ひとすぢに献 げむとするおこなひは時を超 えつつ神 ながらなる 斎藤茂吉『萬軍』
2012年8月、秋葉四郎氏の編著で
「茂吉の幻の歌集『萬軍』」という本が出版された。
『萬軍』は1945年7月に「決戦歌集」としてまとめられながら、
敗戦によって出版されなかった歌集である。
この本で私ははじめて『萬軍』を読んだ。
今となっては空々しい、激昂型の戦争詠ばかりがならぶ。
最初はそれをどう読めばいいのかよくわからなかったが、
読み進むにつれ、次第におそろしい歌集だと思うようになった。
もし日本という国が敗戦とともに世界から消滅していたら、
この歌集はテロリストの聖典になったかもしれない。
テロリストの目で読むと一首一首がにわかに生気をえて、
異様な光彩を放ちはじめるのだ。
われながら馬鹿げた空想だと思う。
しかし、日本が滅びても茂吉は残るというイメージは
奇妙な屈折感をともなって私に迫り、私をたじろがせた。
掲出歌の「神ながら」は神意のままに、自然に、という意味。
万葉集の古歌に「葦原の 瑞穂の国は 神ながら 言挙げせぬ国…」(巻十三・3253)がある。
本居宣長は『古事記伝』の序文「直毘霊」(なおびのみたま)で、
この歌をひきつつ日本古来の「道」を説いた。
執筆者略歴
奥田亡羊(おくだぼうよう) 1967(昭和42)年生まれ。「心の花」所属。
2005年、第48回短歌研究新人賞受賞。2008年、歌集『亡羊』により、第52回現代歌人協会賞受賞。
2012年8月、秋葉四郎氏の編著で
「茂吉の幻の歌集『萬軍』」という本が出版された。
『萬軍』は1945年7月に「決戦歌集」としてまとめられながら、
敗戦によって出版されなかった歌集である。
この本で私ははじめて『萬軍』を読んだ。
今となっては空々しい、激昂型の戦争詠ばかりがならぶ。
最初はそれをどう読めばいいのかよくわからなかったが、
読み進むにつれ、次第におそろしい歌集だと思うようになった。
もし日本という国が敗戦とともに世界から消滅していたら、
この歌集はテロリストの聖典になったかもしれない。
テロリストの目で読むと一首一首がにわかに生気をえて、
異様な光彩を放ちはじめるのだ。
われながら馬鹿げた空想だと思う。
しかし、日本が滅びても茂吉は残るというイメージは
奇妙な屈折感をともなって私に迫り、私をたじろがせた。
掲出歌の「神ながら」は神意のままに、自然に、という意味。
万葉集の古歌に「葦原の 瑞穂の国は 神ながら 言挙げせぬ国…」(巻十三・3253)がある。
本居宣長は『古事記伝』の序文「直毘霊」(なおびのみたま)で、
この歌をひきつつ日本古来の「道」を説いた。
執筆者略歴
奥田亡羊(おくだぼうよう) 1967(昭和42)年生まれ。「心の花」所属。
2005年、第48回短歌研究新人賞受賞。2008年、歌集『亡羊』により、第52回現代歌人協会賞受賞。