11月15日、ファンが待ちに待ったV・プレミアリーグが開幕。東京体育館で開催された女子の開幕戦を二日間、現地で観戦した。どの試合も非常に見応えがあったが、特に久光製薬スプリングスと東レアローズの試合は、まるで優勝決定戦を見ているかのような試合だった。
11月15日、ファンが待ちに待ったV・プレミアリーグが開幕。東京体育館で開催された女子の開幕戦を二日間、現地で観戦した。どの試合も非常に見応えがあったが、特に久光製薬スプリングスと東レアローズの試合は、まるで優勝決定戦を見ているかのような試合だった。
上尾メディックス 吉田 敏明 監督
今シーズン、初めてプレミアリーグに参戦する上尾メディックス。チャレンジマッチでJTを破り、プレミア昇格を決めたことは記憶に新しい。上尾メディックスのバレーを見ているうちに、吉田敏明監督がどのような指導をしているのか、目指すバレーボールはどのようなものなのか興味を抱いた。そんなとき、ブロガー記者としてVリーグ開幕記者会見に参加できることになったのだ。
記者会見後の囲み取材で吉田監督に近づき、「ブロガー記者の者です」と名乗ると、吉田監督は首を傾げた。V機構から募集があったことと、インターネットを利用してVリーグの魅力を発信するという趣旨を説明する。吉田監督はそういったものには疎いようで、「すいません」と苦笑い。
場が和んだところで、僕は「上尾メディックスは他のチームとは少し違ったバレーをしているような印象があって...」と話を切り出した。悪い意味ではなく、良い意味で。吉田監督は怪訝な顔をする。すぐにそれを弁明すると、吉田監督は少し穏やかな表情になった。
吉田監督に聞いてみたかったのは、上尾メディックスが目指すバレーボール、とりわけ、攻撃のコンセプトだ。
日本のバレーボール界では、セッターが中心となって速いトスを上げ、アタッカーがトスに合わせるという風潮が蔓延しているように思われる。例えばトスの軌道が低く、アタッカーが好きなように打てないトス。主導権を握っているのはアタッカーではなく、セッターであるという認識が幅を利かせている。
これについて、吉田監督に尋ねた。
吉田監督は頷き、「『速さ』と対になるのが『高さ』という言葉だと考える。(高さのある相手に対抗するために)トスを速く持っていけば、軌道が低くなることがある。そういったことを考慮し、アタッカーの能力を最大限に引き出すためにはどのようなトスがいいのか、考えながら調整している。アタッカーがセッターのトスに合わせるのではなく、セッターがアタッカーの入り具合などをしっかりと見て、打ちやすいトスを供給することが大切」と話した。
「今年の上尾は結構『はやい』攻撃をする。けれども、その『はやさ』は、各々のアタッカーに合ったものでなければならない。攻撃においては、あくまでアタッカーが中心。セッターが中心となって、闇雲にブンブン振り回すようなトスを上げろとは私は言わない。打ちやすいトスを上げるのは当たり前のことだが、『選手を活かす』ことが一番大切なことだと私は思う」
「アタッカー中心」というコンセプト。それはセッター近隣のスロット1やスロットA(※1)であろうと、セッターから離れたスロット5であろうと同じである。主導権を握っているのは、セッターではなくアタッカーであり、チーム全体にファースト・テンポのコンセプト(※2)が染み付いている。これが上尾バレーの攻撃におけるコンセプトなのだ。
またとない機会。この日の取材では、当たって砕けろと思い切った質問をした。ブロガー記者として会見に出席したが、全くの素人であることに変わりはない。吉田監督は「いやぁ~かなり専門的な質問だなぁと思いましたよ」と笑う。「いつ上尾のバレーに興味を持ったのか」といったことを逆質問され、僕は、今年4月のチャレンジマッチと答えた。
悲願のプレミア昇格を遂げ、歓喜に沸いたチャレンジマッチ。吉田監督は「あの時は本当によかった。チャレンジマッチはすごく大波小波で、ダメなセットは本当にダメだった。でも、しっかりゲームプランを練って練習してきたことが出せた」と振り返る。
今シーズン、上尾メディックス初となるプレミア挑戦が迫ってきた。開幕に向けては、「レフトの皆本明日香が膝の手術をして、開幕までには間に合うと思っていたが、ちょっと厳しそうで...これは誤算」と表情を曇らせた。
また、昨シーズン、上尾でプレーしたアメリカ人選手のナンシー・メトカフは現役を引退。今シーズンはメトカフと同じ、アメリカ人サウスポーのケリー・マーフィーが加入する。マーフィーは10月の世界選手権に出場し、アメリカ女子代表では三大大会初となる金メダルを獲得した。
