おじいさんの古デスク

さあ、抽斗の中にはどんなものが……

水菓子の思い出

2008年08月02日 | ことば

遠いむかしの夏のこと、「水菓子」という言葉でちょっと苦い
思い出があるんです。
母に連れられて、いわゆるお屋敷といわれるような家を訪問した
ときのこと。下町育ちにとっては、家の中で迷子になるほどの
広さに感じました。
あいさつを終えたところで、そこの奥さんが、「ぼうや、あとで
水菓子をあげますからね」と言ってくれたのでずっと待って
いたんですが、とうとう出てきませんでした。
帰路、母に文句を言いました。
  「あそこのおばさん、嘘ついた。水菓子を出してくれなかった」
  「なに言ってるの。桃をむいたのをちゃんと出してくれたじゃ
   ないか。おいしかっただろ?」
  「桃じゃなくて、水菓子だよ。出してくれなかった」
  「馬鹿だね、この子は。水菓子っていうのは果物のことなんだよ」
そうか、そうなんだ。少なくともわが家では水菓子なんてお上品な
言葉、耳にしたことがなかったんです。
子供心に、水羊羹か何か冷たくて甘いお菓子が出てくるものと
ばかり期待していたんです。
そう、この言い方、いまでも高級料亭の品書きなんかには残っている
ようですけれど、その後のわたしの人生でも、ずっと縁のない言葉
でした…。



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