴史・政治・社会背景・思想などを理解した上で、理性的に美術を読む」というスタイル。何が面白いかというと、群盲象をなでるようだった断片的な絵の知識が、歴史の中にきちんと位置づけられていく快感でしょう。それと、当時の人にとってその絵の面白さはどこにあったのかが簡潔にわかります。

若いころ、大学の入学式で総長に、「学問は体系的に学ばねばならない!」という
マックスウェーバーの言葉を引用した薫陶を受けました。
全体の体系が見えるまでになるには随分と勉強しなくてはならないなあと緊張したことを思い出します。
美術も、本来体系的にしっかり基礎を学ぶことから始めれば個々の理解もより深まることでしょう。
趣味で美術館に通うことから、断片的な知識は少しずつ増えてきたように思いますが、
欧米(セレブの一族?)の教養として確立した西洋美術史という学問を本場の大学で学ばれたことを、惜しげもなく教えていただける講座はここしかないのではないかと思います。
この講座のエッセンスをまとめたお得な本も出版されています。
百聞は一見に如かずとばかり、解説に必要な図版がふんだんに掲載されています。

私は書店でこの本に巡り合えたことから、講座の受講につながりいい勉強になったと思います。

また、来年も新しい話題を交えて講演される予定です。
木村先生のH.P.

さて、今回は今年最後の講演で前期印象派、後期印象派がテーマでした。
今年はマネ展が三菱一号館美術館で開かれ、ドガ展が話題になり、ゴッホ展、モネ...と
印象派は相変わらず日本人に大人気でありました。
紹介すべき作家もたくさんあり、お話も超高速で進みます。
ドガの綿花取引所の人々(ニューオリンズ)では、現代性を切り取るのがうまい彼のシニカルな視点、「たくさんの人が視線を合わせず淡々と仕事をこなす様子は、今ならパソコンの並ぶオフィスでただ黙々と仕事をする人たち」と解説され、この絵の何が当時の人に面白いと思わせたがうかがえました。


実は、この日の午前中、私は現代美術館transformationオランダのアート&デザイン新・言語を見て、そのあまりに思い思いの作品群に、文化祭の様な不統一な高揚を感じ当惑していました。

木村先生の後期印象派のゴーギャンの説明の中での一言、「現代美術はパーソナルなものになり、難しくなっていきました。」に大きくうなずいたものです。

1年間のご講義ありがとうございました
メリークリスマス

今年の紅葉は素晴らしい!

2010-12-10 10:24:55 | 日記
雲ひとつない青空に、日々刻々と変化して、綾なす錦のごとき紅葉の照り葉が映えます。
「今日は寒い、今日は寒い」と天気予報で伝えられるものの、寒いのは早朝のみで、
日が昇れば風もなく、うららかな小春日和に誘われて、にわかカメラマンの多いこと。

ここ東京でも至るところ木々の紅葉が美しく、日本の秋の風情を満喫しています。
11月23日


12月5日
      

12月6日
     
   
12月9日
  


  
12月10日
  

今度の週末は、地面に散り積もる紅葉が、緑から黄色、オレンジ、深紅に
至る色彩のグラデーションを複雑にからませ、光の絨毯の様でありましょう。
蒼く澄み渡った高い空に向かって、輝く色彩をさくさくと踏みしめながらのぼる坂道は、
いつもと違う世界のように感じるひと時となることでしょう。

ほんとうにびっくり!幕末・明治の超絶技巧 泉屋博古館分館

2010-12-08 12:47:37 | 博物館、美術館行ってきました
    

紅葉がきれいな泉屋(せんおく)博古館分館に行ってきました。
ここ六本木一丁目泉ガーデン界隈は、緑が多い静かな所で、再開発して坂の多い地形に
近代的で斬新なフォルムのビルが立っています。

