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リアステア4

       出典は根本健著『パーフェクトライディングマニュアル』(出版1996年 39頁)

前回まで3回にわたってお話してきたリアステア、私は公道でオンロードマシンのコーナリングを楽しむには最適の方法だと思うのですが、最近はライテク本の中でもあまり「リアステア」という単語を見かけなくなりました。

それはたぶん、ライテクを語るときに対象とするのが、その時代のスポーツマシンを対象とすることが多いからだと思います。
最近のライテク、特にコーナリングを楽しむバイクとしては、「SS」と略されてかかれることの多いスーパースポーツマシンたち、ホンダCBR、ヤマハYZR、スズキGSXR、カワサキZXRなどの名を冠した600ccまたは1000ccのマシン。
サーキットに持ち込めばそのままレースに使えそうな、非常に運動能力の高いスーパースプリンター達です。

もう去年のことになってしまいましたが、マスツーリングに出かけて、一緒に行った方のCBR600RRをお借りして、ほぼ交通量のない峠を飛ばしてみたのですが、その性能の高さに驚いたことがあります。

比較対象が95年型のGPZ1100ですから違いを感じるにも極端に感じたのでしょうが、まずは限界がとてつもなく高い!ということ。
車重の軽さもありますが、まずは減速性能が高い。
フロントをかけるだけでリヤも含めた車体全体が沈み込むように接地感を高めて減速していきます。
その減速がまた、GPZに比べると実に、自在。減速度の高さも違いますが(ホントによく止まる)、そのコントロールの幅が全く違いました。まるで高いオーディオの重い大きなボリュームダイヤルを回して音量をコントロールしているかのように、レバーの引き方で減速度の微妙な調整が可能。しかも、シャシーが音を上げることもなく、くうーっと減速していくのです。

そして旋回能力の高さ、たとえばGPZで60キロで旋回するようなカーブでも、80とか90でも旋回可能で、しかもその時点ではフルバンクしてないのです。
ちょっとした中速コーナーでは、簡単に3桁の旋回速度になってしまい、そこからの全開立ち上がり加速では、たちまち国内仕様ならリミッターに当たるような速度まで加速してしまいます。

なんだこりゃ!?

私は、驚きながらも、困惑していました。私には速すぎる。
バイクはまだすまし顔です。全然限界以下です。
ためしに、GPZでならちょっと突っ込みすぎだという速度からフルバンクに持ち込もうとしたところ、曲がりすぎてイン側に突っ込みそうになってしまいました。

なのに全然怖くない。扱いやすいのです。
さらにペースアップ。
するとさらによく曲がる。切れ味が徐々に増し、前後タイヤの横Gを感じるほどに攻めても、余裕の表情で曲がっていきます。脱出速度もさらに上がます。

高性能、上質、マナーよく、ライダーを急かさず、しかし、本領は私の腕では発揮できないまま。
それでも、かなりの速度で私はワインディングを駆けていました。

その日はそれで友人にCBRは返し、後はGPZで走ったのですが、一日、CBRでの感触が消えませんでした。

さて、そのCBR600RRの走りですが、ホールベースが短く、スイングアームが長く、重いものはエンジン回りに集中させて遠くに重いものを置かないようにし、最新のスポーツラジアルタイヤを履き、よく動く上質なサスペンションと軽量なホイールを履いていました。

そのコーナリングは、重心が前にあり、ロール軸も低く、マスが集中し、ハンドリングは両輪できれいにバランスして旋回していき、前後のタイヤで内輪差がつきにくいハンドリングです。



写真は和歌山利宏氏(出典「バイカーズステーション」07年9月号28頁)ですが、コーナー中間のトラクション旋回に入っても両輪のサスがきれいに沈み、後輪支配度は高めつつも前輪荷重もしっかり残り、後輪を支点にするというより、車体の重心位置を支点に回転していく感じの旋回がイメージできると思います。

