day by day

癒さぬ傷口が 栄光への入口

海堂尊 「螺鈿迷宮」

2009-01-17 | ホン。
で、年末年始は海堂尊祭(笑)だったわけです。
年末に東京へライブ遠征していたのですが旅のおともに「ナイチンゲール」の上下巻と宮部みゆきの「日暮らし」上中下巻 合計5冊の文庫本を携えておりました。
ところが「ナイチンゲール」を読み終わると、解説に『この作者の作品は刊行順に読んで欲しい』と書いてあり、(田口白鳥シリーズの)宝島社だけでなく色んな出版社から刊行されている作品名が羅列されている……。

迂闊にも私は海堂尊の作品がすべて同じ桜宮市を舞台にした作品群なのだということをこの時初めて知りました。

「なんですとぉ」

と思っているタイミングでたまたま書店に寄ったのが運の尽き。
そこにはちゃあんと「螺鈿迷宮」の文庫が鎮座ましましておられたのです。
うっかり買ってしまいました。
そんなわけで、宮部みゆきの3冊があるにもかかわらず新しい本を追加して私の旅のお供の文庫は7冊になってしまったのです。「日暮らし」はさておいて「螺鈿迷宮」を先に読み始めてしまったのは言うまでもありません。
ちなみに、「螺鈿迷宮」を読み終えてその余韻に浸ったり「ナイチンゲール」を読み返したり(そうしたくなるマジック)しているうちに正月休みが終わってしまい、結局「日暮らし」はまだ読めてません……。
ぼつぼつ読み始めてるところへ「ジェネラル・ルージュの凱旋」の文庫が出てしまったのでまた「日暮らし」は先延ばしです。せっかく佐吉さんに萌えてるとこだというのに<知らんて


 ←これも単行本の方。私が読んだのは上下巻の文庫です。

《あらすじ》
東城大医学部の落ちこぼれ医大生・天馬大吉。名前はおめでたいが、名前負けとでも言うのかとにかく運が悪い。悪いどころか不運に不運が重なり最終的には大きな災厄に見舞われてしまうのが常。
そんな大吉に幼馴染の新聞記者・別宮葉子がアルバイトをもちかける。
桜宮市の終末医療を引き受けている「碧翠院桜宮病院」にボランティアとして入り込む潜入取材である。
渋る大吉は学生仲間との麻雀のさなか、カモにしようと思った50がらみの男・結城に逆に大負けしてしまい借金を負わされる。その借金の代わりとして、桜宮病院で行方不明になった結城の娘婿であり部下である立花を探索する仕事を押し付けられ、やむなく葉子の依頼と結城の指令のため桜宮病院に潜入する大吉。
子供の頃から「でんでん虫」と呼ばれた風変わりな形の建物の病院の内部へ入り込むとそこには患者でありながらボランティアとして働く老いた患者たち。
そして戦争を体験してきたという頑固な老院長・桜宮巖雄とその双子の娘たち・小百合とすみれ。

ボランティアとして潜入したにもかかわらず、大吉はその不運体質のせいか、トロい看護師・姫宮のドジに度々巻き込まれついには骨折に大火傷で入院する羽目になってしまう。そして現れた怪しい皮膚科の医師・白鳥。
しかし、その間にも一見元気にボランティアに励んでいた末期患者の老人たちが次々と亡くなってゆく。

「この病院、絶対変だ。人が死にすぎる」

次第に大吉をも飲み込もうとする「桜宮の闇」とは───



「ナイチンゲールの沈黙」の中でその一端を垣間見せた、「桜宮の闇」。
本作はそこへ真正面から切り込んでゆく。

濃密で、どこか黴臭く、息苦しいほどの「闇」。

この院長が「小夜」に分け与えたのはこの「闇」だったのだ。


そして怪しい皮膚科医として登場する白鳥圭輔と、これまで名前しか出てこなかった「氷姫」こと姫宮の満を持しての登場。彼らの活躍(疑問符付き)は、暗い深みへ沈みがちになる物語をそうなり過ぎないように救っている。
そしてすでに白鳥・姫宮を知っている読者は彼らが登場した際にニヤリとするのだ。その伏線は「ナイチンゲール」で既に引かれたものだったのだから。
また、ここに登場する大吉の幼馴染・別宮葉子も「チーム・バチスタ」の時から名前だけは登場していた新聞記者。こんな風に少しずつ他作品との関連が見えて、勿論単体としても楽しめるが他も読んでいればもっと楽しめる。

本作では作者が一連の作品群で重要性を主張するAIや解剖や終末医療、自殺志願に自殺幇助、犯罪被害者とその家族の悲劇など、「死」を真ん中に据えて様々な問題点を照らしながら、それは永遠に解答など得られないものだと考えさせるものだった。

ロジカル・モンスターは無敵のヒーロー(性格は度外視)では決してなく、自分が持っている正義に向かって強い光を発することに躍起になって勇み足も踏むし老獪な爺さまには手玉に取られてしまう。そんなちと人間的な白鳥が見れたのは収穫かもしれない。
まあそもそも白鳥がヒーローだなんて最初から思ってないんだけど。