188cmの大型オポジットということで、マーフィーにトスが集まることが予想される。マーフィーがマークされ止められたとき、どのような対策を講じるのか、また出産を経て復帰した荒木絵里香選手が上尾のバレーにどのように溶けこんでいくのか、注目すべき点は多い。
最後に、アタッカーが中心とはいえ、そういった攻撃を繰り出す起点はセッターであることを忘れてはならない。キャプテンの土田望未選手は、どんな場面でも冷静に、アタッカーを活かそうと意識したトスを上げている。セッターの土田選手がいてこその上尾。プレミアリーグでも、その活躍に期待したい。
5分というあまりに短い時間だったが、非常に中身の濃い話を聞くことができた。いつか、攻撃面だけでなく守備面についても、吉田監督に話を聞いてみたい。
取材の終わりに、「上尾のバレーこそがVリーグ、全日本女子のバレーをさらに高いレベルへと引き上げてくれると思っています」と言うと、吉田監督は喜びを隠せない様子だった。お世辞ではなく、本心だ。今後のV・プレミアリーグ、全日本女子を引っ張っていくのは、上尾メディックスかもしれない。
Vリーグは、国内のチームが日本一をかけて戦う大会であると同時に、全日本代表が世界に立ち向かっていくための前段階でもある、と僕は考えている。現に、Vリーグの理念の一つとして「世界に挑戦」という項目がある。全日本代表とVリーグは切り離せない関係にあるのだ。
特に男子は、世界のバレーを取り入れようとするチームが多く出てきた。JTサンダーズはヴコヴィッチ・ヴェセリン監督、豊田合成トレフェルサはクリスティアンソン・アンディッシュ監督、サントリーサンバーズはジルソン・ベルナルド監督を招聘。Vリーグで戦うチームの選手・監督が世界のバレーボールに対してどのような意識を抱いており、どのように今シーズンを戦っていくのか。10月27日に行われた記者会見後の囲み取材で質問した。
取材時間が限られており全員とはいかなかったが、JTサンダーズのヴコヴィッチ監督、サントリーサンバーズのジルソン監督、パナソニックパンサーズの川村慎二監督、堺ブレイザーズの出耒田敬選手に取材することができた。特に堺ブレイザーズの出耒田敬選手からは、日本男子バレーを変える可能性を大いに秘めた心強い言葉が聞けた。
女子は、Vリーグ三連覇を狙う久光製薬スプリングスの中田久美監督、今シーズンからプレミアリーグに参戦する上尾メディックスの吉田敏明監督に取材した。なお、取材時間と文章量の関係で、吉田敏明監督の取材については次の記事(その5)で取り上げる。
久光製薬スプリングス 中田 久美 監督
「無駄のない点数の取り方。確実に点数を取らなければいけないところで取る。当たり前のことを当たり前にやる。結局バレーボールはリズムの崩し合いなので、いかに相手のリズムを崩すか。それを常に考えながらやっている」
中田監督らしい簡潔な回答だった。もう少し具体的なことを質問してみたかったが、中田監督には常に記者が張り付いている状態で、全く時間がとれなかった。それほど久光製薬への期待と注目が大きいということなのだろう。
戦力が揃っており、今シーズンも優勝候補の最右翼である久光製薬スプリングス。「世界と戦える選手を育てたい」という中田監督は当然、Vリーグ三連覇も狙っているはずだ。久光製薬が三連覇という偉業を成し遂げるのか、はたまたこの常勝軍団を破るチームがついに現れるのか、注目。
JTサンダーズ ヴコヴィッチ・ヴェセリン 監督
「昨シーズンよりJTサンダーズの監督に就任し、抜本的な改革を行った。それはバレーボールに対する取り組み方であったり、どのようにプレーするかであったり、言い始めるときりがない。そういった改革が、昨年度の2位という良い結果となって表れた。私のバレーボールに対する方法論を選手がよく理解してくれているため、昨シーズンよりも非常にやりやすい。逆に私は、選手が試合の序盤・中盤・終盤といった様々な局面で、どういった活躍ができる(見込みがある)のかを理解した上で、チームに落としこんでいきたい」
昨年7月の就任記者会見で、good communicationが大切だと話していたヴコヴィッチ・ヴェセリン監督。とにかく選手のことをよく見ているのだろうな、と話を聞いていて思った。選手が持つ潜在的な能力を見極め、それをチーム全体としての可能性へ繋げていこうとしている。good communicationで、チームの雰囲気も上々。今シーズンのJTサンダーズは、昨シーズンとは一味違ったチームになりそうだ。
サントリーサンバーズ ジルソン・ベルナルド 監督
