ロータリーエンジン開発物語 その２７

単室排気量は491cc、トロコイド寸法はe=15mm、R=105mm、b=60mmである。
ローターハウジングにはトノコロイド摺動表面に高硬度クロームメッキが施されたアルミニウムが用いられた。アペックスシールはアルミを含浸させたカーボン材で、日本カーボン社の高硬度「パイログラファイト」カーボン・コンパウンドを使用している。このカーボン・コンパウンドのアペックスシールには自己潤滑性があり、シールの耐摩耗性が向上して10万キロで0.8～1.0mmであった。そして、何にもましてトノコロイド表面のチャターマークがなくなり、摩耗は皆無に等しいものになった。
量産仕様として、低速時のトルクを確保するために、吸気ポート方式が、ペリフェラル・ポートからサイド・ポートに改められた。これにより低速時のラフなエンジン振動は改善された。
吸入ポートはチャンバー側面にそれぞれ２個づつあり、一つは2ステージ４バレル・キャブレターの21mmのプライマリー・バレルから混合気を取り入れ、スロットル開度が大きくなると、もう一方の吸入ポートに28 mmのセカンダリー・バレルからの混合気が加わる。
排気ポートは、各チャンバーに１個づつペリフェラル・ポート方式で設けられている。
サイド・ハウジングは、アルミニウムの鋳造製で、摺動表面には耐摩耗性を向上させるため、カーボン・スチール層が溶射されている。
ローターは、ダクタイル鋳鉄製で、後のロータリーエンジンよりも多くのシール部品が用いられていた。ダブル・サイドシールや３重のオイルリングが設けられている。このローターは片側にスプリングピンで取り付けられたローターギアを備え、このギアがサイドハウジングの固定ギア（ステーショナルギア）と噛み合っている。この２個のギアの噛み合いによってローターがトノコロイド面を摺動する。
点火系は、長方かまぼこ形燃焼室の中の燃焼効率を上げるために、２本のスパーク・プラグが順次点火する。リーディング側はATDC2度、トレーリング側はATDC7度で点火するように設定されている。
潤滑系は高効率のギアポンプによりオイルが圧送され、エキセントリック・シャフトを通じてローター内に入り、ローターを冷却する。循環したオイルを冷却する空冷式オイルクーラーを装備している。極少量のオイルがキャブレター内に噴射され、混合気と混合されてチャンバー内に入り、アペックスシールを潤滑する。
生産型のL10A0810エンジンは、7000rpmで110bhpのパワー、3500 rpmで13.3kg-mのトルクを発生しながら、単体重量は141 kgと軽量で、同等の出力を発生する４気筒レシプロエンジンよりはるかに軽くコンパクトであった。

1967年5月30日、マツダ初のロータリーエンジン搭載のコスモスポーツが発売された。

山本健一は後に語る。「未知のものへの挑戦、苦しみと挫折感にさいなまれながら、エンジニアとしての信念と意地を糧に、不安と闘いながら未踏の世界へと踏み込んで行った私の気持ちは、今なお鮮明に思い起こされるものの、どの様に言い表わしてよいか言葉もない。」