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短歌周遊逍遥(仮題)〔旧「詩客」サイト企画・「日めくり詩歌」〕

3名の歌人が交替で短歌作品を鑑賞します。
今年のご執筆者は奥田亡羊、田中教子、永井祐(五十音順)のお三方です。

2013/3/6 〔奥田亡羊・5〕

2013-03-06 00:00:00 | 奥田亡羊
ひとすぢに(ささ)げむとするおこなひは時を()えつつ(かむ)ながらなる                      斎藤茂吉『萬軍』
                         
2012年8月、秋葉四郎氏の編著で
「茂吉の幻の歌集『萬軍』」という本が出版された。
『萬軍』は1945年7月に「決戦歌集」としてまとめられながら、
敗戦によって出版されなかった歌集である。

この本で私ははじめて『萬軍』を読んだ。
今となっては空々しい、激昂型の戦争詠ばかりがならぶ。
最初はそれをどう読めばいいのかよくわからなかったが、
読み進むにつれ、次第におそろしい歌集だと思うようになった。

もし日本という国が敗戦とともに世界から消滅していたら、
この歌集はテロリストの聖典になったかもしれない。
テロリストの目で読むと一首一首がにわかに生気をえて、
異様な光彩を放ちはじめるのだ。

われながら馬鹿げた空想だと思う。
しかし、日本が滅びても茂吉は残るというイメージは
奇妙な屈折感をともなって私に迫り、私をたじろがせた。

掲出歌の「神ながら」は神意のままに、自然に、という意味。
万葉集の古歌に「葦原の 瑞穂の国は 神ながら 言挙げせぬ国…」(巻十三・3253)がある。
本居宣長は『古事記伝』の序文「直毘霊」(なおびのみたま)で、
この歌をひきつつ日本古来の「道」を説いた。


執筆者略歴
奥田亡羊(おくだぼうよう) 1967(昭和42)年生まれ。「心の花」所属。
2005年、第48回短歌研究新人賞受賞。2008年、歌集『亡羊』により、第52回現代歌人協会賞受賞。