「ブラジルは力、パワーのバレーボール。日本はどちらかと言うと戦術、スキルを重視している。でも僕は、日本の選手はフィジカル、パワーをもっと重視すべきだと思う。日本バレーの戦術は非常に豊かで素晴らしいものがある。だからこそパワーを重視していくべき。僕がサントリーでプレーしていたときにはすでに、フィジカル・メンタルが強くならなければならないという考え方はサントリーにあった。僕が監督に就任して、その仕上げをしている段階。加えて、選手がどういった目標を達成したいのかということを意識することが大切だと思う。常に目標を持ってやることでさらに強くなれる」
ジルソン監督はJTのヴコヴィッチ監督と同様、まずは選手の意識を変えることに着手しているようだ。日本バレーでは「力で押していく」というようなことはあまり聞かない。どちらかというと個人の技術、スキルでカバーし合って勝利を目指す、といった認識ではないだろうか。ジルソン監督がブラジルから持ち込んだ、力・パワーのバレーボールが日本バレーに浸透していくのが楽しみだ。まずは今シーズンのVリーグ、ジルソン監督の手腕に注目。
パナソニックパンサーズ 川村 慎二 監督
福澤達哉選手、清水邦広選手、永野健選手、深津英臣選手と、全日本男子の主力が所属するパナソニック・パンサーズ。今シーズンは川村慎二監督が就任し、Vリーグ連覇を狙う。世界と戦い、経験を積んだ選手をまとめあげる川村監督は、当然のように世界を意識していた。
「パナソニックのメンバー全員が全日本代表に入ることが目標。そのために、選手には今のプレーのままでいいのかということを常に考えながらやれと言っている。また、海外の選手の高さやパワーがどのようなものなのかを選手に体感してほしいので、海外遠征なども考えながらやっている」
大胆な発言だ。「パナソニックのメンバー全員が全日本に入ることが目標」とは、普通の監督ならば言えないだろう。この一言に川村監督の決意が伺える。選手としていぶし銀のような活躍を見せた川村氏が、監督としてはどのようにパナソニックを支えていくのだろうか。
堺ブレイザーズ 出耒田 敬 選手
10月、アジア大会で銀メダルを獲得した出耒田敬選手。決勝のイラン戦のあと、「イランのような高いクイックを目指す」と公言していたのが印象的だった。出耒田選手が目指すクイックについて聞いた。
「印象に残ったイランのクイックは、高さを重視していて、コミット(※1)しても止められないようなクイック。そういうのを目指したい。世界トップレベルのチームはどこからでも高さのある攻撃をしてくる。日本は速さを求めすぎて、高さを軽視しているようなところがあるけれど、そういった『速さ』の風潮に流されずにやっていきたい」
世界のバレーボールが日本に入ってきていると感じた瞬間だった。世界トップクラスのチームは、速さを求めすぎて高さを失うようなことはしない。日本バレーにおいては、速さを求めるあまり、アタッカーの持ち味が消えてしまうことが多々あるように見える。
出耒田選手は、「ファースト・テンポ(※2)のスパイクを打ち込みたい。こうした概念については理解しているつもりだし、印東監督も分かっている」と付け加えた。印東監督が就任し、堺ブレイザーズのバレーボールはどのように変わっていくのか。出耒田選手の目指す「高いクイック」が、堺を、そして全日本男子バレーのレベルをぐっと引き上げてくれると信じている。
※1 コミット
※2 ファースト・テンポ
その5に続く。
左から新鍋理沙選手、長岡望悠選手(久光製薬スプリングス)、宮下遥選手(岡山シーガルズ)、木村沙織選手(東レアローズ)、大野果奈選手(NECレッドロケッツ)、栗原恵選手(日立リヴァーレ)、荒木絵里香選手(上尾メディックス)
岡山シーガルズ 宮下 遥 選手
「(全日本は)すごく大変だった。 日本が世界で勝つためには、チーム力が大事だと改めて感じた。岡山シーガルズには今シーズンから新しい選手も加わり、若手も成長してきているので、上手く噛み合えば優勝も狙える」
東レアローズ 木村 沙織 選手
「東レに戻ってくると若い選手が増えていた。久々に東レで練習してみて、これまでの東レの良さは変わらず、良いチームだと改めて感じた。今シーズンは自身にとって久しぶりのVリーグなので、新鮮な気持ちで臨みたい。目標は優勝」
上尾メディックス 荒木 絵里香 選手
「この舞台に戻ってくることができて嬉しく思う。(出産を経て復帰したため)感覚はゲームをやってみないと分からない部分が多いが、体力面は落ちており、練習はきつい。また、上尾メディックスは初めてのプレミアリーグ参戦である。チームとしても自身としても新しい挑戦なので、一戦一戦を頑張りたい」
続いて8チームの監督とキャプテンが登壇し、開幕戦の対戦カードを紹介。
・11月15日 東京体育館
