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ゆらゆら荘にて

このごろ読んだ面白い本

「四維街一号に暮らす五人」 楊双子

2025-08-17 | 読書日記

「台湾漫遊鉄道のふたり」の楊双子の新作
「四維街一号に暮らす五人」(楊双子著 2025年7月 中央公論社 247p)を読みました。

今回も舞台は台湾。

5人の女性が暮らすのは
日本が統治していた時代に作られた古い日本家屋。
障子があり、襖があり、雨戸がある。
生活音は筒抜け。
トイレもシャワールームも台所も共用で
5人はいつもお互いの気配を感じながら暮らしている。

大学院1年生の2人
乃云は人付き合いが苦手
家家はコミュニケーションに長けているが苦学生で
他の住人との金銭感覚の違いにしばしば傷つく。
大学院2年生の2人
知衣は浮世離れした言動をする学生作家
小鳳は料理上手なお嬢さま
この家に出るという幽霊を怖がっている。
大家の修儀は30代

それぞれに悩みを抱えている大学院生4人が
距離を縮めたり
また遠ざかったり
一緒に食事をしたり(前作と同じように「食べる」シーンがいい)
ひとりで食事をしたり
それを見守る大家の修儀
百合小説というよりは距離小説。

そんなに明るいばかりではない人物たちが
独特の「溌剌とした」語りで語られるのが
(訳がいい?)
楊双子の魅力です。

わたしは知衣推し

著者が影響を受けた本に
「舞妓さんちのまかないさん」(コミック)とありました。

 

 

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「ミュージアムグッズのチカラ」大澤夏美

2025-08-15 | 読書日記

「ミュージアムグッズのチカラ」(大澤夏美著 2021年7月 国書刊行会 140p)を読みました。

大学院でミュージアムグッズの研究をしたという著者が
(北海道在住)全国のミュージアムを巡って書いた本です。

棟方志功記念館
もりおか歴史文化館
印刷博物館
などというマニアックなところから
東京国立博物館
上野動物園
というメジャーなところまで

各館のミュージアムグッズ担当者や学芸員にインタビューしているのが
読みどころ。

南部藩の歴代の殿様の絵が型抜きしてある「殿様一筆箋」
(もりおか歴史文化館)
とか
博多人形の猫が美術館のロゴ入りの紙袋をかぶっている「福かぶり猫」
(福岡市美術館)
とか
徳川家康が作らせた活字を模した「駿河版活字シュガー」
(印刷博物館)
とか
「金印スタンプ」
(福岡市博物館)
とか
棟方志功の釈迦十大弟子のスタンプ
(棟方志功記念館)
とか
「リアル年縞ネクタイ」
(福井県年縞博物館)
とか

ああ、現地に行って買いたい!

 

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「乱歩と千畝」青柳碧人

2025-08-13 | 読書日記

「乱歩と千畝」(青柳碧人著 2025年5月 新潮社 378p)を読みました。

杉浦千畝
リトアニア大使館に勤務していた時
ヨーロッパ各地から逃れてきた難民を
日本経由でアメリカなどに逃れるためのビザを発給して救った

江戸川乱歩
推理小説作家
戦後は評論家、プロデューサーとしても活動
日本探偵作家クラブを創設
乱歩の寄付した100万円で江戸川乱歩賞が制定された

早稲田大学の近くにある蕎麦屋でのこと。
古本屋だけでは食べていけなかった乱歩は
経営している夜鳴きそば屋で出してみようかと
評判のカツ丼を食べに入ったその席で
お金がないから
とかけ蕎麦を食べていた千畝に
カツ丼を分けて
親のすすめる医学の道に行かなかったばかりに苦学している千畝に
好きな語学の道に進むようにと
たまたま手元の新聞にあった
「官費留学生候補ヲ求ム」という外務省の広告を見せる。

これが2人の出会いだった。

彼らの妻がいい。

乱歩の文通相手から押し掛け女房になる隆子
千畝の最初の妻のクラウディア
2人目の妻の幸子
クラウディアは言う。
「この先迷うことがあったら
優しいと思う選択肢を取るのよ。
あなたは、そういうふうにしか生きられないのだから」
悩む千畝に幸子は言う。
「あなた方(千畝と乱歩)には才能がある。
そして、才能を生かせるステージに立っている。
それなのに
ちょっと自分の納得のいかない仕事だからっていじけてみせたりして
贅沢なのよ!」


