佐藤さえ の 本棚

読んだ本の感想を書いています。

帰ってきたヒトラー(映画)

2016-07-30 22:05:56 | 映画
帰ってきたヒトラー(映画)

「私を選んだのは、国民だ」☆☆☆☆


 ヒトラーが2014年現在にタイムスリップしてしまった。ヒトラーの扮装をした役者さんをつれてドイツ国内を巡り、市民と語らう姿をドキュメンタリーで撮影した映像を多用している凝ったつくりの映画。一緒に写真を撮りたいとはしゃいだり、挙手の礼をする中東出身と思われるの人々がいたり、もちろんあからさまな嫌悪を見せる人と、役者ではない人たちの反応がいろいろで興味深いです。

http://gaga.ne.jp/hitlerisback/
帰ってきたヒトラー 映画公式サイト


 以下、個人的な感想です。映画の重要な部分が分かるところがありますので映画を見ていない方はご遠慮ください。

 実は、「第二次大戦時のドイツの軍服を映画館で見ることができる貴重な機会だな」という動機で行くことにした映画です。
 あまり衣装は出てきませんでした。

 そんなよこしまな期待を持って言った映画でしたが、館内ほぼ満席でびっくり。(人気があるとは思わなかった)
 笑うシーンもみんな笑わないのでどっきり
 最後館内の雰囲気が暗い感じで、クレジットが終わるまで誰もたたず、館内が明るくなってから一言もしゃべらずに映画館を出ていったのにもびっくりでした。

 明るい幕引きじゃない映画だしね。

 映画の中でテレビ局内の場面。スタッフを集めてスタッフみんなでタブー視されていた人種差別ネタを作成するところがあったのですが、その冗談にさすが館内の誰も笑いませんでした。
 切り込んだ割に全然面白いネタじゃなかったし、映画の中で上司が噴き出したりしてるんですが、何が面白いかわからなかったです。(ドイツでは面白いのか?)

 あとヒトラーが犬を銃で打ち殺す場面や、犬の死体を繰り人形のように扱ってザヴァツキをからかうシーンも全然笑えなかった。
 そして、これが重要な場面。
 
 映画でえがかれている「ヒトラー」って男性の性格は、上記のことを平気でして反省がない人物。

 しかも、この銃で打ち殺す場面の動画はテレビ制作の内紛に利用されて、出演番組で放送され国民に知られることになる。
 みなから批判され、ヒトラーはテレビ出演を干される。

 でも、ザヴァツキは稀代のコメディアンとしてヒトラーを支持し本を書かせヒットさせる。
 ヒトラーはそのお金を動物保護団体に寄付してみそぎを済ませ、また表舞台にもどってきます。

 テレビ局勤めの3人 サヴァツキ、ゼンゼンブリンク、リーマンは、結局視聴率を稼ぐため「ヒトラー」を番組に返り咲きさせてしまう。
 テレビをあんなにバカにされたのに、「ヒトラー」が主張することを「テレビで放送していいのか」をほとんど考えずに、視聴率が稼げるために喜んで「プロパガンダ」の片棒を担いでしまう。

 ヒトラーの秘書がわりを勤めていたクレマイヤーが、サヴァツキとヒトラーを家に招待したところ、クレマイヤーの祖母(認知症を患っている)がヒトラーを見て叫びます。
「私の家族をガス室で殺したのを覚えている。出ていけ」
 そして動揺するサヴァツキにヒトラーは「迫害するのは今は時期ではないからしない。それからクレマイヤー嬢のユダヤの血は薄いから問題がない。」等、差別的な発言をあたりまえのように笑顔でします。
 その言葉を聞いて強い嫌悪を覚えるサヴァツキ。
 最後サヴァツキだけが、今まで物まね芸人だと思っていた人物がヒトラー本人であるという結論にたどりつき戦慄。
 サヴァツキはヒトラーを国民の前で演説させることの危険性に気が付き、病院で暴れヒトラーを取り押さえようとするのですが、精神病と判断され格子付きの病室に隔離されます。

 「私を選んだのは、国民だ」
 ヒトラーは、オープンカーでリーマンと通りを行きます。市井の人々の笑顔や挙手の礼や握手を求める人々に囲まれている様子が映されて映画は終わります。


 時事ネタがあまりに効果的に突っ込んであって、怖くて笑えない映画でした。(時事ネタはあまりに怖くてこの感想では書けなかった。)

 ウルトラマンの怪獣の着ぐるみを着た女学生の投稿が新聞に載ったことがあります。
「大人の男性まで私をたたいて喜ぶ。子供が叩いてくるのはしょうがないけれど、中に人間がいるのが分かっていて大人まで叩いてくるのでとても悲しかった」
 という内容です。

 この映画でヒトラーの役者さんを笑顔で見ている人たち、いっしょに写真を撮る人たちは、彼がヒトラーでなくて「役者」であることを知っているからこその行動であって、本物が居たとしたらやはり嫌悪の目を向けていたろうと思います。
 まるでヒトラーを受け入れたように映画の宣伝などでは書いていますが、まあそこまでは当たらないでしょう。(扇情的になるようにわざとそう書いたのかも)

 ただ、吐き出される「国に対する不満」はたぶん「本当」なんだろうな、と思うとやっぱり怖いです。
 この映画、良くできているし面白いですが、たしかに見た後は不安になる、キャッチコピー通り「笑うな危険」な映画です。

 公式サイトで「打ち殺された犬」が生きている可愛らしい姿で真先に出てくるんです。
 やっぱりあのシーンが映画のヒトラーの性格を端的に表しているから注意喚起のためなの?ブラックユーモア? 
 映画を見る前公式サイトで見たときは「ヒトラーが可愛がる犬なんだろう」と思ってたんですが……全然違った!

 笑ったり、勧善懲悪を求めてみるならおすすめできない映画です。
 映画らしい問題提起が好きな方には断然おすすめです。すごくスケールがでかい問題提起だもの。


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