今日は何と出展者の孫にあたられる方にお招きいただいて、
幕末・明治の超絶技巧と題された数多くの金工に感嘆する一日となりました。

陶芸ほどにはなじみのない金属工芸ですが、まず、ホールにずらりと並んだ鈴木長吉十二の鷹の表情の豊かさや、
色彩の多様さに、圧倒されました。
とても金属とは思えない表現ができることにびっくりでした。

館内は、おもに村田製作所の創業者の息子さんでいらっしゃる村田理如館長のコレクション清水三年坂美術館収蔵の作品で、
住友コレクションからなる博古館ともども、京都が拠点というのも新鮮でした。企業の力で日本の重要な作品がコレクションされていることにも、文化への大きな貢献と感じ、ありがたく思いました。

日本では、今まであまり知られていませんが、幕末・明治の工芸品は海外では大変高い評価を受けています。今回清水三年坂美術館収蔵の七宝、金工、蒔絵、京薩摩のなかから金工の名作がずらりと東京で紹介され、
来館者の熱い視線に、日本でも新たなブームになりそうな予感がしました。

長らく刀剣を装飾して発展を遂げてきた、日本の洗練された金工の技は、明治の廃刀令ともに様々な工芸品への転換に向かいました。
型から抜け出した自由な写実表現や物語を感じさせる豊かな表情が、時を超えてみずみずしい感動を与える
作品となって数多く残されました。

正阿弥勝義の群鶏図香炉もその一つ。
赤い鶏冠に漆黒の尾羽、ふっくらとした鶏の重なる羽毛の一枚一枚が
立体的に自然な形に波打っていて巧みです。
ドーム型の火屋一面に高肉彫りされた小菊も、薄い花弁一枚一枚の重なりが彫り表されるほど
精緻な仕事でありながら、笑いかける様な花々のおおらかさを感じさせ、
冷たさや、硬いところがありません。技術の余裕が神業というほかありません。

火屋に金の丸彫りで蟷螂の摘みを施した香炉も蟷螂の表情が何とも面白く粋なセンスに、
見飽きることがありません。

香川勝廣の菊花図花瓶もシャープな片切彫りで、肉薄でありながら見事な立体表現で、
白く高貴な大輪の菊を端正に表し、堂々とした格の高い花瓶に仕上げてすがすがしい。

手をかけ時間をかけた分だけ、見所深く鑑賞でき一点一点楽しめました。

日本の美術品は浮世絵が印象派に影響を与えたことが有名ですが、金工デザインが、
アールヌーボーに影響を与えたということも今回初めて知ることができ驚きました。
正阿弥勝義の鯉鮟鱇対花瓶や、大島如雲の鯉波置物の流麗な曲線を見ると納得がいきました。
まだご覧になっていない方は、12日までの開催ですので、どうぞお見逃しなく!



三井記念

2010-12-07 13:43:04 | 博物館、美術館行ってきました
      
萬誌(ばんし)は、円山応挙と親交のあった三井寺円満院門主の祐常の日常雑事の記録。
縦7~8㎝、横20㎝ほど、厚さは1㎝あるかなしかといった20冊の小誌で、
透けるような薄紙に細字でびっしりと書かれた中に、応挙の語った芸術論が残されています。
今でいうならデッサンの極意でしょうか、三遠の法という言葉で、モチーフを三次元的に把握する具体的な方法を説いています。

三遠の法とは、平遠、深遠、高遠のことである。
人物、花鳥、山水、何を描く場合も三遠を心しなければ絵は出来あがらない。
手足などを描くに際して、三遠をうまく把握できないときには、鏡に写して描くのがよい。


秘聞録には、大画面に対する考え方が記されています。
遠見の絵について、近くで見ると筆ばなれなどがあるのだが、
間を置いてみると真の如く見える。
近見の絵は、細かな部分も真に迫る体裁で筆遣いや彩色も意識せねばならない
掛け軸、屏風、襖絵などは絵画と間をとって鑑賞したときの効果があるように
描かねばならない