もうちょっと全体に刈り込んだ方がいいようにも思うけれど
刈り込んだら
よさが消えてしまうのかもしれません。

 

 

 

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「非在の街」 シェパード

2025-08-08 | 読書日記

「非在の街」(シェパード著 2025年4月 東京創元社 419p)を読みました。

ハードボイルド?
と思うようなタイトルですが
ファンタジーミステリです。

登場人物はみんな地図学者
(頭の中は地図でいっぱい)

主人公のネルは
本意でない毎日を送っている。
父はニューヨーク公共図書館に勤める有名な地図学者
母はネルが幼いころに死に
ネルは父に育てられた。
母も地図学者だったという。
成長して地図学者になったネルは
インターンとして務めていたニューヨーク公共図書館で
ある地図のことで父と口論になり
(父も母も頑固者で
ネルもその血を引いている)
仕事を首になってしまったのだ。
そのことは学会中に知れ渡り
かろうじてネルは今の仕事に潜り込んだ。
印刷した地図に古色をつけて売る
という仕事……

ある日、父が殺される。
次の日には
公共図書館の警備員が殺される。
数日後には理事長も……

父が死んだ日
ネルが引き出しから持ち出した一枚の地図が
関わっているのかもしれない。
古地図ともいえない平凡な道路地図が……

ネルの母と父が
地図学を学ぶ大学生だったころのグループの活動が
生き生きと描かれています。
(人物の描き分けもみごと)

墓穴を掘りがちな頑固者ネルも魅力的です。

 

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「庭の話」 宇野常寛

2025-08-03 | 読書日記

「庭の話」(宇野常寛著 2024年12月 講談社 365p)を読みました。
私が手にしたのは第5刷ということなので、だいぶ売れているようです。



園芸の本ではありません。

言葉にして話さなかったけれど、胸の奥にある小さな違和感を解いてくれる。
そうだねと思う部分もあれば
そうかなと思うところもある一冊です。

人間には「承認されたい」という欲求がある。

一つ前の世の中は
それはモノによってなされていた。
車を持つこと
ブランドのバッグを持つこと
好きなブランドの服を身に付けること……
それは
それを直接目にした人にしか伝わらない「承認」だった。
(そのバッグや服のよさを感じて
身に付けるのはまた別の話)

今は
「承認」されるのにお金はいらない。
体験したコトを
SNSに投稿し
それに対して
「読んだ」「いいね」が押されれば
承認されたことになる。
何なら独自の体験はなくても
誰かに(インフルエンサーとか)乗っかればそれは叶う。
それが「自分が世界に素手で触れているという実感なのだ」

トランプ現象がそれだ。
「トランプは間違っていることや嘘を述べているからこそ
人びとを惹きつけているのだ
人びとが求めているのは
倫理的に正しいことでもなければ
政策的に賢いことでもない
ただ、自分が世界に
素手で触れているという実感なのだ」
(なるほど)

呑み会というものが嫌いだ
と著者は言う。
人が集まれば
序列が生まれ
共通の敵があればあるほどまとまりは強くなる。
(そうそう)

「ほぼ日」のモノは
どうしてあんなに高いの問題にも言及している。
(別に買わなくても
疎外されるわけではないけれど)

孤独と
戦争に関しては
そうかなと思う部分が多い。


私が知りたいのは
コトの「次」はどうなるの?
ということ

庭は
生えるにまかせず
もう少し強めにアプローチしようと思います。

 

 

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「黒ばら先生と秘密のはらっぱ」 木地雅映子

2025-07-29 | 読書日記

「黒ばら先生と秘密のはらっぱ」(木地雅映子著 2025年7月 中央公論社 190p)を読みました。

主人公は保育園に通っているはんな
でも
児童書ではありません。

あの保育園生活は
現実だったのか
それとも現実ではなかったのか……

定員いっぱいの子どもが
ぎゅうぎゅうに詰め込まれていて
古い本しかない
おもちゃの数も少ない
意地悪な園長と疲れ切った先生たち
の保育園

そんな保育園に現れたのがローズ先生だ。
明るい灰色のベリーショートの髪
長いまつ毛に囲まれた緑色の目
父は日本人ですが……
と言うローズ先生。

古い本しかないからつまらない
と思っていた園の本棚から
ローズ先生は
園児向けの月刊誌だった時代の古い「ぐりとぐら」や
はんなの知らない「ぐりとぐら」シリーズの「ぐりとぐらとすみれちゃん」を
ひょいと引き出してみせる。

