活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

内向■HAYABUSA、いのちの物語(その9)

2011-06-07 23:26:05 | 宇宙の海

HAYABUSA、いのちの物語
開催日時:2011年5月5日(木) 14時~ 約1時間半
会場:すばるホール 2階ホール
主催:財団法人 富田林市文化振興事業団
協賛:宇宙航空研究開発機構(JAXA)
講演者:上坂浩光氏(HAYABUSA BACK TO THE EARTH監督)

※ 重ねがさねとなりますが…。
  本レポートはブログ主の記憶とメモを主とし、そこにこれまでに
  収集した情報とブログ主の解釈等を加味して記載しています。
  そこに書かれてある内容に事実と相違等ある場合、その文責は
  一意にブログ主にあります。
  


■内向

絵コンテの制作が進み、シーンのカット構成が固まったものから順次。
アニマティクスが進められていく。


アニマティクスが、フルレンダリング映像制作前の最終確認フェーズ
として、低レベルCGを実際の映像尺に合わせて制作する、いわば作品の
全体像を把握するための重要なプロセスであることは、以前にも触れた。


監督手書きの絵コンテを元に、フルドームCG撮影用のソフトを駆使
してのアニマティクスがLiVE社のサーバ群のCPUパワーを。
そしておそらくそれ以上に。
制作に携わる人々の脳内CPUパワーを費消しつつ、進められていく。



その作業と並行して。あるいは先んじて。
どうしても行わなければならない作業が、二つあった。


そのうちの一つが、シナリオの完成。
そしてもう一つが、ナレーターの決定である。


今回の講演では、前者について語っていただいた。


後者について、この時期にあったあるエピソード(当初、ナレーションを
依頼していた俳優の緒形拳氏の急逝)についての監督の思いは
監督の星居ブログにて語られている
ので、そちらをご参照していただきたい。

ここでは、緒形拳氏のご冥福を静かに想いつつ筆を先に進めること
とする。


さて。
シナリオである。


今回、この稿を起すに当たって。
今一度2009年公開VerのDVDを観直して、その台詞を書き起こ
してみた。


そのボリュームは。
文字数にして、5877文字。
4百字詰め原稿用紙にして、約15枚といったところである。


※ 聞き間違いその他により、当然ブレはあると思います。
  また、原稿用紙も実際には全文字詰めて書くことは有り得ないので、
  あくまでボリューム感を知る便(よすが)としてご認識下さい。


この言葉たちに行き着くまでに。
監督の中で、どれほどの取捨選択が繰り返され研ぎ込まれていったのかは、
想像するより外にない。


それは。
星居ブログにおいても。
その他、私の知る限り、シナリオを決定稿とするまでの苦労話等には
監督はほとんど触れられていないからである。

対極的に。
映像に関しては。
星居の環境のおかげで絵コンテが快調に進行中ですといった記述や、
最後の追い込みで徹夜が続いていますといった状況報告が散見される。

これは。
シナリオを練りこんでいた時期が、まだ公式に製作発表が為されておらず、
ブログでも触れられなかったという要素もあるだろうけれど。

それ以上に、文章と映像というコンテンツ自身が持つ特性の違いが影響して
いると思う。


どちらも、無から有を生み出す苦しみを内包していることは間違いないが、
創文の苦しみは内に向かい、造映のそれは外に向かう。
僕には、そう思えるのである。

なぜならば。

本来。
創文という行為は、たまらなく孤独なものであり、またそうでなければ
言葉の滴を絞り出すことはできないと思うが故である。


集団作業となる映像制作においては、監督の求めるイメージも、現状
感じている不満も、一緒に制作しているスタッフにきちんと共有されな
ければ、意とする作品に仕上げることは難しいであろう。

それぞれのスタッフに、まるでマスキングしたような情報しか開示せず、
すべて監督の中でのみ再構築し、最後に魔法のように完成品を開陳する。

そうしたスタイルを持つ監督もいらっしゃるかもしれないが、少なくとも
それは一般的ではないだろう。


それ故に。
作業のリーダーである監督が、適宜情報を発信してチームの仕事に的確に
ベクトルを与え続ける必要があると思う。
その余波が、講演やブログにも滲み出ているのではと感じる次第である。


その一方。
個人作業が主体となるシナリオ書きの場合には、事情が異なってくる。
そこでの作業は、あくまで監督個人に先鋭化されたものとなるが故に。
そこでの喜びも。
そこでの苦しみも。
一重に、監督個人が引き受けるべきものであるし、
他の誰に共有するものでもないのであろう。


無論、世の中には様々な考え方がある。


シナリオそのものを、ブレスト形式で練り上げる手法を取る方もいる
かもしれない。
あるいは、個人で書いていても、そこでの思いを吐き出すことで、
次の章へと筆を走らせる原動力にされる方もいるかもしれない。


それでも。
上坂監督の場合には。
一人、云々と呻吟しながら言葉を絞り出すように僕には思えるのだ。


もっとも。
HBTTEの場合、エンドテロップに紹介されるスタッフの中には、
監督以外にもうお一人シナリオとしてクレジットされているお名前が
ある。


株式会社リブラの高畠規子氏である。

氏は、リブラ社にあってプラネタリウム番組のシナリオを1995年
以来200本以上も書いてこられたベテランである。


HBTTEにあって、監督と氏のシナリオ制作における役割分担がどの
ようなものであったのかを知る術はない。

ないがしかし、この作品に関しては、まず監督が初稿を書き、それを
高畠氏が言葉の繋がりやリズムを確認し調整するといった、言わば
校正のような立場で手を入れていたのではないかと思っている。

これは、高畠氏のシナリオライターとしての技量を拙陋とするが故の
ものではなく。

LiVE社のHP上からうかがい知ることができる限りにおいて

これまで手がけてきた作品がCMやゲーム作品が中心であり、一つの
作品のシナリオを書き上げて作品と為すことが、HBTTEが初めて
となる監督のサポートとして、高畠氏のシナリオライティング技術が
必要だったのではという推察である。

それが、故に。
作品の根幹部分は、聊かもゆるぎなく。
全て監督の中から紡ぎ出されたものだとも言える。

そう、僕は思っている。

だからこそ。
今回の講演で、シナリオについて監督が語ったお言葉は僕にとって
とても意外だった。

それは、シナリオ制作において、監督が飯山総合プロデューサーにその
内容を確認し、そこでのコメントを踏まえてシナリオを手直ししていた
ことである。

(この稿、続く)


小惑星探査機 はやぶさ HAYABUSA BACK TO THE EARTH 帰還バージョン Blu-ray版
クリエーター情報なし
有限会社ライブ

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