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Kiin Editorが結構スゴい(2)

2013-10-13 | 囲碁

機能3.コメント・参考図

画面右下のテキストエリアをクリックすると、モーダルな「コメント・参考図ダイアログ」が表示される。このダイアログ名からしてそうだが、参考図とコメントが必ず対になっていることはちょっと面白いが、このこと自体はKiin Editorの特徴というよりも、Kiin Editorのデフォルト形式であるUGFファイルの特徴と言えるだろう。
前述の検討機能とは異なり、この参考図機能はUGFファイルを直接編集する。検討の中で意味のある変化は、参考図として残しておくことができる。参考図はコメントとセットで、1局面にいくつでも追加することができる。コメント欄をクリックして編集できるのは1つだけだが、追加したい時には「参考図」タブを右クリックして「新規追加」できる。
参考図はそれぞれ一本道だが、分岐を表示させたい場合には参考図を新規追加して対応すればよい。碁狂にはおなじみの記号や番号も盤上にマークする事ができ(しかも種類が結構豊富に用意されている)、自由な石の配置も思うがまま。
なお、参考図はファイルを編集する機能なので、思わず余計な変化まで追加してしまった場合、戻ることはできても消されずにファイルに残されてしまう。そういう場合には「最終手を削除する」というボタンで削除していけばよい(※1)。至れり尽くせりだ。

Kiin Editorを見つけた時に、そのツールの名称に違和感を覚えた。「エディタ」とは通常、メモ帳や秀丸エディタ、Wordといったテキスト編集用ツールを指す。なぜ、棋譜ファイル再生ソフトが「エディタ」の名を冠しているのか。最初は特に気にも留めなかったが、この参考図作成のハイスペック振りを見て理解した。このツールは「棋譜解説書の執筆用ツール」なのだ。もしかすると、プロがこれを使って、週刊碁や囲碁クラブ碁ワールドへの原稿を作っているのかもしれない。

まとめ

機能は様々あるが、最も私がスゴいと思う点は、初見のユーザーでもそれらの機能を迷うことなく利用でき、慣れたユーザーでもスムーズに活用できるという意味で、用意された機能の魅力を十分に引き出しているそのインターフェースデザイン、そして目立ったバグがなく、ストレスなくさくさく動作するという、「ソフトウェアとしての使いやすさ」だ。私はプログラマーとしていて、いくつかのアプリケーションの開発に携わったが、これがいかに困難なことであるかはよくわかる。

ウインドウズのツールがここまで丁寧に作りこまれているというのは、囲碁研究にコンピュータは不可欠ということを象徴的に表している。最近のエントリでも触れた若手の躍進は、もしかするとコンピュータの活用こそがキーポイントだったのだろうか?
Kiin Editorが無料で公開されている今、アマチュアとしてはぜひしっかり活用させてもらって、囲碁界の裾野を広げていかなければならない。







注1:ちなみに、UGFファイルを直接メモ帳で編集するのはなかなか骨が折れる作業なのでオススメはしません。

Kiin Editorが結構スゴい

2013-10-12 | 囲碁
棋譜ファイルの再生ソフトはCGobanを使っていた。起動に少し時間がかかるのとUIのJava臭さ以外には特に不満はなく、特に局面の分岐の検証に関してはツリーで分かりやすく管理できることは魅力だった。
最近、棋譜ファイル再生ソフトを人に勧める機会があったので、改めて最近出たよいツールはないか、と探してみたのだが、日本棋院が無料で公開している「Kiin Editor」を見つけた。
私は有料アプリは余り試していないのでアプリ全体の中での比較はできないが、無料としては文句なしの素晴らしいアプリだと思う。
以下、特筆すべき機能について勝手に簡単に説明したい。

機能1.「形勢判断」

地味に驚かされたのはこの「形勢判断」機能だ。こういう機能は性能が全てなのだが、計算時間ゼロで一瞬で判定結果を出してくれるこの形勢判断はなかなか高性能に思える。もちろん、生き死にの微妙な判定については完璧にできるわけもないのだが、中押しで終わった棋士の対局について、だいたい何目差なのかをわざわざこちらで数えることなく一瞬でほぼ正確に判定してくれるのは助かる。
この機能に関してはちょっと鳥肌が立つようなエピソードがあったので一つ紹介したい。

10月4日にネットで行われたらしい、ナショナルチームの強化対局として非公式に行われた対局、一力(黒)と張の対局が元ネタ。終盤、黒が13の五の利かしを打って白18の一に受けさせた場面でこの形勢判断機能を使うと、黒が8目半勝ちとリードしている(図1)。


図1:172手目(クリックで拡大)

しかし、ここで黒が左辺のハイがおかしかったらしく、白が中央に一手入れた瞬間に形勢判断を行うとなんと白11.5目勝ちと表示された。


図2:174手目(クリックで拡大)

黒がノゾいた瞬間では、黒が再び1.5目勝と表示されたが、


図3:175手目(クリックで拡大)

白がツイで再び「白11.5目勝ち」。ここで一力は投了したようだ。


図4:176手目、これを見て黒投了(クリックで拡大)

ここで投了する時なのか、私には判定できないし、どう打てばよかったのかと言われても知るすべはないが、少なくとも勝ち負けの判断を1手単位で判断できているケースがあるということだ(注1)。
プロの棋譜を並べる時にも、中盤でこの「形勢判断」機能を使うと的確な状況判断をしてくれるのでとても参考になる。算出のアルゴリズムはわからないが、どこを地とみなすかが明確にわかるこの機能は、自分で打つときの形勢判断の参考にもなりそうだ。

