若竹屋酒造場&巨峰ワイナリー 一献一会 (十四代目日記)

何が酒の味を決めるのか。それは、誰と飲むかだと私は思います。酌み交わす一献はたった一度の人間味との出逢いかもしれません。

えべっさまに参って下さーい!

2000年07月25日 | ものおもう十四代目
「えべっさまに参って下さーい!」毎年、七月二十日頃になると町のあちらこちらから子供たちの声が聞こえてきます。田主丸に残る少し変わった祭り「えべっさま(恵比寿さま)」が行われているのです。

この祭りは小学生の男の子たちだけの手によって運営されています。まず、その区(集落)の子供達は「えべっさまをしますので、お供えをお願いします」そう言いながら家々を回り、元手を集めます。各家庭では子供達に千円程度のお金を渡したり、お菓子の袋を渡したりします。

そうして集まったお金を元に、駄菓子屋やスーパーにお菓子や袋を仕入れに行きます。買い求めたお菓子は袋に小分けして、賽銭箱の前に並べるのです。賽銭箱を置く祭壇を飾りつけ、休憩室代わりになる日陰を竹や布でつくります。

これらの作業は全て子供達の手で自主的に進んで行きます。さあ、準備が整いました。

「えべっさまに参って下さ~い!」みんな口々に大声を上げてとおりの大人達を呼び込みます。町の大人達も目を細めながら賽銭箱に100円くらいを投げ込み、恵比寿神に手を合わせて、お菓子の袋を受け取ります。

町にはこうした「えべっさま」が10箇所ほど奉られます。隣の区の「えべっさま」のお菓子袋の中身はどうだろうか?、賽銭の入りはどうだろうか?、などと情報収集をしたり、声の掛け方や調子に変化をつけたりと、子供達はさまざまな工夫を凝らしながら「えべっさま」を運営するのです。

さあ、日も暮れて「えべっさま」が終わります。最上級生の子が賽銭箱を開けるときが来ました。子供達はみんな周りに集まって、静かにその様子を見守っています。集まったお賽銭の金額が数え上げられた時、わっと歓声が上がります。お賽銭は、年齢とその日の働きを考えて最上級生が分配します。

この「えべっさま」は他の地域には見られない、ちょっと変わった風習ではないでしょうか?ここで子供達は世の中の仕組みの多くを学びます。経済の仕組みや組織のあり方を学ぶ子もいるでしょう。労働の喜びを学ぶ子もいるでしょう。

ある側面では子供達にお金を自由に扱わせることへの批判もあるかもしれません。しかし、町が、大人が優しく静かに子供たちを見守れば、「えべっさま」は我々に多くの豊さを与えてくれるだろうと思うのです。

2000.7.25