三井記念美術館円山応挙ー空間の創造では、初期の眼鏡絵から松に孔雀図襖や、雪松図屏風まで応挙の奥行きのある立体的な空間表現が満喫できました。

雨竹風竹図屏風などを見ると、右の絵が画面の奥に向かい、左の絵が画面の手前に向かって描かれ、その中央が空いているように描かれ、立体的に見えるよう工夫した迫央構図技法がよくわかりました。

心安らぐ天平の至宝、東大寺大仏展

2010-12-01 06:11:17 | 博物館、美術館行ってきました

       
東京国立博物館の、東大寺大仏展に行ってきました。正面玄関のユリノキの紅葉も素晴らしく、庭園開放もしていました。本展に関しては、
流石に本物の大仏の出展はむりなのでバーチャル映像による解説が多く、本物を見ることができない分熱狂的な混雑からは解放されゆったりと楽しむことができました。
     
正倉院御物は、聖武天皇の遺愛の品々を光明皇后が東大寺に奉納したのが始まりです。
近日大仏のひざ下から見つかり、正倉院御物との見解が出て話題の鎮壇具の太刀の情報や、
類似した金堂鎮壇具の展示、国宝の八角灯籠の展示など見所がありましたが、
印象に残ったのはやはり普段見ることのできない角度や距離で大仏と対峙できる映像によるバーチャル体験でした。
冒頭、音楽とともに『華厳経』の世界観を描いた蓮弁の美しい線刻
の拡大画面が映し出されて圧巻でした。
また、奈良時代に創建された大仏殿の外観と当時の夜空を再現するシーンでは、人々の祈りが伝わり感動を覚えました。

盧舎那仏(るしゃなぶつ)は、サンスクリット語で「遍(あまね)く照らす」という意味です。
宇宙そのものである大仏の教えが広まることを願って光背で表し、
蓮をかたどった台座の花弁の一枚一枚に26の平行線で表された無数の世界を線刻し、その中心で釈迦如来が教えを説く様子を表しています。
つまり、無限の世界を照らしすべての生き物を慈しみ、育む「ほとけ」なのです。
奈良時代、人々は、戦禍に荒れ、疫病に苦しむ日々でした。
聖武天皇、光明皇后は仏像造営によって感謝と思いやりの心を広め、命のつながりを大切にし
神々を敬い皆とともに平和な国造りをしたいと祈りました。展示や映像から、そのありがたい御心がひしひしと伝わってきます。

正倉院宝物の中には大量の薬が含まれています。光明皇后は、病気に苦しむ人々を救うため施薬院(せやくいん)を設け、
多くの薬を集めました。ありがたいことに光明皇后のご意志で、大仏に奉納された薬もしばしば治療のために使われ当初の目録より重量が減っているそうです。
他国においては類を見ない為政者による宝物の扱いではないでしょうか。

ミュージアムの思想新装版

ミュージアムの思想新装版

価格:2,940円(税込、送料別)

先日、松宮秀治のミュージアムの思想という本を興味深く読みました。
ミュージアムの定義は、日本の美術館にも博物館にも収まりきれないものだとあり、目から鱗の思いがしました。
そもそもが帝国主義の産物なので、外国のミュージアムを訪れると、暴力的、支配的なおごりを感じます。略奪された墳墓の遺品について、
エジプトなどから返還要請が出ているのも当然でしょう。先住民保護区もミュージアムだそうです。
根津美術館や、東京国立博物館の庭にある朝鮮の道祖神にさえも所有に至る歴史的背景を考えると、心が痛みます。

その点日本古来の仏像の展示は心が安らぎます。
見つめているだけでアタラクシアの境地に至るような気がします!
政教分離した日本では、その存在が一貫して尊いゆえでしょう。
多くの人々の祈りが集まって造りだされ、人々を救済することで尊ばれ、
大切にされたがゆえに今日までお姿を見ることができると思うと安心してありがたくご尊顔を拝すことができます。
ここ数年の仏像ブームの魅力は、そんなところにあるのかもしれませんね。