(はんなは、2才の時に母が死んで
父と祖母と3人で暮らしている。
祖母ははんなを嫌っていて
父は仕事が忙しい。
はんなと
カレー屋を営む両親を持つサミールは延長保育の常連だ)
お迎えの遅くなった日
はんなはローズ先生と「はらっぱ」に行った。
世界中のお迎えの来ない子と
ぐりとぐらやリサとガスパールやバムとケロのいるはらっぱ。

それからも
はんなの日々には
つぎつぎとステキなできごとが起こる。

15才になったはんなはサミールに再会する。
サミールのママの見せてくれた写真には
大嫌いなおゆうぎ会に参加しているはんなの姿があった。
抜け出していたはずなのに……
はんなはサミールに聞けないでいる。
「ローズ先生って……」
「ああ、ローズ先生っていたよな」
って言われたらどうしようと思うから……

悪役(園長とかおばあさんとか)が悪役としているのも
小気味良い。

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「魔女裁判の弁護人」 君野新汰

2025-07-27 | 読書日記

「魔女裁判の弁護人」(君野新汰著 2025年6月 宝島社 373p)を読みました。

魔女とミステリ
マッチするのかな?
と思って読み始めたら
これが面白い。

ある村で
1組の夫婦が死ぬ。
食事をしていたら突然倒れたのだ。
数日後、水車番の男が死んだ。
村の魔女委員会はアンという女性を犯人だとし
アンは魔女だということになって
魔女裁判が行われることになった。

エルンスト大学の元教授ローゼンは
アンに会って
一目で「魔女ではない」ことを見抜き
弁護人に立候補する。
ローゼンには
魔女裁判にかけられた恋人を救うことができなかった
という過去があるのだ。

体の不自由な使用人ばかり雇っている領主
赴任したばかりの若い司法官
動くと骨が鳴る体を持つ神父
神の言葉を告げる託宣師
村長
……
船頭が多すぎる……

ローゼンと領主ランドセンの
理屈っぽい会話が面白い

と327pまではよかったのだけれど

このどんでん返しは
必要だったのでしょうか。
何だかすごく気持ちが悪いどんでん返し……



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「父、松本竣介」 松本かん

2025-07-23 | 読書日記

松本竣介の絵が好きなので
「父、松本竣介」(松本かん著 2025年1月 みすず書房 365p)を読みました。

 

著者は松本竣介の次男です。

読み進めるのが辛くなるほど、松本竣介の人生は困難に満ちている。
1912年、岩手県に生まれた竣介は
盛岡中学に入学直後、脳脊髄炎に罹り
回復するも、耳が聞こえなくなる。
それでも聾学校には行かずに1年後、盛岡中学に復学した。
読書家だった峻介は、それまでの読書の蓄積を助けに必死に学んだが
英語などの学習はやはり困難だった。
15歳の頃、兄が送ってくれた油絵の道具がきっかけで
峻介は絵を描くようになる。
17歳のとき、盛岡中学を退学し上京し
太平洋画研究会に入学する。

不思議なのは、仲間が喫茶店に溜まって議論するのに加わっていたことだ。
口の動きで分かったのだろうか。
日ごろは筆談を用い
その後家族との会話は空中に相手が書くカタカナを読み取って
返事を言葉にしていたという。

東京ではいろいろな人と交流し
頼まれて編集の仕事をしていた。
そこで禎子と知り合って結婚する。
禎子の親類は
「耳の聞こえない絵描き」という青年との結婚に反対したが
母がそれを押し切り
女だけの松本家に峻介は婿入りする。