第1試合 デンソーエアリービーズ × 岡山シーガルズ
デンソーエアリービーズ 鈴木 裕子 主将
「今シーズンは山口監督のもと、選手一人一人が様々なことに挑戦している。バレーを楽しみながら全力でプレーする」
岡山シーガルズ 山口 舞 主将
「今シーズンは若手の成長が著しく、新たに加わった選手と上手く噛み合えばチャンスはある。チーム全員の結束力を武器に戦いたい」
第2試合 東レアローズ × 久光製薬スプリングス
東レアローズ 中道 瞳 主将
「優勝するために、一戦一戦の戦い方を考える。『結成』をスローガンに掲げているので、ひとりひとりの繋がりを大切に、シーズンを通してチームが成長していけるように頑張りたい」
久光製薬スプリングス 座安 琴希 主将
「目の前の一戦を勝ち抜くこと。結束力で良いパフォーマンスで。観客に感動を与えられるような試合をしたい」
・11月16日 東京体育館
第1試合 トヨタ車体クインシーズ × 上尾メディックス
トヨタ車体クインシーズ 竹田 沙希 主将
「目の前のボールに対して全力で取り組むことを意識している。見ている方に元気や勇気を与えられるような試合をしたい」
上尾メディックス 土田 望未 主将
「上尾メディックスは今シーズン、初めてプレミアリーグでプレーをする。チーム全員が強い気持ちを持って試合に臨みたい」
第2試合 NECレッドロケッツ × 日立リヴァーレ
NECレッドロケッツ 秋山 美幸 主将
「今シーズンは『心』をスローガンにしている。開幕戦ではやってきたことを全て出し、勢いに乗れるように頑張りたい。また、見ている方に感動を与えられるような試合がしたい」
日立リヴァーレ 遠井 萌仁 主将
「日立リヴァーレの伝統である『繋ぎ』と『粘り」で、常にチャレンジする気持ちを持って頑張りたい」
全選手を代表し、昨シーズンMVPの選手がコメント。男子は清水邦広選手(パナソニックパンサーズ)、女子は新鍋理沙選手(久光製薬スプリングス)。
パナソニックパンサーズ 清水 邦広 選手
「今シーズンから大会方式が新しくなり、心機一転。自分たちも熱い試合ができるように頑張りたい」
久光製薬スプリングス 新鍋 理沙 選手
「いよいよリーグ開幕が迫ってきた。大会のシステムが変わり、一戦一戦がより大事になってくる。全チームが熱い試合を展開できるように頑張りたい」
その4に続く。
V・プレミアリーグ男子の注目選手5名(全日本登録選手)が登壇。10月にはアジア大会で銀メダル獲得を果たした。
左から清水邦広選手、深津英臣選手(パナソニックパンサーズ)、越川優選手(JTサンダーズ)、出耒田敬選手(堺ブレイザーズ)、伏見大和選手(東レアローズ)
5名を代表し、深津英臣選手が「これまでの経験を活かし、若さ溢れるプレーでVリーグを盛り上げていきたい」とコメントした。
続いて8チームの監督とキャプテンが登壇し、開幕戦の対戦カードを紹介。
・11月15日 パークアリーナ小牧
第1試合 パナソニックパンサーズ × 豊田合成トレフェルサ
パナソニックパンサーズ 永野 健 主将
「開幕戦ということは気にせず、一戦一戦をしっかり戦っていきたい」
豊田合成トレフェルサ 古賀 幸一郎 主将
「僕たちはチャレンジャーなので、相手にぶつかっていく。シーズンを通していい試合ができるよう頑張っていきたい」
第2試合 東レアローズ × 堺ブレイザーズ
東レアローズ 米山 裕太 主将
「ベテランの選手が抜け、若い選手が多くなった。そういった選手たちがどれだけ緊張せずにプレーできるか(がポイント)。チャレンジ精神を持って頑張りたい」
堺ブレイザーズ 石島 雄介 主将
「 6月から、印東監督のもとで新体制がスタートした。印東監督の求めるバレーにフィットして、開幕戦に勝利、そして最終的に優勝できるように頑張りたい」
・11月16日 パークアリーナ小牧
第1試合 JTサンダーズ × ジェイテクトSTINGS
JTサンダーズ 越川 優 主将
「JT悲願の初優勝に向けて、まずは開幕戦でいい流れを作れるように頑張りたい」
ジェイテクトSTINGS 松原 広輔 主将
「今年のジェイテクトのスローガンが『ONE』なので、ONE JTEKT(ワン・ジェイテクト)として、ひとつのチームとなって開幕スタートダッシュを飾れるように頑張りたい」
第2試合 FC東京 × サントリーサンバーズ
サントリーサンバーズ 山村 宏太 主将
「今シーズンから監督が代わったことで、昨シーズンとはまた違ったサンバーズをお見せできると思う。楽しみにしていてください」
FC東京 手塚 大 主将
「FC東京らしいプレーをして、攻めの気持ちを忘れずに精一杯頑張っていきたい」
その3に続く。