機能2.「検討」

任意の局面で「検討」ボタンを押すことで、盤の色が変わり検討モードに入る。
検討モードでは実戦とは違う手を打った時にどうなるかを自由に検討することができる。
編集モードではないので、元の棋譜ファイルを汚すことにはならないというのはささやかながらとても嬉しい仕様だ。こういう仕様は、しっかり棋譜アプリを実用的に使っている人の要望がストレートに反映されたものだろう。
例えば、CGobanで棋譜並べ中に、ふと「こう打ったらどうなってたの?」と感じた時には、その棋譜ファイルに手をつけて棋譜ツリーに新たな分岐を加えるしかない。当然ファイルは編集されてしまう。しかし、Kiin Editorなら、「検討」ボタンを押してそこから自由に検討を加えることができる。アプリのおかげで、ファイルが汚れることもない。布石や定石でプロが手抜きをした際に、もし手抜きを咎めた場合にはどうなるか、というのは本当に簡単に確認できる。攻め合いや生き死にの確認には言うまでもなくぴったりの機能だ。
嬉しいのは、ここで作成した検討図に対しても上記の「形勢判断」機能を利用できるということだ。実戦譜とは違う流れを作って、一段落して「形勢判断」。すると、これが実戦と比較してよいのか悪いのかを判定できる。
一人で研究している際にも客観的な指標が欲しくなるものわけで、一つの参考としては十分過ぎる有難い機能だ。

散々並べて検討しつくして満足したら、「検討終了」ボタンを押せば何事もなかったように元の局面に戻り、検討図はもう跡形もなく消えている。これをデメリットと見る向きもあるかもしれず、今後の課題かもしれない。
検討の結論をファイルに残しておくためには、後で触れる「コメント・参考図」機能を用いることになる。

(長くなったので続く)





注1:コンピュータ将棋では、先端の将棋ソフトがトッププロを倒しているというところまで進化してしまっているが、コンピュータ囲碁も9路盤で「電王戦」が行われているようだ。囲碁も近い将来、人間がコンピュータに教えを請うことになるのだろうか、とつい未来に思いを馳せてしまう。

若手の台頭

2013-10-06 | 囲碁
将棋は昔から若手が強く、新四段が九段に勝つなんてことは当たり前だったという印象だ。
一方で囲碁は初段からプロということで、初段は九段には三子でも勝てない程の実力の差があったように思う。「これが囲碁と将棋のゲーム性の違いか」などとなんとなく納得していたのだが、将棋のタイトル者がキレッキレで迫力を感じる程であるのに対して、20年前くらいのトップクラスの囲碁棋士たちは失礼ながらなんかちょっと見劣りするなあ、という印象だった。

そしてそのように囲碁界の若手が元気がない状態が続いている間に、中国、韓国の棋士はメキメキ実力を増し、既に日本の棋士はどんなビッグネームであっても全く太刀打ちできなくなっていた。日本棋界の権威は地に堕ち、世界戦では中韓の棋士の名前ばかりが並び日本の棋士の名前を見かけない、屈辱的な状況になっていた。
例えば、「テレビ囲碁アジア選手権」という大会の過去の結果は象徴的にそれを表している。これは1989年にはじまった大会で、昨年までで毎年一度、24回開催されている。前半の12回で日本の棋士が優勝したのは、12回中9回。4回に3回の割合で日本棋士が優勝していたのだ。しかし、後半の12回のうち、日本の棋士が優勝したのはなんとたったの1回だけ。この24年の間の、世界の囲碁界の勢力地図は見事に塗り替えられてしまった。

しかしここ最近は囲碁界はガラっと情勢が変わっている。中年を過ぎたおじさん棋士達がタイトル保持者に名前が載り続けることはなく、今や井山五冠・山下名人を筆頭に、30代以下、特に10代~20代前半の若手の勢いが素晴らしい。
そして、中韓一色だった世界戦のタイトル保持者名にも、日本の棋士の名前を再び見ることになった。先に例にあげたテレビ囲碁選手権も第25回に実に8年ぶりに日本の棋士(井山)が優勝を勝ち取った。韓国のトップ棋士との決勝戦で堂々の勝利だから、偶然でもなんでもない。

さてこれはどういうことなのか。少なくとも、囲碁のゲーム性(「左脳だけではなく右脳もバランスよく使う」「歳をとってもあまり弱くならない」「ヨミの深さよりも経験量がものを言う」etc)はかつての状況の根拠にはならないということだ。
そして、囲碁の素質を持った若手が毎年同様に存在するとするのであれば、それを現在のように飛躍させるか、あるいはその才能を潰してしまうか、の違いを生んだのは「教育環境」だったのではないか。

会社に入った新人がどのように成長し、その会社に根付いていくかは、その会社の教育方針が全てだ。若手の可能性を潰すような教育しかできない無能な管理職しかいないと、その部署には何の熱意もなく、ただ上の言うとおりに動くだけのゴミのような社員だけが「育って」いく。
日本棋院における、若手や院生に対する指導がどのようになされていたのか、私の知るところではないが、かつての棋院もそのような会社と似たような状況になっていたのかもしれない。そして今、かつて多大な影響力を持っていたスター棋士が一線から姿を消し、若手が伸び伸びと自由に研究できる、健全な環境が生まれた。今後の日本棋院が、世界の囲碁界の中でふたたびその輝きを取り戻せるようになることを期待したい。