ライダーの着座位置が前になり、重心も前よりでスイングアームが長いバイクの場合、リアステアでのリアを支点とした回転(ヨー回転)は、感じにくくなります。
むしろ、両輪がバランスしてフロントタイヤとリアタイヤが同じ軌跡を通る感じに近づきます。


出典は根本健著『パーフェクトライディングマニュアル』(出版1996年 39頁)

こちらはドカのモンスターでリアステア旋回する根本健氏。
クランク軸が比較的後輪よりにあり、スリムな車体のドカでは、リアステアはまさにどんぴしゃの旋回法といえます。

最近のMOTOGPのレースシーンを見ても、ブレーキングからの倒し込みで、荷重の抜けたリヤを外側に振り出すようにスライドさせながら車体を倒しこんでいくシーンを見かけますし、リーンしてすぐにアクセルを開けてトラクション旋回に入るのがリアステア旋回のパターンなのですが、最近では、リーンからクリッピングまではアクセルオフのままフロント荷重の状態で旋回していったり、GPのシーンでは、リーン後もクリッピングまではFブレーキを解放せず、Fタイヤのグリップぎりぎりを使いながら減速しつつ回転半径を小さくしていく乗り方をよく見かけます。

これは、ファーストイン、スロークリップ、ファーストアウトととでも呼べる走行パターンで、このところ飛躍的に性能を伸ばしているタイヤの技術を前提とし、もてるグリップ力をすべて有効に使って最速のライディングを求める結果として、必然的な流れといえます。
特にレースではストレートエンドの突っ込みで相手の前に出ることが多いので、速いスピードをキープしつつイン側に突っ込み、そこからブレーキングスライドを駆使してでもラインをイン側に寄せて旋回していく戦術が要求されるので、旋回初期での前乗り、フロント支配状態での減速旋回は重視される項目となりました。

もう一つ、オフロードバイクの乗り方では、ライダーはコーナリング時、シートの前に寄り、内側の足をFフォークに沿わせるかのように前に出し、フロントにしっかり荷重をかけてグリップさせつつバイクを倒し込み、荷重の抜けたリヤに駆動力をかけてスライドさせ、そのスライドをコントロールしながらコーナーを抜けていきます。
これはダートトラックなどでも常に用いられる乗り方です。
前に乗り、リヤをスライドさせてフロントタイヤよりもリヤタイヤの軌跡の方が外側を回っていく、カウンター状態、オーバーステアで回るこの旋回も、リアステアとは違いますが、2輪で曲がっていく方法の一つの標準的な方法とも呼べるものです。

述べてきたように、最先端のレースシーンでは、旋回初期ではフロント荷重とし、旋回も両輪荷重を生かした限界値の高いものにしていますし、オフのコーナリングでは、むしろスライドを前提とした考え方の方が現実的です。

ある意味、リアステアの旋回はコーナー進入の速度を高めず、コーナーに入ったら開け開けで回り、しかもスライドを前提としない、完全グリップ走行を前提とした旋回テクニックともいえるものです。

しかし、私の考えでは、
初めての峠道を走ったり、また、通い慣れていてもカーブの先で何が起こっているかわからない状態のブラインドコーナーの多い公道でのライディングでは、コーナーの奥までブレーキングを残さねばならないほど、進入速度を上げるべきではなく、
コーナー手前の直線区間で何があっても対応できるほどに速度を落としておき、旋回に入ってから、安全を確認しつつ速度と旋回力を上げていって視界が開けるとともに脱出加速を愉しむという、リアステア主体の旋回の方が安全性に優れ、楽しみを満たしてくれると思います。


(出典は『ライダースクラブ№103』1987年1月号、26頁写真 一部分)

