すんけい ぶろぐ

雑感や書評など

浦沢直樹×手塚治虫「PLUTO (2)」

2005-05-05 08:45:27 | 書評
「MONSTER」が映画化だそうですが、複雑な背景を持ったヨハンを二時間で描けるのか? 単なる知的なサイコパスにならなければいいんだが……


今、もっとも脂ののっている作家の一人と断言してもさしつかえのない浦沢直樹の最新作「PLUTO (2)」を読みました。

まぁ読んでください、としか褒めるしかない巧みさ、です。

前巻で殺された(破壊された)ノース二号にしても、今回のブランドにしても、単なるやられ役以上のものを、作者はちゃんと与えている。ノース二号は戦争の忌まわしい記憶に悩まされており、ブランドには守るべき多くの家族がいる。そんな、ちょっと人間臭くてホロっとくるエピソードを丁寧にさしこんでいる。ですから、彼らが死んだときは、いっそう悲しみが深くなる。

登場人物の詳細な背景を描くことで、物語に深みを加えるなど、誰でも分かっていることではあります。が、それを、嫌味にならず、くどくならず、作為的にならず、ステレオタイプに陥らず(ちょっと探せば似たようなエピソードを持ったストーリーは存在するでしょうけど)、自然に読ませるような形にするのは、なかなか難しいものです。

職人だねぇ。


物語の方は、前巻での謎が多少解決しつつ、それ以上の広がりを見せます。事件は単なる怨恨や反ロボットの思想によるものではなく、どうやら国際間のパワーバランスも関係している模様。

お茶ノ水博士「ロボットが殺人を犯したという前例は……
         ブラウ1589のケースだけだよ。」
アトム     「本当なんですか?」
お茶ノ水博士「? なぜだい?」
アトム     「いえ……
         ブラウ1589というロボットの人工知能は、どういう欠陥があったんですか?」
お茶ノ水博士「いや……完璧だった……」
アトム     「完璧………
         人を殺す完璧……それはどういうことです?」
お茶ノ水博士「………」
アトム     「それは…… “人間”ということですか?」
浦沢直樹×手塚治虫「PLUTO (2)」78~80頁 ビッグコミックス
「MONSTER」では、自分の助けたしまった命が、冷酷で冷静な殺人鬼となってしまうというジレンマが描かれておりました。
今作の「PLUTO」では、人間から作り出された人工物が、人間以上に人間臭くなってしまう悲しみが主題のようです。さて、謎解き以外に、こちらではどんな回答を用意するつもりでしょう?


PLUTO (2) ビッグコミックス

小学館

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