さらさらきらきら

薩摩半島南端、指宿の自然と生活

キオビエダシャク

2012-06-24 09:38:32 | 


もう2ヶ月も前だったか、庭でずいぶん派手な蛾を見つけた。なかなか敏感で近付くとすぐ逃げてしまった。それからも時々見かけていたが、6月に入ってふと気が付くと、空をいつも何匹も飛び交うようになっていた。滑空するということを知らないようで激しく羽ばたいて、案外高いところをじぐざぐひらひら飛んで行く。運動量が多いためか少しして花に舞い降りると夢中で蜜を吸い続ける。そこでやっとじっくり見ることができた。なぜか白い花ばかりに集まる。

住宅地にこんなにたくさん蛾がいるというのは珍しい。しかも真昼間に飛び回るから目立つ。さぞかし話題になっているだろうと調べたら、すぐにキオビエダシャクという名前であることが判った。



黄色というよりもっとどぎついオレンジ色だ。太い筆にたっぷりペンキを付けて、それから黒の地に無造作に丸を描いたかのようだ。この配色はあの恐ろしいスズメバチと同じだが、それよりさらに毒々しい。実際、体内に幼虫時代の食草から摂取した毒を持っているそうだ。しかしそれほど強いものではないらしく、だからこそ大げさに見せ付けているのかもしれない。



体や羽の太い脈には青色の金属光沢がある。光の加減できらきら輝いてとてもきれいだ。ともかくこれでは鳥たちにも怪しく思えて食べる気にはならないだろう。



羽の裏側を見て、表と全く同じ模様なのに驚いた。蝶や蛾ではよく表と裏は別の種類かと思うほどまるで違っていたりするのだが。また体の色もこんな派手なのも珍しい。全体が青く輝いて金属の細工物かと思うほどだ。

キオビエダシャクはどう見ても熱帯の感じで、実際沖縄など南西諸島に分布しているのだそうだ。それが本土で見つかったのはつい10年ちょっと前、2000年ごろのことという。初めは薩摩半島南端開聞岳の麓あたりで数匹というくらいだったが、翌年には乱舞するようになり、また北上して数年後には宮崎県などでも大発生するようになったそうだ。九州から飛び出すのも時間の問題だろう。

幼虫はマキの仲間の葉を食べるそうだ。このあたりではマキ(正式にはイヌマキ)の垣根が多いから住宅地で大発生するわけだ。食害は甚だしく木を丸坊主にし枯れ死させてしまうこともしばしばだそうだ。木を揺すると灰色に黒、橙色の毛虫が糸にぶら下がって雨のように降ってくるおぞましさだという。もともと青虫毛虫は鳥たちの大好物で、特に雛たちのタンパク源にするため子育てをその発生時期に合わせているほどだ。それなのにそれほど大発生するのは毒があって餌にならないためか。いや雨のように降るということは敏感で逃げ足が速いということだと思う。我が家の近所を歩いてみたらイヌマキは多いがほとんど食害されていなかった。このあたりは山と川、葦原などが近く鳥が多いので結構食べられているのではないだろうか。キオビエダシャクは蝶と見まがうほどきれいで、青空を舞う様子もちょっと不器用そうでかわいらしい。このくらいの数でならいつも身の回りにいて欲しいと思う。