一方で、根本健と片山敬済がヨーロッパのアルプスの1車線の綴れ折の道を、片山XL600(単機筒オフバイク)、根本VFR750Fで走ったとき、フルバンク、フルトラクションで追いかける根本は、片山のオンロードでのオフ乗り、つまりブレーキングスライドや、前後に荷重を大きく移動させつつ、タイヤがグリップしようがしまいが、自由にコントロールしておおらかに走っていく走法に、全くついていけなかったことも添えておかねばならないでしょう。(『ライダースクラブ№103』特集記事より。)

速さと豪快さのオフバイクライディングを愉しむか、オンロードマシンでのグリップ走行を前提とした繊細なリアステアでの旋回を愉しむか、
結局のところは、ライダー一人ひとりの選択に任せられているといったところでしょう。

今のところ、私は林道走行率が比較的高いオンロードライダーだと思いますが、ロードでの豪快さや絶対的速さはでなく、コーナリングの「華麗さ」に魅かれるので、リアステアを愉しむグリップ走行を選択しています。
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コメント
 
 
 
Unknown (義太夫)
2008-10-27 20:44:26
オフロードレーサーに初めて乗った時は、完全なリーンアウトの乗り方で、アクセルを開けてリアを流した方が曲りやすい!
こんな乗り方が存在するんだ!とオンロードバイクでグリップ走行している私には、カルチャーショックだったのを鮮明に覚えています。
でも、対向車も障害物も無いクローズドコース、そして転んでもOKという状態だからこそ出来たんでしょうね。

ロードバイクのツーリングでの走り方となると、やっぱり安全に楽しく走る事!その中でもカーブを綺麗に気持ち良く曲るという事だと思ってます。速さは二の次で!(笑)
まだまだ試してみたいライテクが沢山あるので、これもまたライディングを飽きさせず、楽しい物にしているのだと思ってます。
リアステアの乗り方も、私の中ではその1つだと思います。
 
 
 
後ろでも前でも…^^; (樹生和人)
2008-10-27 20:58:00
義太夫さん、こんにちは。
私も、絶対的な速さよりも安全で気持ちいいコーナリングを重視しています。
というのは、記事中にも書きましたが、最新のSSはあまりに速く、しかもあっけなく速く、公道で攻め込むまでにペースを上げると危険すぎる気がしているからです。いや、本当はもう歳だからかな…。

前乗りでも後ろ乗りでも状況に合わせてどうぞ…というカワサキヴェルシスのハンドリングにはちょっと関心があります。

いやでも、金もないし、もうしばらくGPZと付き合うことになりそうです。
 
 
 
是非ともご教示を… (カブ乗り)
2020-11-12 16:17:20
初めまして。貴殿のブログを一気読みをしております。私は、いい年をしてカブを乗り始め、コーナリングの面白さが、少しだけ分かってきました。高速道路に乗って、プチツーリングに行きたい欲が出て来て、NINJA250R辺りで、増車を考えております。シロート考えで恐縮ですが、NINJA250Rでも、アップハンドルなどでポジションを変えれば、リアステアの乗り方は可能でしょうか?それとも250TRなどの、オールドタイプの方がベストでしょうか?是非、貴殿の御意見をお聞かせください。
 
 
 
いいと思います。詳しくは、別に。 (樹生和人)
2020-11-13 20:35:56
カブ乗りさん、こんにちは。
コメントありがとうございます。

結論から申しますと、Ninja250Rでいいと思います。
ただし、私、Ninja250R乗ったことがありませんので、
責任持てず、文献その他の情報から考えてのことです。

是非、試乗してみてお考えくださればと思います。

また、どうしてそう思うのか、また、「リアステアの乗り方」と言ったときに、どうか、などは、お返事が長くなりそうです。

コメントとしては、長すぎるので、
私の新ブログ「風のV7」  〈https://v7yukikaze.blogspot.com/
の方でお返事を書きたいと思います。

お返事が11月15日くらいになってしまいそうですが、
お許しくださればと思います。

カブ乗りさん、ご質問、ありがとうございます。
いましばらく、お待ちください。
 
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