スズキの宇宙語練習帖

いわゆるひとつの雑記帳です。

Firestarter

2008-09-30 02:06:51 | 随想
・とある理由により、近所の消防団に予備団員として加入することになった。救命講習を受けたり誘導訓練などを行うらしい。世界の半分は燃えている。炎を前にして人は率直であらずにはいられない。

・今月、絶対に外せないノルマとして設定されていた仕事をようやく終えることが出来た。クリティカルなバグの看過を免れたどうかは、人知の及ばぬ神のみぞ知るところだが、それでも人事を尽くすことで、その蓋然性をかなりのところまで高めることが出来たのではないかと感じる。それにしても、シミュレーション環境を構築した先輩の強まり具合が半端ない。あやかりたいものだ。
あと残された24時間で自分個人のタスクを完了すれば10月は少し身軽に過ごせそうだ。(とはいっても、かなり無理目な量なので、すでに敗色は濃厚か。人に迷惑はかからないので甘んじて受けいれよう。)

・ということで心機一転、秋からは半端にしていた勉強などを再開したいと考えている。具体的にターゲットを絞ったほうがいいだろう、ということでP=NP問題の周辺を探ってみることにした。

P≠NP

かいつまんで言葉にしてみる。まずP問題とは実際的な時間で計算できる問題であるとする。それに対してNP問題は「少なくともしらみつぶし的な方法では解決できて、またひとたび解答の候補が得られれば、それが正しいものであるか否かは実際的計算時間において判定できる」といった問題である。このクラスに属する問題で、NPであってもPではない問題というものが存在するのかどうか。これがP=NP(P≠NP)問題だ。また、現在のところNP問題であると認識されているもののうちで、応用的にも意義深い多種多様な問題がNP完全と呼ばれるクラスに属していることが知られている。すべてのNP問題は、NP完全問題である命題論理の充足可能性問題に帰着させることができるという著しい特徴を持つ。すなわち、あるひとつのNP完全問題がPであるならば、自動的にP=NPという結論が得られるのである。
例えば公開暗号鍵体系において暗号化鍵から復号化鍵を導くという逆演算、あるいはVLSIの設計において有用性の認められるある種のグラフ問題などが、このNP完全に属していることが確認されている。そして、これらのうちでひとつでもPに属する、あるいは属さないことが確認されると、先述した性質によりNP完全に属するすべての問題において同等の結果が得られるということになる。もしこの問題が肯定的にせよ、否定的にせよ解決されたならば、現実的にも大きなインパクトを与えることになるのは間違いない。
難問中の難問として君臨するこの問題に挑みかかりたいなどとは、自分に言えたものではないけれど、数理論理学や有限数学など、関連する分野の勉強をしながら最新の結果を覗いてみることくらいは、望んでみてもバチはあたらないだろう。とはいえ、このおぼつかない脚力では、数々の優れた数学者が特攻していった奈落の淵に辿り着けるかどうかすら、非常に怪しいものなのだが。特に興味あるのはサーキット計算量の話(これはちょっと仕事に関係ある)と、コーエンの強制法との関係について。

エペペ

2008-09-24 00:58:17 | サウンド
・参加ユニットであるHeliodor Recordingsにて制作に取り掛かっていたアルバム作品のマスターディスクが昨日完成した。パッケージ方面でまだ少し作業を残すものの、必要な要素はすべて揃っているので、あとは手なりでラストワンマイルを完走できそうだ。今回はテクノロジーを一新したため、各プロセスにおける負荷について多少見通しをつけにくい面があったものの、技術的な意味では良い方向に持って行くことが出来たと感じる。

がくっぽいどを購入した。ケーブルを買いにヨドバシカメラに行ったはずが、なぜか購入していた。神秘である。まだあまり使いこなせていないが、あれが素晴らしいソフトウェアであることにはすでに疑いはない。普段は作って発表する機会に恵まれないジャンルの音楽を、彼のために作って発表していきたいと思ふ。

・近頃、和食を食べに会社まわりの定食屋に行くと、決まって演歌や浪曲が流れているため、そういう音楽を自然と好きになってきた。ああいったメロディは、どうも食べ物に対する切実な感情を喚起するものらしい。煙たい店のなかで食べる魚の干物は絶品なのだ。

Endless Enigma

2008-09-09 23:18:42 | サウンド
CERN(欧州原子核研究機構)における大型ハドロン衝突(LHC)実験の開始が迫っている。
CERNといえばWWWの生まれ故郷としてつとに有名であるが、そのCERNの有志からこんな愉快なミュージックビデオがひっそりと全世界に向けて発信された。

CERN RAP@vimeo

要するに原子核を高速衝突させてぶっ壊し、そのとき出てくる汁を分析して、原子核の微細構造を調べましょうというのがLHC実験だ。全体的に最先端っぽい雰囲気ではあるのだが、しかし使われているテクノロジー緒元は、一見するとなんだか"枯れた"印象を与えるものだったりもする。
ある実験システムの、寿命がたかだか100万分の数秒程度の素粒子であるミューオンの飛跡を計測するための検出器のサンプリング周波数は、得られた情報によると、なんと1.7MHz程度に満たないものであるらしい。フロントエンド・デバイスの復帰時間といったデッドタイムを考えるとさらに効率は落ちるはずだ。しかも情報がデータバスを通過するたびに転送レートは低下の一途をたどり、最終的にアーカイブされる段階では70Hzの転送レートにまで落ち込んでいく。
また、シリコンストリップやガスチェンバやらが断続的に配置された構造も、なんだか空間分解能面での不安をかきたてる大味なものとして目に映る。
とまぁ、このように単純なハードウェア性能の数字や見た目だけで判断すれば、計測対象に比して貧弱なシステムに見えるかもしれない。しかしそこから得られた計測データに対して、物理モデルに基づいたヘビーな統計的処理を施すことにより、粒子飛跡を最もありうべき形で数値的に再構成するというプロセスが、後段の巨大な計算クラスタ内で控えている。
ために全体の最終的なシステム分解能は、実際には驚くべきレベルに達することになる。
最新のものを、任意のタイミングで、考えうる限りの最大規模で揃えることが許されるバックエンドの計算システムと違い、実体をともなう検出器ハードウェアに関しては色々な妥協が必要とされたコンポーネントであった可能性は高い。全員一致の最適解として今の形に仕上がった、とはなかなか考えにくいこの検出器ハードウェアのスペックではあるが、予算範囲内での量産ライン確保の必要性や、もしくは積極的なノイズ対策、ひょっとしたら長期にわたるプロジェクトの進行上の都合により、あえて数世代古いテクノロジーを採用した、、このアンバランス感はそんな泥臭い理由に由来するものなのかもしれない。

明日9/10が初稼動のようだが、何をどこまでやるのか、というのはよくわからない。
しかしこんなパーティ企画があるところを見ると、とりあえずのプレス向けデモンストレーションという気がしないでもない。
建設費用、運用コスト、マンパワーなど、このLHC実験にはクレイジーとしかいいようのないエネルギーが投入されていることは間違いない。物理学の閉塞を打ち破る御美事な結果をゆくゆく出してくれるにこしたことはないので、ここはファーストビームをあっさりと達成するところを見せていただきたいものである。