「詩客」今月の自由詩

毎月実行委員が担当し、その月に刊行された詩誌から1篇の自由詩を紹介します。

第5回 鏡の諸体 モハメド・ベニス(モロッコ)・和訳 夏石番矢 森川 雅美

2017-10-22 14:01:23 | 日記
 詩誌を捲りながら今月もいまひとつ良い詩がないな、と思っていたところに、こんな作品が飛び込んできた。

  鏡の諸体
  
モハメド・ベニス(モロッコ)
  和訳 夏石番矢


  窓のうしろの
  このすすり泣き
  冬の寒さの中の月

  二つの声を持つ
  この叫び壁に立って
  届く

  この粗野
  生でも死でもない
  大河に凍る吐息

  大通りから大通りへ
  この憂鬱
  黒点

  この喪は
  からのままの寝台
  空は孤独に似る


 創刊から20周年を迎えた「世界俳句」76号に掲載された俳句だ。本来は独立した俳句の連作だが、このように並べると、優れた1篇の自由詩になる。誌面にはモロッコ語も記載されているが、今回は割愛した。
 ぎりぎりに切り詰められた律が、誰とも特定できない叫びのように、現在と歴史の風景を立ち上げる。夏石の役も良く言葉の接続と切断の連鎖が、緊張感をつくり、奥行きのある風景を声として立ち上げる。
 この緊張を立ち上げるのは、内在化した俳句の律であることはいうまでもない。戦後詩の巨人の一人、吉岡実を思う。
 言葉はやがて飛翔し、神話的原点にまで絞られていく。
 自由詩とは何か、考えさせる秀作。

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