結婚後2人は月刊誌「雑記帳」を発行するも
売れなかった。
「雑記帳」は14号で廃刊になり
返本の山が家にあった。
峻介はそれを風呂の焚き付けにしていたという。
どんなに悔しかったことだろう。

それは
絵で立っていこうという決意を固めるきっかけになった。

戦争が激しくなって
家族は松江に疎開
峻介は東京に残って仕送りをする
という生活が始まる。
戦争中は理研科学映画の描画員などの仕事をしていた。

終戦後の方が生活は大変だった。
食料は乏しく
インフレでものの値段はどんどん上がる。
この戦中戦後の過酷な生活が
竣介の身体を蝕んでいた。

家族が東京に戻って来て間もなく
松江に行ってから誕生した長女が2才で死んだ。

1948年竣介も36歳で結核のため死去する。
困難な戦中戦後の生活の中でも
峻介は絵を描き続けていた。
(土に埋めておいた絵の具が役に立った)

結核は息子のかん、妻禎子、二女にも感染しており
その治療に禎子は辛苦する。
(かん氏は治療の後遺症で片耳を失聴)

松本竣介の絵は少しずつ知られるようになり
美術館等に収蔵され
作品展も開かれている。

松本竣介の絵の
音のない世界が好きです。

 

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「心のゾウを動かす方法」 竹林正樹

2025-07-18 | 読書日記

著者のトークを聞いたら、あまりにも面白かったので
「心のゾウを動かす方法」( 竹林正樹著 2023年10月 扶桑社 251p)を読みました。

著者は
人の直感を
「働き者だけれども、本能的で力が強く
自分が大好きで、せっかちで、
面倒くさがり屋」
=ゾウ
理性を
「賢くて落ち着いているけれど
出現にはエネルギーが必要なので滅多には出てこない」
=ゾウ使い
と考える。

ゾウには色々な習性(バイアス)がある。
◯現状維持バイアス(現状維持を好む習性)
◯正常性バイアス(予想外の事態でも、正常時と同様の判断をしてしまう習性)
◯楽観性バイアス(自分は大丈夫と根拠なく楽観視する習性)
◯同調バイアス(他人と同じ行動をしたくなる習性)
などなど他にもいろいろある。

これらの習性を踏まえつつ
肘でちょっとつついて
行動を促すという考え方がナッジだ。

前半は
役所から届いたチラシを見ても健診を受ける気にならない場合の
チラシの問題点を
ナッジの考え方で
一つ一つ考察していく。
(ここが面白い)

後半は
◯ミスを減らすためのナッジ
◯ダイエットのためのナッジ
◯消毒液を使ってもらうためのナッジ
などなどの事例が語られている。

合言葉は
わたしもゾウ
周りの人もゾウ
(と唱えることにしよう)

2002年に
行動経済学者がノーベル賞を受賞していた
とは知りませんでした


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「ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け」平松洋子

2025-07-13 | 読書日記

「ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け」(平松洋子著 2023年1月 新潮社 379p)を読みました。

朝、4時半に起き
6時から走り
夜20時まで執筆する
という脅威の体力を持つ著者。
(1958年生まれ)
これまでも「食」に関するものをいろいろ書いてきたけれど
今度はいよいよ「アスリートと食」

取材したのは
相撲
プロレス
駅伝
バスケット
陸上
サッカー
……

職業としては
管理栄養士
体組成計開発チーム
プロテインの開発者
研究者
評論家
編集者
もちろんアスリート本人も

たくさんの人に取材すればするほど
「食」に対する考え方はいろいろで
まだ、これだ、というものはない
のが面白いところ。

バランスのよい食事というけれど
「人類はすべての栄養素を見つけているわけではありません
食品に含まれる化学成分は約20万種類
機能性成分として候補に上がっているのは約200」
と栄養外来を開いた医師の中村丁次は言う。

「今の身体は3ヶ月前の食事なんだよね
3ヶ月後にどうありたいかを考えれば
食事の仕方はおのずと変わってくる」
と言ったのは
子供のころ
「なんでなんで小僧」と呼ばれていたという管理栄養士の鈴木志保子。
選手に応じた食の指導をする。

同じものを食べたとしても
人によって
消化能力も
必要としている成分も違うからだ。

「食」は鍵
でも
まだまだ未開拓の分野であるらしい





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