原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

「事実」の拾い方、使い方

2010-11-01 | 勉強法全般
人生初広島です。路面電車とバスが交錯する街です。街の雰囲気は札幌に似ているかな?札幌をちょっとこじんまりとした感じです。

さて、表題のタイトルで少し。

新司法試験は、法理論もさることながら、事実の吟味が大切である。言い方を変えると、規範とあてはめ。刑事系のヒアリングでは「車の両輪」と表現されていて、さらに、どちらもよくできた答案が優秀であるが、片方しかできていない(どちらかが不十分である)答案が多い旨、述べられています。

これは、スタ論の採点をしていても思うところです。刑事系の試験委員の先生の言うとおり。

で、今日は「事実」について。「事実」を「書き連ねた」(←これまたヒアリングの表現)だけではだめです。それが何を意味するのかを「評価」しなくてはいけない。例えば、

無断転貸の場面でその相手が親族だったという「事実」は、契約違反の意識は希薄、目的物を棄損することはないと信頼する、営利性はない、などの「評価」が可能でしょう。他の事実と併せて、背信性という要件の不該当を導きえます。

ここで大事なことは、社会通念上、相当な評価であることが必要だ、ということです。例えば、窃盗の犯人性の認定において、被害金額が封筒に入った10万円(ただし、全て千円札)であって、被疑者が千円札を100枚持っていた、とします。たまたま千円札を100枚持っていたということもなくはないですが、それは極めて稀。商売でもやっていて、両替にいく途中だったなどの事情があれば話は別ですが、そうした事情がなければまずあり得ない(おそらく、千円札を100枚持っていた経験なんてないですよね。私はないと思う)。こういった場合に、その極めて例外的な場合を殊更に強調して、「無罪の者を処罰することは絶対に避けねばならない。何らかの事情で大量の千円札を所持していることもありえる」みたいな「天邪鬼的認定」をしたらいかんのです。

ですから、まず大事なことは天邪鬼はやめて、素直な認定をすること。ここが出発です(でも、これが結構できないんです。スタ論の採点をしているとつくづく感じます)。

で、そのうえで、適切に事実を①拾い、②評価するためのトレーニングですが、一つには、そうした視点で判例を読むことです。判例は判旨の部分だけでなく、事案も着目しなくてはいけません。判例はどのような事実に着目して結論を導いているか。要するに、「代表的な事実とその評価の仕方」をインプットしてしまうことです。実はこれ、基本書にもわりと触れられています。「判例は○○を捉えて」なんていうくだりは、この点の説明です。さらに言えば、「事例演習」のような演習書、スタ論もこの宝庫です。刑事だったら、石井先生の「刑事事実認定入門」や辰巳から出ている菊池先生の「刑事事実認定特訓講座」が良い参考書になります。私は、両方とも読みました。

「事実」(あてはめ)で悩んでいる皆様、「代表例のインプット」という方法を少し参考にしてみてください。チャート式数学のイメージです。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