「ちゃんと右側通行ってかいてあんだろぉ、よお」
と、通路の壁の標示を指しながら一方的に50代半ばくらいの男性が、30代前半くらいの男性の胸ぐらを摑み、
壁にその男性の身体をジリジリと押し付け、執拗に同じセリフを繰り返し、詰め寄っている。
2018年5月○△日夕刻、新宿三丁目駅の地下鉄丸ノ内線ホームと副都心線ホームの連絡通路の階段付近でトラブル勃発。
私が丸ノ内線ホームから副都心線ホームへと、連絡通路の階段を降りる直前の目の前で始まった突然の出来事だった。
平日ラッシュが始まろうとする時間帯で既に混雑している中、人の流れに乗ってしまっているので、体がそのまま流れに流されていく。
それでも、背後から先ほどの詰め寄る男性の声がしつこく響きわたる。
こんなとき、格闘技の心得があれば、格好良く、君やめたまえ。と2人の間にスッと割って入り、そいつの腕を摑み止めるのだが…
(相手にこいつデキると思わせる感じで、あくまで相手に威圧感を与え止める方法で)いや、へんな妄想はやめ。
こんなときは、自分自身に危害が及ばないためにも、駅員を速やかに呼ぶのが妥当だ。
多くの人はちょっとだけ驚き、そのまま黙視してその場から立ち去る。それが自分も巻き込まれないための一番の安全策だと言わんばかりに。
それか、なんとも感じないかだ。
自分はこういうときにぞわぞわしてしまい、駅員さーんと心の中で呼びながら一旦階段を降りきり、副都心線ホームで辺りを見回す。
が、都合よく駅員がいない。しゃーない、Uターンして元来た階段の隣にあるエスカレーターを駆け上がった。
横目で先ほどのトラブル現場を通り過ぎる。男性の声がますますエスカレートしている。
こいつはマズイ!丸ノ内線ホームの階段を急いで駆け上がり、改札の駅員めがけダッシュ!突進した。
駅員さーん‼︎既に駅員のそばにいる1人の客が一報を告げているようで、駅員が電話の受話器を手にしていた。
それでも駆け出し駆け上がって息が切れている中、言わずにいられなく
「下でトラブってます‼︎早く止めないとマズイ!」
駅員は
「わかったわかった」
こちとらそんなの日常茶飯事よ、といったふうな少々うんざりげな表情を浮かべ、電話でスタッフに知らせている様子だった。
私の役目は終わった。
少し、ホットし元来た道を戻ろうとした。すると、先ほどの駅員とのやり取りを見ていた人が声をかけてきた。
「告げてくれたの、ありがとう」
お礼を言われる筋合いはないが、
「かなりヤバイっすよね」
とだけ一言ことばを交わし、階段を降りた。
こんだけの人がいて駅員に通報する人(しようとした人)は、ほんのわずかだが、いた。
いや、みんな軽く見過ぎだと思う。
昔、山手線池袋駅ホームで、一方的に見知らぬ男性に殴られ、ホームに後頭部を打って倒れた大学生が死んだ事件がある。
犯人は未だ捕まっていない。沢山周りに人がいたというのに。
そんなことを瞬時に思い出した。
先ほどのトラブル現場には、もう2人の姿はなかった。
駅員が駆けつけて止めたのか、誰か救世主の強者が現れたかのどちらかだ。
おそらく、もう大丈夫と思おう。