すんけい ぶろぐ

雑感や書評など

古谷実「シガテラ (6)」

2005-09-01 08:36:23 | 書評
そうです! あなたの体からも、加齢臭が!!



前回までの感想。
古谷実「シガテラ (4)」グラビアアイドルで「親戚に、たくさん買ってもらいました」という話を聞いたことがあるが、買った親戚は、それを、なんに使うんだろう?(特に従兄弟)
古谷実「シガテラ (5)」「女とやったら、人生観が変わる!」と豪語していた彼は、その時、既に経験済みだった。…………人生観が変わる前の彼は、いったいどんな人間だったのだろう……………



で、大学に受かり、しがないサラリーマンとして、立派に生きていこうと志した荻野君の前に登場した谷脇。


南雲さんは荻野君にとって幸せの発生源であります。
その対極にいるのが、不幸の配達人である谷脇です。

かつては、荻野をいじめ、パシリとして使い、気ままに暴力を振るっていた谷脇が、今度はヤクザの抗争に彼を巻きこみます。

そこで、どうにか一命をとりとめる荻野。また無関係の事件に巻き込まれた荻野は、谷脇に、「お前と出会ってから僕はこんな悪い事ばかりだ!!」と、ついに正面から非難します。それに対して、谷脇は、こう答えます。
おいおい それはお互い様だろ?
オレ的にはお前と会ってから信じられない事が起きまくってんだぜ?
お前が高井を連れてきて
高井が変態を連れてきて
耳とられて こんな仕事について・・・・・・・・・・・・
今に至るって感じで
古谷実「シガテラ (6)」32頁 講談社
で、その言葉を真に受けた荻野は、自分のことを「不幸の源だ」と自責し始め、南雲さんと付き合う資格などないと悩み始めます。

もともと谷脇の言っていることなんて、自分が彼をいじめていたという大前提を無視した無茶苦茶な発言なのですから、第三者からすれば、そんな気にすることなんかないいですがねぇ~。

でも思春期って、他愛無い一言を、いじいじと考えてしまうもんですからな。


で、結局は「南雲さんを幸せにしなくては!」という決意でもって、立ち直ります。
そして、目標達成のため猛勉強、と。


それからのストーリーは、結構「?」です。

まぁ、古谷実の作品って、場面場面のインパクトはすごいけど、全体の構成は甘いからなぁ。
ギャグ漫画だと、それでいいんだろうけど……………。


で、猛勉強の甲斐なく、荻野君は不合格。
それから街で偶然、高校の同級生に出会って、その子と、ちょっと奇妙な浮気をしそうになります。

そのエピソードは、いかにも付け足しといった感じ。
まぁ面白いことは、面白いんだけど。全体のストーリーからすると、蛇足かなぁ。


で、その浮気の回が終了後、古谷実らしく、唐突に最終話に向かっていきます。
その夜 僕は夢を見た
見覚えのない
男か女かもわからない人に
問いただされた

ふふふ・・・・
本当にこのまま
うまく行くと思ってる?
君は間違いなく
不幸のかたまりなんだよ?


わかってるよ

あの子を不幸にするかもよ?

わかってるよ
その時は別れる

そんな事
できるの?


できるよ・・・・・・・・
彼女のタメなら
何でもできる

死ねる?

死ねる
親には悪いけど

夢だからって適当な事
言ってるんじゃないの?


適当じゃないんだよ・・・・・・・・
だからまいってんだ・・・・

・・・・高井君は元気らしいよ
以前のように明るくなった


そう・・・・良かった
ありがとう

勉強しなくちゃ

勉強をして
社会に出て
大学に入って
大人になる

そして・・・・・・・・
古谷実「シガテラ (6)」198~202頁 講談社

そして・・・・・・・・、最終話は、社会人となった荻野君の立派な姿が書かれております。

で、いつものように、ネタバレですが、あれだけ好きだった南雲さんとは別れています。

その理由は書かれておりません。

が、荻野君が彼女と対等を目指し、努力を考え始めた時点で、この結末は予想できるものだったのかもしれません。

彼自身が力をつけるということ(努力するということ)は、南雲さんからの独立を意味し、彼らの関係の崩壊…………とまでは言わなくても、関係性の変容は予測できたことです。

そう考えてみますと、あの蛇足とも言える浮気のエピソードは、荻野君の変貌を暗示していたのかもなぁ。


こうして、幸福の発生源だった南雲さんを必要としなくなり、また一方で、不幸の配達人といったものを恐れる必要もなくなるほど力をつけた(努力をした)という自信を持った荻野君。

彼自身は、自分の現在を、こう評価しています。
やるじゃないか荻野優介
思いのほか 立派になったじゃないか
あの頃 想像していた何倍も
良い社会人になれていると思う

もう自分を過剰に疑ったり・・・・
しつこく問いただしたり
「不幸の源だ」なんて
ののしったりしなくなった

不安定の固まりだった
僕はもういない・・・・

僕は
つまらない奴になった
古谷実「シガテラ (6)」218~219頁 講談社


青春漫画の大奇作としては「さくらの唄」があるけど、あっちはハッピーエンドで終わってるんだよなぁ。

あれは、あれで嫌いなラストじゃないけど、まぁ、はっきり言ってご都合主義だよね。
アメリカに渡り、新進気鋭のアーティストとして、大成功するなんて………。

それに比べると、むごいくらい「シガテラ」のラストはリアルだね。

「僕は つまらない奴になった」

まぁ、その通りだよね。
年をとるってことは、そういうことだよね……………。



さて、「ヒミズ」「シガテラ」と、脱ギャグ漫画志向を強めている古谷実だけど、次は、どうすんのかな?


シガテラ 6 (6)

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さくらの唄 (上)

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