ところで、終盤にちらっとだけ田口公平が登場する。
この時につくづく思った。
グッチーがどんだけ癒しになってるか(笑)。
田口白鳥シリーズの読後感が、問題を多々残したままの終わり方なのに何故か妙に優しかったり爽やかだったりする(私の個人的感覚として)のは田口の存在のおかげじゃないだろうか、と そこまで思ってしまった…。


以下は大なり小なりネタバレ含みます。ガチバラシはしてないけど未読の方はやめておいた方がいい。


人間は誰しも罪を負っている。
それが法で裁けるか否かなどは問題ではない。
人間は誰しも正義を持っている。
それが法に触れるか否かなどは問題ではない。
螺鈿で彩られた異空間は、これまで自分の中に培ってきたはずの価値観を揺らがせる。
角度によって色彩を変える螺鈿のように。

その罪や正義は、ときにとてつもない闇を生み出すのだ。
翠碧院桜宮病院の「闇」はそうして時間をかけゆっくりと澱のように蝸牛の体内に蓄えられていったのだろう。

巖雄院長の正義も、
小百合の正義も、
すみれの正義も、
そして大吉の罪も、

理解はできても私には無条件に頷くことができない。
桜宮一族が、大吉の「罪」を問うたとしても、それはもう八つ当たりの域ではないか。
けれどそう思わずにはいられない彼らが本当にせつなく、辛い。
自分たちの苦しみ、悲しみにしか目が向かず、両親を失った大吉がどんな思いで生きてきたかを思いやる心も、自分たちの大切なものとともに失ってしまったのだろうか。

巖雄院長は戦場を生き延びてきた。
そのせいなのか、自分の正義の前には法などなにするものぞというスタンスでいるように思える。
だから、自分の正義に照らして必要であれば「殺す」ことも「犯罪を隠蔽する」ことも悪だとは思っていない。
現代社会では認められないことと知っていたとしても。
ただ彼の正義は本来、医学の本質に向かっていた。
東城大医学部附属病院が切り捨てた「死」という人間がかならず迎える終末を引き受け、医学の発展の道筋をつけようとしてきた。
巖雄院長の残したものは「クソッタレ」であると同時に素晴らしいものだった筈だ。

その道をほんの少し狂わせたのは、幼く残酷な狂気。
そしてその幼い狂気を引き起こしたのは───

そうやって罪は連鎖していくのだろうか。

闇を光で照らして消してしまおうと言う火喰い鳥。
けれど、光あるところ必ず闇はつきまとう。それは巖雄院長が言うまでもなく、真実なのだ。
そして光が強ければ強いほど闇は深くなる。


ラストシーンのどんでん返しにあいまって、読後は薄暗い不安感が残る。
ただ、大吉の「不運」は実は「幸運」だったことや大吉が失っていた医療への意欲を取り戻したこと、希望も残しておそらくは次回作へと続いてゆくのだろう。

あの螺鈿のかけらがどこへゆくのか。
そして大吉と再び巡り合う時何が起こるのか。
それはまだ見ぬ「続編」に期待。

この先はホントに物語の核心についての感想。未読の方以外はドラッグしてご覧いただけますのでどうぞ。


大吉と桜宮病院との関わりはちと強引すぎたかな?
とも思うんだけど、それがあったからこそ巖雄院長やすみれが大吉を特別扱いしたのだから必要な設定だったのだろうなあ…。
人間関係が狭い範囲で繋がりすぎてて(大吉しかり、立花しかり)、桜宮どんだけ狭いねんみんな関係者かよみたいな感覚が少ししました。偶然にしては繋がりすぎじゃね?
そこんとこが多少ひっかかったけど、あとは田口白鳥シリーズとはがらっと雰囲気が違う感じでこれはこれで好きかも。
舞台や設定が時代がかった感じなので、薔薇の予告とかそういうのも最初は「は?」と思ったけど意外とすんなり入ってきたかも。

あと、小百合の「詰めが甘いんだから」という口癖はあまりに頻繁に出るもんだから後々どっかで使われると思ってたんだけどそこで使いますか(笑)。
途中でさくっと小百合の姿が消えてたので、でんでんむし炎上の時に小百合も一緒に死んだことになってて「アレ?」と思ったのね。
で、「遺体がいっこ足りない」って話になった時に話の流れは「すみれを逃がしたな!」となってたんだけど私は読みながら「いやいや、小百合じゃないの?」と思ってたのよ。だって小百合って逃げる暇山ほどあったでしょ。
だからラストシーンは「どんでん返し」というよりも「あー、やっぱりねー」でした。
あと「レディ・リリィって?」ってリリィなんだから小百合に決まってんだろ!みたいな(笑)
だいたい姉妹でおとなしい方が腹黒いんですってw「絡新婦の理」でもおとなしそうな長女が(ry

ただ、私は「犯人が自殺して終了」みたいな結末はあまり好きではないので、かたつむり炎上は納得いかなかったな…。



でも特に下巻はぐいぐい引き込まれてあっという間に読んでしまいましたね。
面白かったです。


あ、姫宮に運転させるのは日本の交通安全の為に是非やめていただきたいと思います。
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